第十話 王国滅亡編 序章
作戦決行の日である。
闇夜に紛れて、全軍を侵攻する。
事前に最も近い場所にある都市を確認し、その前に連なる村は分隊を派遣して滅ぼしておいた。
何の障害も現れる事無く、軍は都市の目と鼻の先にまで辿り着いた。
この都市を落とす事は容易いが、二つの障害がある。
一つは兵力差。都市の住民は総勢で五十万、世界樹の森に近いため亜人によって攻め込まれた時のために五万の軍が在住する主要都市だ。
対してこちらは一万で、下級アンデットばかりだ。しかし数の力で圧殺すれば、軍であろうといずれは落ちる。こちらは殺した相手をアンデットに出来る上に、墓地の死体すらアンデットに変えられる。兵力差の方はいずれ埋まるだろう。
二つ目は教会の存在だ。彼らは神への祈りの言葉でアンデットを浄化できるらしく、まさしく天敵に当たる。上位のアンデットであれば聞かないらしいが、デュラハンには個人で判断が出来ないゾンビやスケルトンの指揮を任せているので、教会に差し向ける事は出来ない。
俺自身の種族が人間から不死王になってしまった事もあり、恐らくは教会は天敵中の天敵だ。
「私が斬ろうか?」
雫にそう提案されたが、即却下した。
確かにアンデットを浄化できる教会勢力が相手なら、生身の人間である雫の方が勝算があるだろう。
だが、今回は駄目だ。
これから行うのは虐殺だ。老若男女問わず、全てを殺し尽くす。
雫にそんな場面は見せたくないし、見せられない。
結局、教会は俺が落とす事になった。正確な地図は無いが、イータが留学していたそうで、都市の要所の位置は事前に把握する事が出来た。
「お前達に言い渡す。蹂躙せよ!」
都市に向かう途中、後ろに続く軍勢に呼びかける。
「男だろうが、女だろうが、老人だろうが、子供だろうと、全てを殺せ! 俺がやめろと言うまで、この城に生きる全ての生命を殺すのだ!」
喋る事が出来ないゾンビ達からの返事は無い。
しかし、僅かに進軍する足音が大きくなった気がする。
行進の速度が速くなった気がする。
彼らも猛っているのだ。
「な、何だあれは!」
「軍隊!? 一体どこの……」
「良いから鐘を鳴らせ! 寝ている奴らも叩き起こせ!」
「すぐに軍を集結させるんだ!」
何やら城壁が騒がしいな。
暗闇にいたから直前まで気付かなかっただろう?
そのために夜を選んだんだ。
流石に昼間に攻め込んで、完全に防衛準備が出来た五万の軍には勝てないからな。
「いい緊迫感だ」
『全クデスナ』
「アルファ。お前は全軍の指揮に当たれ。俺は予定通り、教会の連中を皆殺しにして来る」
『護衛ハ……』
「必要ない」
もう何度目か分からない質問を突っぱねる。
アルファは心配症ですぐに護衛を付けたがるが、俺は死なない。
「それにしても、直接見ると立派な門だな」
『ハイ。コレヲ落トストナレバ、相当ナ時間ヲ要シマス』
「そんな時間は無いから、ぶち壊すとしよう」
俺は軍よりも先に、一人前に出た。
「何だ、あのスケルトンは!」
「いやあれはリッチだ! 気を付けろ、魔法を撃って来るぞ!」
残念だがこの魔法は気を付けようが無いんだよ。
城壁に向けて手を突き出すと、その先に小さな小さな黒い粒が現れた。
「重力波」
漂う様にゆっくりと城壁に向かい、ぶつかる瞬間。
圧縮された重力が解放され、当たった城壁の付近の空間を丸々抉り取ってしまった。
綺麗さっぱり。城壁なんて跡形もない。
これで通りやすくなった。
視界の先に広がるのは、平穏だった都市。
逃げ惑う人間達。恐怖に歪む顔。
日本にいた頃なら、ここで心が折れたかもしれないな。
「進め」
『『『オオオオオオオ……ッ!!』』』
計一万のアンデットが、都市に雪崩れ込んだ。
侵略の始まりである。
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