第十一話 王国滅亡編 序章2
「さて、二手目を打とうか」
全軍が都市に雪崩れ込んだのを確認した俺は、本来なら不必要な程に大袈裟に手を振り上げた。
「【死霊誕】!」
数分が経ち、新たに都市中から悲鳴が上がった。
これで都市の内部にある墓地から、無数の兵が立ち上がる。
その数は……、ざっと二万くらいか。
いくつか実験したんだが、腐敗が激しいと流石にアンデットにはなれないらしい。
その事も考えれば白骨化してまともに形が残っているのが二万でも、納得が行く。
とにかくこれで軍は各地に散らばって対処しなければいけない。かなり楽な侵略になるはずだ。
さて、次。
俺は馬に乗って、ベータに教えられた地図を頼りにそこに向かう。
やはり都市は混乱に陥っていた。
教会に助けを求めに住民たちが集まっている。
「み、皆さん落ち着いて下さい!」
「道を開けて下さい!」
「聖水を届けなければいけないんです!」
全く、教会も可哀そうだな。
阿呆どものせいでまともに対応できないんだから。
「黒槍」
ひとまず邪魔な住民を殺しておきたい。
空中に漆黒の槍が無数に現れ、次の瞬間には住民たちを串刺しにしていた。
「な、あ……!?」
三手目。対アンデットに精通する教会を潰し、心をへし折る。
聞いた話によると、この教会に入信している人間は多くいるらしい。
ならば心の拠り所を消してしまえば、彼らは戦意を失うだろう。
「何故入れるんだ!?」
うん? 結界でも張っていたのか?
別に平気なんだが、あまりに教会の人間が驚いた顔をしているので気を使った。
「ふむ。まあ、少しヒリヒリするな」
「ば、化け物め……!」
「恐らくリッチよ!」
「司祭様たちを呼べ! それまでは聖水で耐えるんだ!」
一人の男がそう呼びかけ、教会の人間はすぐに動き出した。
手に持っていた聖水を俺目掛けて放つ。
馬鹿正直に浴びてやる事も無いので、透明な障壁を張って防ぐ。
「よくぞ耐え忍んだ!」
「あとは我々に任せておれ!」
「司祭様!」
五人の法衣を纏った、初老の男達が現れた。
何やら魔力を練り上げているが、どんな魔法を使うんだか。
「「「「我らの母よ。愛しの母よ。悪しき魂を祓い、再び安寧を「黒弾」――――ッ!」」」」
呪文が長い。何で俺が見える場所で唱えるんだよ。
そんなに長かったら、狙うに決まっているだろう。
馬鹿なのか?
「き、貴様、司祭様にぃぃ!」
「うるさい」
司祭たちと同じように、黒い弾丸で眉間を撃ち抜いて殺した。
馬鹿らしい。こんなものを俺は警戒していたのか?
デュラハンが十体もいれば十分に対処可能だっただろうに。
それから俺は建物の中に入り、一人一人確実に殺して行った。
最後に訪れたのは祈りを行う礼拝堂だった。
扉を開けば悲鳴が上がる。そこには百人近い人間は詰め込まれていた。
「どうか、どうか御慈悲を……。子供達だけでも……」
シスターや、子供達か。
心は痛むが俺も解呪するために、お前達を殺さないといけないんだ。
せめて痛みの無い死を……。
「死」
礼拝堂にいた人間が糸が切れた人形の様に一斉にその場に崩れ落ちた。
弱い人間なら確実に、痛みが無い安らかな死を与える魔法だ。
「…………しんどい」
無数の骸を踏み越えて、十字架を見上げると自然と言葉が口に出ていた。
神よ。貴方は、俺の事をどう見ているんだろうな。
俺は悪なのか?
この世界に連れて来られて、理不尽に投獄され、そして呪いまで掛けられた。
それを解呪するために人を沢山殺す。
俺は罪人か? それとも被害者か?
……出来るなら、ここで弱音を吐いた事は忘れてくれ。
俺はもう止まらない。最後までやるつもりだ。
「また来るよ。神様」
そう言い残して、俺は教会を後にした。
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