旅立ち~上都編・12
時は、少し前にさかのぼる。
旅団の一部分である天馬輸送隊の一団が、長時間移動から天馬たちを休めるために緩やかな草原にとどまっていた。
本日は快晴。ゆったりとした雲がステファンの頭上を通り過ぎていく。緩やかな時間。
ステファンは、そんなことなど気にすることもなく、花より団子とでもいうように、草を食んでいた。
ちなみに、天馬たちが逃げないように、簡易的な魔法障壁をかけて。
他の天馬たちも思い思いに、過ごしている。どういうわけか、ステファンをいびろうとしたボス天馬もいたようだが、彼自身特に気にしていなかった。けれど、草を食べることを邪魔してきたため、一にらみしたらそのボス天馬がビビり散らかし、いつの間にか周りの天馬たちに慕われるようになっていたことも付け加えておく。
(ううむ、やはり娘がくれるキャロリの方が美味だな……。また、持ってきてくれないだろうか……)
とたん、遠くの方でガサガサという音が聞こえる。あの、最初の村で聞いた音と同じように思えた。
(この音は、ヒトか?あの夜の時と同じように聞こえる。これは、ついてきているということか……?)
そのガサガサ音は、徐々にステファンの方へと向かってきている。
しかし、周囲を見てもそのような姿は見えない。
ガサガサ音は大きくなってきて、ひそひそ声も聞こえてくる。
「姉御…!そろそろですかい?」
「声が大きい……!まだだよ……。タイミングを見図るんだよ……!」
(はて、これはどうしたものか……)
馬の耳は、2.5マイラー(作者注4000m)先の音も聞き分けるのである。それは、ご多分に漏れず天馬もそうである。姿が見えずとも、ヒトの聞こえないと思われるひそひそ話でも聞き分けることが可能だ。多分、姿が見えない彼らはそのことを知らないのだろう。
「捕まえて、合図で解除すればがっぽがっぽだよ。ほら、そろそろさ」
どんどん、ひそひそ声が大きくなる。その声は、ほぼ近く。ステファンはさて、合図でもしようかと思っていると……。
どこからか、光の縄がステファンの鼻先をつかみ、引っ張られそうになる。
(うわ、やったな!)
これでは周りに合図ができない。
すると、かなりの上から、大きな音が鳴り響く。天馬たちはいっせいにパニック。
それは、ステファンも同じくとする。
(うわぁぁぁぁぁぁ)
「ちょちょちょちょ、やめるんだよ!」
ステファンは、わけもわからず、そのまま光の縄を引っ張ったまま飛び始める。
「姉御―――――!!」
そのまま、光の縄をぶら下げたまま、どこかへと飛び去ってしまった。
***
「隊長周囲を探しましたが、近くで、天馬たちが確認でき、こちらに連れてこれましたが、一頭だけが見当たらず……」
「そう。ありがとう。これは、困ったわねぇ……。音があって、来てみれば魔法障壁が解除され、天馬たちがパニクっていたと……」
「大変もうしわけございませんでした。私の失態です。どんな処分でも、受けます」
「何を言ってるの。それは、私の責任でもある。まあ、それなりの覚悟は必要だけど、それは私も同じ。あんたは次はどうすれば、このようなことを起きないかを考えて実行すればいいだけよ。それは私も一緒に考えてあげるから」
「隊長……」
と、ラナ隊長は部下の謝罪を受け止める。けれど、多くは叱責せず、次はどうするかを指し示していた。
「さて、ステファンのことだけど、このまま
放置するわけにはいかないわね」
「ええ、でも、どこに行ったのか皆目見当がつきませんわ」
意気消沈する、ライ。先ほどまで泣いていたが、幾分か収まってきたようだった。けれど、落ち込んだままである。
「どうすれば良いのでしょうか……。」
(どこかに彼の足取りが取れるものがわかれば……良いのですが……)
「でも、飛んでいったのでございましょう?足跡なんて……」
とたん、小さなそよ風で胸元の羽根で作られた首飾りが揺れる。
「あれ……?」
ふと、気付けば、天馬の白い羽根が遠くの方で落ちている、それもてんてんと。
「ラナ隊長、ドュケレーさん、あれを」
(なるほど……そういうことでしょうか)
「足跡ならぬ羽根の落ちた跡ね……。ドュケレーいくわよ」
と、ドュケレーの背に乗る。
「わ、私も!!」
「ええ、今回ばかりはライさんにも来てもらう必要あるわね!ドュケレー2人乗り大丈夫?」
(お安いご用です)
とドュケレーはいななき、ラナ隊長はライに手を差しのべ、後ろに乗せ、2人と1頭がはかけだした。




