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間話 アリウス・フィア・ローレンツ

 失態だわ。内心でアリウスは呟いた。


「くそっ、雫はどこに行っちまったんだ!」

「落ち着けって、寅彦」

「うるせぇ! テメェに何が分かるんだ!? あァ!?」


 【ソードマスター】のトラヒコ・サワダは【剣聖】シズク・キサラギに好意があったらしく、彼女が失踪してから三週間の間、毎日の様に荒れていた。


 今は奴隷の女を与えて発散させているが、いつ制御が外れるかも分からない。


 王城死霊発生の事件から、全ての計画が狂ってしまった。


 いや、もっと前。そう。あの忌々しい【死霊術師】が現れた瞬間、計画は破綻してしまったのだ。


 勇者召喚で現れた勇者たちが予想していた以上のレアスキルを持っていた。過去に召喚された勇者もレアスキル持ちが多かったと記録に残っていたけれど、今回の勇者召喚はそれ以上だ。


 金を生み出す事も可能な【錬金術師】、魔術師よりもより強大な魔法を放つ【魔導師】、狩人の上位互換であり超遠距離狙撃を可能とする【弓師】、上手く使いこなせばドラゴンすら使役可能とされる【召喚師】、現在世界でも三人しかいないと言われている【ソードマスター】、五十年ぶりに姿を見せた【剣聖】。


 どこの国でも相当な待遇で迎え入れられる職業ばかり、豊作だった。


 最後の彼を除けば。


 【死霊術師】は、死霊を絶対悪と定めている教会によって、政敵と定められている存在だ。この国の八割も教会に入信しており、仮に勇者に【死霊術師】がいると発表していれば強い反発を受けただろう。


 だから極秘に処刑してしまおうと思ったのに、【剣聖】が強い反発をした。


 彼女は死刑に反対し直談判をしてきた。上っ面で対応すると言っておけば納得すると思っていたのに、地下牢にまで突撃しようとする行動力を持っている。


 非常に厄介だが、【剣聖】は【死霊術師】を好いていたのだ。


 それは許せない。そんな事は宗教が、国が、私が許さない。


 どうすれば彼女を納得させられるか考えた結果、【死霊術師】に呪いをかける事にした。  


 外見を骸骨に変えてしまう呪いだ。そうなれば魔物と変わりない。


 誰がどう見ても、【死霊術師】は国の敵として処刑されるだろう。


 そう考えていたのに、それは起きた。


 デュラハンが地下牢で暴れ出し、同時に幽霊(ゴースト)が御父様の部屋を襲撃したと言うのだ。


 幸いにもデュラハンは総動員された在住した騎士によって、幽霊は騎士団長と【ソードマスター】によって討伐された。


 しかし問題はそこからで、地下に幽閉されていた【死霊術師】が姿を消したのである。


 見張りの騎士が殺されていたので、逃亡したのは間違いないだろう。しかしそれは好都合だった。


 【死霊術師】が死んだとなれば、シズクも諦めてくれるだろうと考えていた。


 訓練には素直に参加してくれるようになったが、いくらトラヒコと交際させようとしても、彼女は興味が無さそうに訓練に熱中していた。


 【ソードマスター】と【剣聖】の子供なら、必ず優秀な職業で生まれるだろう。この国で産み落ちたのならば、王国の国民となる。


 例え奴隷との子供であっても、何人だろうと子供を作ってもらう。


 優秀な人材を育てるために。


 二十年もすれば最強の職業によって固められた軍隊が造れる。


 今はデカい顔をしている軍王国も、共和国も、世界樹の森でのうのうと生きている亜人どもも、全員が私の足の下に跪く事になるでしょう。


 だと言うのに、三週間前に唐突にシズクは姿を消した。給金として与えていた金も無くなっていて、計画的だったことが分かる。


 どうして? 何故?


 そんな疑問の次に湧いて来たのは、怒りだった。



 勇者様方との話を終えると、私は自室に戻った。


「どうして勇者は私の計画の邪魔をするの!?」


 叫び、喚き、部屋の物をグチャグチャに引き裂いた後、落ち着いて深呼吸をした。


 所詮はこの世界に詳しくない異世界人だ。いずれ捕まる。


 そうなれば、相応の責任は取ってもらう。一国に迷惑をかけたのだ、最悪なら奴隷に堕ちて貰い、トラヒコに孕まさせればいい。


 そう。計画はまだ破綻していない。


 大丈夫。


「御父様、お話があります」

「ふむ。どうしたのだ、アリウスよ」

「貴族平民問わず、国中から美男美女を集めて、勇者様方にあてがいましょう」


 計画は続いている。


「【剣聖】が見つかるにしろ、見つからないしろ。いずれにしても優秀な血は残して貰わねば、彼らを召喚した意味がありませんから」

「……よかろう。すぐに手配しよう」


 これ以上の計画の乱れは許さない。


 全ては私が、この西大陸の女王になるため。




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