旅立ち~上都編・11
「あなたは……。ステファンの……?」
(ああ、ここではステファンと呼ばれているのですね。なんといいますか……。私と、彼とは浅からぬ関係と申し上げましょうか……)
遠い目をしているような視線を送るドュケレー。ステファンとは、いわゆる前の世界では並々ならぬ関係なのだろう。
「浅からぬ関係……」
(はい、あいつは私の出る競争を我が物顔で蹂躙し、私は何度辛酸をなめたことか。それに引き換え、あの顔! 思い出すだけで……!)
と、前足で地団駄を踏むように、どしどしと足を鳴らすドュケレー女史。やはり、馬界でもそういう何かがあるのがわかる。
「え、ステファンとは、結構、そういう感じですの?」
「あら、もう、仲良くなった感じねぇ?」
一人と一頭が、からからと笑う女隊長。
(ということで、以後よろしくお願いいたします……。彼の騎手であるならば、いずれお会いすることになるでしょう)
すると、一対の騎兵が血相を変えながら、二人と一頭の談笑の場に向かってくる。
「隊長!! こちらにおいででしたか!」
それは、昨晩、ラナ隊長と一緒にいたバムだった。
「あら? バムさん、ごきげんよう!」
「こ、こんにちは! ライさんがこちらに乗っていたのですね!……ではなく、早急にお話ししたいことが!」
と、バムはラナ隊長に耳元でささやく。
「それ、本当なの? そうだったら、一大事じゃない! ライさん、ごめんなさい。急用ができたわ。すぐ旅団も動くみたいだから、あなたはおとなしくここに乗っているのよ」
「何があったのですの?」
「……何にもないわ。心配しないで。ただ、確かめに行くだけ。その後すぐ旅団に合流するから。ドュケレー! 行くわよ! バムもついてきて!」
「はっ!」
二人の騎兵は馬を駆り、すぐさま走り出す。
彼女らの向かう方向は……。
「天馬輸送隊の方角……」
彼らだけでなく、幾人かの天馬騎兵も向かっていく。
ライは馬車の窓を閉め、うつむくように座る。
馬車は、ゆっくりと歩くような速さで進む。
彼女はスカートを握りしめている。隊長を信じて待つべきだと葛藤する。
でも、大事な大事な相棒が無事なのかどうかもわからない。
――――ライはどうしたいの? 私はどうしたいの……? 私は……。
みしめる。
「ご婦人方、大変申し訳ございませんわ! ちょっと、心配なので見てきます。もし、戻らなくてもご心配なさらないで!」
と、おてんば娘は馬車の扉を開け、勢いよく飛び出す。
自分一人が何ができるものかわからない。けれど、ライは、いてもたってもいなかったのだ。
ゆっくりと進む馬車たちをよけ、天馬輸送隊へと、スカートをつまみ上げて走っていく。
やはり、いつもの動きやすい服装ではないため、走りづらい。けれど、彼女の持ち前の体力と運動神経は、それをものともしない。
途中で、馬車の御者に怒られたようにも聞こえたが、彼女の足は早まるばかり。
そして。
着いた。
そこには……兵士たちに検分されている天馬たちがいる。
ライは、ゼイゼイと息をつきながら天馬たちを見渡す。
しかし……。
「あれ、いない……」
そう、見間違えるはずがない。ほかの馬ならともかく、慣れ親しんだステファンなら、見間違えるはずがない。けれど……。
いなかった。
呆然とするライ。
「え? ライさん?! なんでここに?!」
と、彼女を見つけたラナ隊長とドュケレーが駆け寄る。
そして、ラナ隊長はライの前へと降り立った。
ライは、一目見た知り合いに我慢ができず、なみだをぽろぽろと流し始めた。
「ラナさん! ドュケレーさん! ステファンが……ステファンがぁ……!」




