第五話 廃城と拠点
骸骨になった感想は、一言で言えば最悪だ。
前までは睡眠や食事でストレスを解消していたが、今はそれすら出来ない。
味が分からないんだ。眠気も湧かないし、触覚が無い。触れた感覚が無いんだ。
道中に色々と食してみたが、上手そうな果実と木の皮を食べても違いが分からなかった時は絶望した。
幸いなのはこの身体では食事をする必要も、睡眠をとる必要も無い事だ。と言っても精神的な苦痛や疲労は溜まるばかりだ。
ここに来て湧いて来るのはアリウスへの怒りだった。必ず復讐する事を誓い、俺は馬を走らせる。
途中で魔物に襲われたのか死んでいた商人の荷物から地図を拝借し、それを頼りに走り続けた。
そして二週間が経ち、ようやく王国の国境 最北端にある大森林に辿り着いた。
ここは【世界樹の森】として亜人達の住処になっていて、王国の追手から身を隠しながら戦力を蓄えるには最高の場所だ。
「さて」
カタ、と喋ると音が鳴った。
この音が改めて俺が骸骨になってしまった事を自覚させられる。
懐に入れて置いた、骨の鼠五体を死霊誕して、そこらにばらまいた。
「死体や生物の集落、何でもいいから探して来い」
その命令に従って、鼠たちは森に散開して行った。
鼠たちには俺がどこにいるのかを分かる様にしているので、何かあれば呼びに来るはずだ。
それはそれとして、俺は馬に乗って森に入った。
ここの木々は高く、ぱっと見でビル二十階程ありそうな木々が立ち並んでいる。
世界樹の森、か。この一本一本が世界樹とか言う大層な名前が付けられていても、俺は驚かないな。それほどに壮大であり、立派な木だ。
しばらくの間、美しい造形をした木々に見惚れていると鼠が戻って来た。
『チュー』
「ん?」
どうやら何かを見つけたらしい。
そのまま案内させると、三十分程してひらけた場所にやって来た。
「これは廃城……、か?」
そこにあったのは古びた城だ。戦いの痕跡が見られる。もうほとんどが植物に浸食され、随分と昔の城だと言う事が分かった。
だが、建物自体は劣化の跡が少ない様だ。
掃除をすれば住めなくもないだろう。
それと同時に、沢山の魂がこの城の中を彷徨っているのが分かった。
これほど復讐を決めた死霊術師に向いた拠点があるか? 無いだろう。
「蘇れ。この世に未練を残し、彷徨う霊達よ。―――――【死霊誕】!」
やがて、どたどたと激しい音を立てて俺の前に蘇った死霊が集まる。
『コノ城ノ使用人ヲシテオリマシタ、“幽霊”ハココニ』
十体程の美しい女性のメイドの幽霊が現れる。
彼女らは物をポルターガイストで持つ事が出来るので、生前と同じように城の雑務を任せるとしよう。
『“デュラハン”ノ元騎士、ココニ見参シマシタ』
全身が甲冑の戦士が百体、俺の前に跪く。
土の下に埋められていた様で、土を掘り返して出て来た様だな。
全身が泥にまみれて汚らしい。後で川か何かに入れて洗うか。
『彼ラハ喋レナイノデ私ガ代役トシテ発言スル事ヲオ許シ下サイ』
「許す」
『スケルトン二百体、ココニ見参。計三百十体、我ラガ王ヨ。指令ヲオ与エ下サイ』
皆が俺の前で跪き、平伏する。
「よし。まずはデュラハン。貴様らは川で身体を洗って来い。臭くてかなわん」
『ハ』
「次にメイド達、お前らは城の中の清掃をしろ。スケルトンの指揮権はメイドに預けるから、労働力が必要なら好きに使え」
『カシマリマシタ』
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