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間話 如月雫


 目が覚めて、宮田君が投獄されたと聞いた時には耳を疑った。


 すぐに起きて彼が捕まっているという地下牢まで行き、扉を叩いたけれど、騎士団長に意識を奪われて、目が覚めたら寝室に閉じ込められていた。


『この世界に来て間もないから、寝室で身体を休めて下さい』


 というのが言い分だった。どこの世界でもこうなんだ。


 私は宮田君を助け出す事が出来ない、自分の無力を呪った。


 【剣聖】と言うくらいなら、剣さえあればこんな鉄の扉なんて斬れるのだろう。


 ただ、ただ。宮田君を助けられるぐらいの力が、発言力が欲しかった。


 そして異世界に来て六日後の深夜、城が急に騒がしくなった。


「何これ、襲撃? そんな……」


 この時、如月雫は知らなかったが【剣聖】になって強化された五感によって、城の状況を把握していたのだ。


 その時だ。後ろに気配というより、何かがいると直感的に振り返った。


「チュー」

「ね、鼠!? あれ……、骨? なの?」


 天蓋付きのベッド、その枕元に一匹の鼠がいた。しかしその姿は体毛どころか肉すらついておらず、完全に白骨化した鼠だったのだ。


 しかしその小さな口で手紙を咥えていて、私の枕元に置くと事切れた様に崩れ落ちた。


 しばらく待ってもその鼠はもう動かなかったので、枕元に置かれた手紙を開く。



 怒ってくれてありがとう。元気でね。

 


 一枚目の手紙には、ただそれだけが書かれていた。


 短い言葉だった。その文字が日本語で書かれていて、宮田君のものだと分かった。


 どうして? どうやって? そんな事はどうでも良かった。


 今はただ宮田君が無事という事だけで十分だった。




 後日、私はアリウス王女に誘われて、二人だけのお茶会に参加していた。女性という括りならば工藤さんもそうだが、今日は二人だけが良いと言われてしまった。


 まあ気持ちは分かる。


 私は宮田君が捕まって、あの事件が起きる前までは断固として訓練に参加していなかった。しかし事件が終わった後は真剣に訓練に取り組み、着々とレベルアップして行った。


「ミヤタさんの件は残念でした。まさか、死刑を取り下げる前にあの事件に巻き込まれて……」


 アリウス王女は分かりやすい嘘泣きをする。 


 上手な演技だが、同じ女にはそれが嘘だとはっきり分かった。


 何よりもあの手紙は宮田君のものだ。あの夜に死んだなんてありえない。


「……私も悲しいですけど、終わった事ですから」

「そ、そうですね! きっとミヤタさんも喜ぶと思います!」


 あの事件の夜、私に送られた手紙の二枚目に書いてあった、「この国の人間を信用するな」という言葉の意味をずっと考えていた。


 今になって良く分かる。この国の人達は嘘つきばかりだ。


 旧華族として、様々なパーティに出席して来た事で鍛えられた私の洞察力は、それを容易に見抜いた。


 だから私は誰も信用しない。

 

 例え同じクラスメイトだった人達でも。誰も。


 宮田君以外は信用しないし、信頼もしない。


 あまり日本にいた頃と変わりがないけれど。


「そうだ! キサラギさんとサワムラさんの仲はよろしいのですか?」


 お茶会で上っ面の会話を続けていると、当然アリウス王女が話題を変えて来た。


「はい? いえ、別に悪くは無いと思います、けど……」

「まあ、そうなんですね! 私もお二人の相性は抜群だと思っていたんですよ!」


 あの夜の出来事の後、『俺さ、国王様を助けたんだぜ!? 百や二百以上の幽霊を騎士団長と背中合わせで戦ってさ、女の幽霊をこの剣で切り裂いたんだ!』と自慢げに話しかけて来たが、厭らしい視線を私の胸に向けて来た事に気付き、嫌悪感を覚えてその自慢話はずっと聞き流していた。


 仲は良くないが、宮田君が捕まった時に「やっぱりな、あんなクソ野郎は死霊術師だと思ったぜ!」とか、宮田君を侮辱するような言葉を吐いた彼の事は好ましく思っていない。


 相性が良いとか、そんなわけは絶対にない。


「そうだ! 次のお休みにでも、お二人でお出かけに行ってはいかがでしょう! ちょうどここに臣下の者から貰った演劇のチケットがあるんですよ」


 狙いが見え見えだ。私は大きな溜息を吐きたくなるのを我慢して、紅茶を啜る。


 恐らく、この王女が求めているのは、【剣聖】と【ソードマスター】の血を継いだ子供だろう。


 人材が足りない王国なら喉から手が欲しくなる“人材”でしょうね。


 本当に吐き気がする。


「……申し訳ありません。私は今、剣を極める事しか考えられないので」

「そう、ですか……。残念ですが訓練頑張って下さいね。どこか行きたい場所があった時は遠慮せずに言って下さいね?」

「ありがとうございます、アリウス王女」


 とりあえず嘘を吐き、その場をやり過ごした。


 まず大前提として沢村君が私の恋愛対象に入る事なんてありえない。


 確かに沢村君は男女問わずに好かれていたけど、かれの言動は最低そのものだ。付き合った女性を捨てて、すぐに次の女性に乗り換える。そういう噂話を耳にして、実際に被害にあった女の子も友人に何人もいた。


 喋る時はいつも私の胸を見ながら話すし、人に対しての悪口を言っているのも耳にする。今も奴隷を買って、夜は好き放題しているらしい。


 そんな人と結婚して、子供を作るなんて反吐が出る。


「……訓練の時間なので、失礼します。アリウス王女」


 私はアリウス王女に断って、お茶会の席を後にした。


 日本にいた頃も親戚のパーティでドレスは着ていたけれど苦手だ。すぐに着替えたい。


「おう、雫! この後良かったら街に行かな――――」

「ごめん。訓練があるから」

「じゃ、じゃあ一緒にーーーー」

「一人でやりたいの」

「そ、そうか……、頑張れよ……」

「うん。ありがとう」


 部屋に戻る道中、奴隷の女の子を連れた沢村に会った。 


 女の子を連れているのに、他の女の子を誘うとか頭がおかしいと思う。


 あんなのに頷くわけがないじゃない。馬鹿馬鹿しい。


 それよりも早く、早く力を付けて、お金を貯めないと。


 待っていてね、宮田君。絶対に貴方を一人にさせないから。





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