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出会い編・2

「ライヒお嬢様~! そんな走らんでも、『62』が驚いておっかなくて逃げるだけですから~。あまり、『62』を驚かさんでください~! それに、柵には縦に強力な見えない魔力壁があるんで、天馬はそう飛び越えないようにのですってば~」


 と、ニコニコと牧場主のアランは、槍を構えて、『ステファノメグロ』に全速力で走る少女に声をかける。さすがに、『ステファノメグロ』も本気で逃げてはいないと思うが、それでも、天馬で、羽根が生えていようとも早い。流石に人間では、追いつけるはずがない。しかし、逃げるといえど柵の中の範囲であろうと、牧場主も、『彼』を見つつ、帰厩ききゅうの準備をする。


 天馬を囲う柵自体は、成人女性の平均的な高さぐらいしかないのだが、その上方向に天馬が飛んで逃げないように見えない『魔力』で作られた障壁が、そびえたつ。高さは、ざっと、1.8マイラー(作者注:3000mほどと考えていただきたい。マイラーとはこの世界での単位の一つ。1マイラーは現実世界でいうヤード・ポンド法の1マイル=1600mにほぼ近い長さ。競馬が好きな方は、マイルのつくレースの距離とほぼ同じと思っていただきたい)ほど。


 飛んだとしても、魔力壁自体は天馬の飛べる高さの最大限を優に超えている。


 天馬といえど、馬の一種である。『飛ぶ』という機能が付いたと言えど、『走る』ことに関しても、得意な動物である。アランから見ていても、最近の『彼』は、群れに混ざらず、悠々と過ごしていたので、いい運動になるだろうと考えていた。


 ライヒからどんどん離していく『ステファノメグロ』。しかし、お互いに息を切らすような気配がない。アランは『彼』も、持久力はある方とみており、長く走れるだろうと考えていた。しかし、ライヒもライヒで軽装備であるにもかかわらず、それも槍を持った状態で走っている。牧場主は驚きつつも、まあ、お嬢様は武に長けた名門の家柄だし、たゆまぬ鍛錬をなさっているのだろうなと納得していた。

 走る『彼』。それを追いかける、少女ライヒ。ライヒの槍は、少し物騒であるが、それを除けば牧歌的な光景であった。その数瞬後の光景を見るまでは。

 

 とたん、『ステファノメグロ』に備わった、大きな羽根を羽ばたかせる。そして、『彼』は真上に飛び立つ。その優雅さは、走っているライヒも立ち止まってしまうほど、見惚れる美しさだった。

 と束の間、地上での走りと同等の速度で、柵の向こう側へと飛び立とうとしていた。普段であれば、魔力壁が、発動し飛び立とうとする天馬を包み込み、押し戻す力が作用されるであろう。 


 普段なら。


 だが。


 『ステファノメグロ』は、そのまま柵の向こうへと飛び立ってしまっていった。


 ライヒも、はっと我に返る。とたん、ぶるぶるッと腕を震わす。


「そうまでして、私の『夢』をかなえさせない気でいますのね……。そうですものね、苦難を乗り越えてこそ、『夢』を勝ち取るもの。簡単に捕まえられるようでは、張り合いがありませんものね。そう簡単に捕まってなるものか、というあなたの挑戦。受けて立ちますわ! 『ケンプコンスト家』長女、ライヒ。いざ、参ります! 」


 ライヒは、持っている槍を頭に上に掲げ、振り回すやいなや右手側に構え全速力で、『彼』が飛び越えた柵へと目掛けて走る。そしてそのまま、槍を支えにして上空へと飛び、槍を持ったまま、背丈と同じ高さであろう柵を飛び越える。


「ケンプコンスト槍術、拾壱式・飛躍! 絶対、追いついて、『ぎゃふん』と言わせてみせますわ~!!」


 槍の淑女はそのまま、『彼』の飛び立った方角へ疾走した。


 アランはその一頭と一人の光景に、頭が追い付かず、茫然としてしまう。


 気づいた時には、彼らは豆粒以下の小ささになっていた。


「あれ、魔力壁が、作動していない……?」


 牧場の主は慌てて、『彼ら』が飛び越えた柵へと寄っていった。


 そこには、昨日指示して、取り替えたばかりの柵があった。そしてアランは思い出す。


「あ、そういえば、ここの柵取り替えたばかりで、まだ魔力壁の『取付』行ってなくて、放牧してはいけない箇所だった……」


自分の失敗に呆然とするアラン。そして、それよりももっと重大なことに関して、脳裏によぎる。


「そういえば、近くで『魔獣』騒ぎもあったはずなんだよな……。こうしちゃいられねぇ!」


 アランは、慌てて厩舎の方へと引き返していった。

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