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出会い編・3

 軽装の少女ライヒは、『武』を重んじる名門の一つ、『ケンプコンスト家』の長女である。父も、先の大戦で活躍した偉大なる武将であった。また、兄弟は、兄二人と妹が一人おり、その誰もが名門の名に恥じぬ者たちであった。


 彼女もまた、彼らに劣ることはなく槍術に長け、一族の中ではそれにおいては彼女の右に出るものはいなかった。しかし、彼女は一族と比べ、唯一の欠点があった。それは、『魔力』を一切使えなかったということだった。


 さて、ここで『魔力』、掻い摘んで説明しよう。この世界を司る循環するエネルギー源の一つであり、生きとし生けるもの、そして無機物や果ては周囲に漂う空気でさえも備わっていると伝わる。そのエネルギーを利用し、行使するのが『魔術』である。その『魔術』はライヒ達の生活や産業、文化に密接に根付いている。平たく言えば、この世界の文明は魔力で発展したといえるだろう。


 彼女は、その自分に備わっているはずの『魔力』を利用が出来ずにいた。魔術書と呼ばれる、自分自身に備わる『魔力』を利用して『魔術』を使用するための技術書どおりに、行使しても何も起こらなかった。そして、魔術に関して口頭で教えられた通りに行使しても、できなかった。しいて言えば自身の『魔力』を使わなくても動作する、『魔力機械メカニカル』は使用できたが。そこで、『ケンプコンスト家』お抱えの魔術師に診てもらったところ、『魔力』が備わっていることは確かだが、魔力を解放や使用するための身体の機能が何らかの影響で阻害されており、結果魔術が使えない状態に陥っているとのことだった。


 一族は、『武』を重んじる名門と同時に、『魔術』の使用に関しても一流と評しても差し支えなかった。ライヒはその点で、後ろ指を刺されることも少なくなかった。本人は、気にすることはなかったけれども。そこで、父がせめてものというように、ライヒが得意な槍術を磨き上げたということだった。

 

                    ***


(どこまでおいかけてくるのだ……。あの嬢ちゃん……)


 かの『ステファノメグロ』も、追いかけてくる彼女のスタミナとあきらめの悪さは驚くばかりだった。彼女と天馬の差は、生物として作りが違いすぎるため、彼と彼女の差は広げるばかり。それでも、彼女はあきらめない。


 『ステファノメグロ』も、長距離を走ることに関しても得意である。当時、最強のステイヤー(長い距離のレースが得意な馬)と呼ばれ、最高峰の長距離レースを何度も勝利をしている。生まれ変わったとしても、持ち前の加速力と体力は変わってはいない。いや、それどころか、全盛期の頃と同じぐらいであった。


 今は大きな羽を広げて飛んでいるが、天馬に備わった性質上、飛ぶことも走ることもそんなに変わらないということを彼は理解していた。


 疾走する(飛行する)。


 疾走する(飛行する)。


 疾走する(飛行する)。


 どんどん加速する飛行。そう、彼の一番の得意な脚足は先行策である。最初から一番前を走らないまでも、前の方を走るグループの位置をキープし、最後の最後で溜めた足を解放し、目の前を走る馬たちを一気に抜き去る。そう、『彼』の速度は後半に続くにつれ加速していく。彼に一番合う走り方である。


 しかし、しかし……。


 レースとは違う所が一つある。それは。


(結局、どこまで走ればいいのだ!!! 我!! )


 そう、レースと違って、ゴールなどないのだ。


 残ったのは彼と彼女の意地の張り合い。どちらかが疲れ果てるまで。逃げる彼とそれを追う彼女。


 彼から、見れば遠く豆粒くらいしかない彼女でも、根負けすればすぐ追いつかれる。


 そして人間ヒューメインと、天馬ペガスス。また、そこにも生物としての違いがあったのだった。天馬とはいえ、この世界の生物学上でも、天馬は馬に近い生物だと言われている。


 そこに答えがある。人間が馬に勝てる要素は、道具を使えるという点もあるが、それを抜きにしても実は、もう一つある。それは、持久力。短い距離での速度に関しては、馬が一方的に勝てるであろう。しかし、天馬であろうと飛行するとて滑空を交えたとしても、大きな体を飛ばすためには、『魔力』と羽ばたかせるための羽根の体力がいる。そして、長い距離という事であれば、持久力勝負になる。どんなに『ステファノメグロ』が長い距離が得意だとしても、生物的な有利の壁は超えることができない。本気で走り続ければ、先に疲れてしまうのは『彼』の方であるのだ。


 そんなことを、『彼』は知る由もない。疲労が溜まっていく。休む必要がある。視線の先には、鬱蒼と茂った森。隠れられ、文字通り羽根を休められるだろう。初めての、人の手から離れた自由なのだから。


 遠くから、追いかけてくる彼女の声も聞こえる。


「絶対、絶対、ぜぇーーーったい!捕まえて見せますわ! 捕まえて、貴方の背に乗って、憧れのリーデ姉さまと一緒に駆けるのですから! 」


 体力をあまり消耗しないよう滑空しながらも、遠くとはいえ、彼女の絶叫が耳に届く。


 (それ、我じゃなくてもよくないか? 我じゃなきゃいけない理由あるのか……? てか、そこまで我に執着する必要ある……?)

 

 頭の中で感想を漏らす。


 彼女が話す言葉を理解できていることもつゆ知らずに。

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