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第十八話 王国滅亡編 王城突入 如月雫vs沢村寅彦

「止まれい! この先は偉大なるローレンツ一族の居城であるぞ! この門を通りたければ、我らを倒して行け!」


 王城に通じる一つの橋の上に、騎士が勢ぞろいしていた。


 その先頭にいる男に見覚えがあると思えば、あの時の騎士団長だった。


「【黒煙】」

「「「【突風(エアストール)】!」」」

「チッ。面倒だな」


 手早く視界を遮ろうと【黒煙】を放ったが、風魔法で吹き飛ばされてしまった。


 よく見れば、騎士達の背後の王城の門が閉ざされていた。


 王都の壁門よりも分厚く、簡単には通れないだろう。


「私が盾と城門を斬るよ」

「……わかった。じゃあ、騎士は任せろ」


 剣を鞘から抜く音が聞こえる。


 俺もまた、魔法の準備をした。


「【乱れ牡丹】」


 ヨシヒロの背から跳び上がった雫から放たれる数百の斬撃が、騎士達が持つ重厚な盾と鎧を切り裂く。


 無防備になった騎士達に向けて、ヨシヒロは疾走した。


「き、貴様ぁああっ!」

「【黒槍(ダークジャベリン)】!」

「グッ、アァァァ……ッ!!」


 大気中に無数の黒い槍が一斉に騎士達を貫いた。


 騎士団長は最後まで抵抗していたが、五本目の槍が喉に刺さり息絶えた。


 騎士を殲滅した今俺達を阻む壁は、門のみ。


「――――【八重椿】」


 まるで八筋の花びらが舞うかの様に、美しい剣筋が門に奔った。


 雫に似た、美しい剣だ。


 出来る限り、雫の手を汚したくない。


 崩れた門を通り抜け、俺達は王城に突入した。


 すでにほとんどの使用人が逃げたらしく、城の中に人の気配は全く無かった。


 それでもアリウスがここにいる事を確信し、ヨシヒロに階段を登らせる。


 二階、三階、そして最上階に辿り着くと――――、殺気。


「ッ、止まれぇい!」

『ブルゥッ!?』


 ヨシヒロは懐疑的に唸り声をあげながら、しっかりとその場でとどまった。


「惜しい。もう少しでその馬ごと叩き斬れたのによお」


 ああ、懐かしい声だ。


「久しぶりだなぁ、雫!」

「……ええ。そうね」


 どうやら俺には気付いていないらしい。


 わざわざ俺の背に隠れている雫に声を掛けていた。


「俺の事は分からないのか?」

「はあ?」


 沢村は首を傾げる。


 俺だ、と言えばさらに首を傾げた。


「……宮田琥珀だ」

「っ、は? ぷっ、ぷはははは! テメェ、そんなに情けない面になったのか!? だせぇなあ! くっ、はははは!」


 瞬間、後ろから僅かに殺気が漏れた。


 その事に気付いていない沢村は散々笑った後、剣を抜いて俺達を差した。


「でぇ? 復讐でもするのか?」

「珍しく察しが良いな。その通りだ」

「見当違いな復讐するんだなぁ、まあ【死霊術師】はどこまで行っても【死霊術師】ってな」

「見当違いはそっちだが、別にそこを議論するつもりは無い。どの道、お前の事は殺すつもりだからな」

「お前が? 俺を? 出来るわけねえさ」

「やってみるか?」


 俺は魔力を僅かに解放すると、沢村はくつくつと笑った。この程度の魔力で余裕なら、レベル50は行っているな。


「まあいい。で、どうして雫はそっちにいるんだ?」

「別に私の勝手でしょう? 貴方には関係ないわ」

「関係はあるさ。お前は俺の将来の妻になる女だ」

「ありえないわ」


 嫌そうに顔をしかめて、雫は断言した。


「だって、貴方、私の胸ばかり見ていたでしょう?」

「は、はあっ!?」

「身体だけしか見ない貴方なんかお断りよ。それに私は旦那様をもう見つけたから」


 そして、雫は沢村に見える様に俺の背に抱き着いてきた。


 ぎゅ~~っと力を込めて。


「…………あ?」


 どうやら地雷だったらしく、沢村は怒りの形相になって剣を握る手に力を込めた。


