間話 アリウス・フィア・フィア・ローレンツ3
「御父様、ただちに全国民に武装させて下さい!」
「お、落ち着くのだ。アリウスよ、まずは茶での飲みながら説明を……」
「その様に悠長な事を言っている場合では無いのです! 早くしなければ王都は落ちますよ!」
「ッ……、それほどに深刻か?」
我ながら、これが父親だなんて信じられない。
そもそも軍に囲まれているなんて、真っ先に王に知らされる事態のはずだ。
だと言うのにこの男は会議を開こうとせず、自分自身は椅子に座って紅茶を飲んだまま……。
「良いですか? 推定でも敵の総数は百万。その全てがアンデットの不死身の軍隊です。あれに対抗するには軍だけの力では無く、数。すなわち全国民が武器を取らなければ戦いにもならないのですよ」
なるべく優しく、そして分かりやく伝えたつもりだ。
それでも、かなり口調が荒っぽくなってしまった。
御父様が若干、肩を震わせて驚いていた。
「しかしだな、そんな事を民に強制すれば、後々の反発が大きくなり、私の立場が危ういものに……」
「なら! 全権を私に与えて下さい!」
「よ、よかろう。其方に全権を与える」
「決定ですね。それなら、国王はこの部屋に待機し、口出しせずに紅茶でも啜っていて下さい!」
「りょ、了解した……」
「それでは!」
扉を閉める際にバタン、と大きな音を立ててしまった。
しかし、それ程に腹立たしかった。
「アリウス様」
「状況は?」
「敵軍は三方向に展開し、陣を組んでいる様子。さらに一方向のみに逃げ場を作り、市民の意識を誘導していると思われます」
「……ッ、ただのリッチにこんな事が出来るのですか?」
騎士の報告を受け、親指の爪を齧る。
こんな状況では『王女』の皮は被る暇も無い。
計画も何も、この国が無くなってしまえばすべて無に変えるのだから。
「会議を開く時間が惜しいです。全軍の指揮官に通達して下さい。『貴族平民奴隷老若男女に関係無く、全員に武装を指示し、戦闘に備える事』と。それから、敵はアンデット。教会にも連絡して、前線に参加してもらえるように要請して下さい」
「は。直ちに」
優秀な犬、いや騎士だ。
もし生き延びたなら、彼を側近として置いておくのもありかもしれない。
とにかく、この戦いに生き延びなければ意味が無いのもまた事実だけでど。
「皆さん、お力をお貸しください」
そして今はもう三人になってしまった勇者に向けて、そう声を掛けた。
「まあ別に良いんだけどよう、なーんかやる気でねえんだよなあー。雫も帰って来ねえしよー」
トラヒコが言う。
彼らは皆、危機感が無いと思える程にだらけ切っている。
自分達が死の瀬戸際にいるとも思っていないの?
まあ、訓練では命のやり取りをするような真剣勝負なんて無かったから、仕方のない事か。
それでも彼らがこの国の最高戦力になった事は間違いない。
私は溜息を吐き、それからトラヒコの耳元に口を近付ける。
「……もし生き延びられたら、抱かせてあげても良いですよ?」
「ッッ! ほ、本当か!?」
「ええ」
にこりと笑う。
誰も「私を」なんて言わなかったけれど。
「他の皆さんも、この戦いに勝利した暁には国中から美女集めましょう」
「「おお!」」
【弓師】ロクタ、【召喚師】テッペイ、【魔術師】ダイチもやる気を出した様で一斉に立ち上がった。
男は馬鹿な生き物だ。
まあ、扱いやすくて助かるけれど。
「さて、トラヒコは私の護衛としてこちらに残って下さい。他の皆さんは思う存分、その力を前線を振るって下さいね」
「「「おう!」」」
意気揚々とトラヒコを除く勇者は城から出て行った。
「へへっ、じゃあ俺は先に摘まみ食いでも……」
「きゃっ、もう……。駄目ですよ、全てが終わった暁にはたっぷりと……」
私はトラヒコを制し、城の窓から王都の壁際にて行われている戦いを見守るのだった。
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