第十二話 王国滅亡編 序章3
侵攻開始から一時間。
都市人口の六割は死に、残りの四割は何とか耐え忍んでいる状況だ。
裏門には逃げられない様に、別動隊として大型の屍魔物三百を配置している。暗闇である事も相まって実際によりも大群に見えるはずだ。
しかしそれも時間の問題だ。
この作戦は王国をたったの三週間で滅亡させる。超最速の侵攻計画だ。
そのために情報を他の街に持って帰らせてしまえば、防衛を固められて三週間で王都陥落は不可能になる。
だからこそ、神速にこの都市を落とさねばならない。
都市中に響き渡る悲鳴を全身に受けながら、俺は都市の中央にやって来た。
噴水広場だが、何やら巨大な石碑がある。
【ココニ古ノ悪竜ガ埋没ス】
どうやら、この地下に古い時代の竜の死体が埋められているらしい。
何をやったのか知らないが、悪竜と言うぐらいだから、かなりやばい竜だったのだろう。
そう思っていると強烈な魂の波動を感じた。
魂が大き過ぎて、今までそこにいると気付かなかった。
意識的に魂の輪郭を明確にする。
『ム?』
そして、ようやくその魂が見えた。
『我ガミエルノカ?』
「ああ。俺は死霊術師だからな」
『ナント! ナラバ、コノ騒ギモ汝ノ仕業カ!?』
「そうだが……、お前は何なんだ?」
王城の地下牢で使用人の魂が光の粒となって現れたが、今回はさらに大きい。
俺の拠点にした廃城ぐらいの大きさだ。
『我ハ漆黒竜ファフニール。三百年前、コノ街ノ祖先ニ騙サレ殺サレタ者ダ』
ほう。光の粒の形をした魂が現れた事と言い、あの時と同じだな。
『アノ恨ミ、今モ忘レヌ!』
目視できるほど、怨念が黒い靄となって渦巻く。
実際に周囲に影響が出る事は無いが、思わず仰け反りそうになる。
「……一体何があったんだ?」
『我ハ何百年モノ間、コノ都市ヲ護ルタメニ戦ッテイタノダ! ナノニ、奴ラハ裏切ッタ!』
怒りが、怨念がさらに激しく渦巻いた。
『ソノ日祭リガ開カレタ! 酒ヲ飲ミ、女ガ踊リ、ソシテ気ガ付クト我ハ軍隊ニ囲マレテイタノダ!』
罠だったのか。
都市を護るために戦い、裏切られた。
そりゃあ、怒りも湧くだろう。
『王女ハ言ッタ、「オ前ノ鱗デアクセサリーガ作リタクナッタ」ト。酒ニハ毒ガ混ザッテイタガ、我ハ暴レタ。何十ヲ嚙ミ砕キ、何百ヲ薙ギ倒シタ。シカシ、毒ガ巡リ我ハ力尽キタ』
酒とは本来、身体に毒だ。
思考が鈍り、身体機能が低下する。
それに加えて毒も飲まされたなら、如何に竜であっても抵抗するのは不可能だろう。
『我ハ生キタママ鱗ヲ剥ガレ、牙ヲ抜カレタノダ! 臓物ヲ引キヅリ出サレ、心臓ヲ抉ラレタ! 我ノ血ヲ呑ム悪魔ノ様ナ王女ヲ見タノダ! 奴ヲ、アノ血族ヲ我ハ許サナイ! 必ズ償ワセテヤル!』
死霊術師である俺でも身震いする程の怨念だ。
ここでこいつを見放すのは惜しい。
「……なら、お前に復讐の機会を与えてやる」
『本当カ!?』
「ああ。だが、数百年も経っていればお前の死体はもう無いだろうが……」
『ソレナラバ問題無イ。竜ノ肉骨ハ何万年経トウガ朽チル事ハ無イ』
竜の肉や骨は朽ちないのか。
なるほど、王女が欲しがるのも分かるな。
「【死霊誕】!」
この地面の遥か地下に埋まる、竜の屍に向ける。
届け。届け。
少しして一瞬、都市が揺れた。
揺れはどんどんと激しいものに変わり、次の瞬間には舗装された地面を突き破り、一頭の竜が現れた。
血色が悪く、とても美しいとは言えない鱗、腹の大穴が開いていて内臓が取られた事が分かる。抉られた眼球は暗く常闇を写している様だ。
「この都市に生きる者の命を奪い尽くせ」
『クッ、ククク、クハハハハ!』
竜――――ファフニールは高笑いをして、上空に高々と跳び上がった。
「死ネェエエエ! 【死竜吐息】!」
そしてファフニールは上空から、紫色の瘴気を放った。
配下の視界を通してみれば、あの息を浴びた人間が次々に倒れ、次の瞬間にはゾンビに変貌して動き出したと言う。
どうやら使役はしていない様だが、対象を死に至らしめ死霊に変えてしまう。
凄まじい能力だ。
『フン。アッケナイ』
まあ本人は全然満足していないみたいだけどな。
かなり大きい鼻息を吐いて、俺の前に降りて来た。
作者の励みになるので「面白かった」「続きが読みたい」などと思ってくれた方は高評価やブックマーク、感想などを是非よろしくお願いします。