 今すぐにでも襲ってきそうだったが、何かを思いついたらしく、汚い笑顔になった。


「まあ、お前が敵になったんならちょうどいい、俺の奴隷にして犯してやるよ! その馬鹿デカい胸も揉みしだいて――――」

「……ほう」


 殺意が湧く。


「ッ!」

「駄目よ。アイツを斬るのは私の役目だから。決着と、決別のためにも」


 思わず、本当に殺してやろうとした所を、雫に制止された。


 本当に感情のコントロールが難しいな。反省だ。今後は気を付けよう。


「……だが」

「大丈夫だから。私にやらせて。お願い」

「分かった。怪我には気を付けろよ」

「うん、ありがとう」


 雫の眼を見つめながら手を握ると、握り返してくれた。


 ヨシヒロから雫が下りる。


「おいおいおい…………、俺様の前で………、いちゃついてるんじゃねえよぉおおおおお!」


 愛し合う者同士の睦み合いだと言うのに、他人の沢村が急に激昂した。


 手にしていた紅蓮の刃紋を描く剣を振るう。


「宝剣ガルビエス! これは数百年前に、南の都市を襲っていたという竜を斬ったと言われている伝説の剣だぜ! 今なら俺の嫁にしてやってもいいんだぞ!?」

「……愚かな人ね」


 雫は白い剣――――、聖剣を抜いた。


 瞬間、雫は風となった。


「ぐっ、雫、テメェ……!」

「遅いわ」


 その速度はレベル50越えである【ソードマスター】ですら追い付けていない。雫のレベルが40前後だが、レベルの差を考えると矛盾が生じる。


 やはりあるのだろう、職業格差が。


 今までは人との戦闘が少なかったので、確信する事が出来なかったが今は証拠が揃った。


 職業にも様々な種類がある。


 その中でも剣を扱う職業であれば、上から【剣聖】、【ソードマスター】、【剣士】と俺が知っているだけでも三つがある。


 例えばレベル100の【剣士】と、レベル50の【ソードマスター】が戦ったとして、【ソードマスター】が負けるだろうか? 答えはノーだ。


 どれだけレベルアップしたとしても、【剣士】では一番になれない。レベル300の【剣士】でもレベル100の【剣聖】には勝てないのだ。


 だからこそ、この世界では優秀な職業が優遇される。アリウスが優秀な職業を取り込もうとするのは、こういう事も影響しているのかもしれない。


 そして。レベル40の【剣聖】に、レベル50の【ソードマスター】では敵わない。


「くそっ、くそおおおおおおっっ!!」


 全く自分の剣が通用せず、飄々と躱される事に気付いた沢村が怒りの声を上げた。


 みっともなく剣を振り回す。


 あれでは【剣聖】に敵うはずが無い。


「――――【菊一文字】」


 一刀両断。沢村自慢の、宝剣ガルビエスは雫によっていとも簡単に折られた。


 沢村はその場に尻もちを突き、信じられないという表情で雫を見上げた。


 すでに勝利を確信した雫は、剣を鞘に戻して冷たい視線を沢村に向ける。


「沢村君。私、貴方の事が嫌いだったわ」

「え、え? 冗談だろ。だって……」


 まだ雫が自分の将来の嫁になるとかいう幻想を見ているのか。どこまでも愚かで、可哀想な男だ。


「貴方、琥珀君の悪口を言っていたでしょう? 聞いていたわ。しっかり覚えている。私の大好きな人を馬鹿にする人を、好きになるなんて絶対にありえない」


 ついに、沢村の顔が歪んだ。


 雫は自分の物にはならないし、自分の命がもう終わるという事を悟ったのだ。


「待――――」

「さようなら、沢村君」


 鞘から高速で引き抜かれた剣は、沢村の首と胴を別れさせた。


 血の一滴すら剣身に付着させない、見事な剣だ。


「行こう、琥珀君」

「ああ……」


 雫は沢村の死体には見向きもせず、ヨシヒロに跨った。


 最後の敵が待つ場所に向けて、俺達は走り出した。

お気づきの方もいるかもしれませんが、雫の技は四十八手の名前になっています。


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