旅立ち~上都編・10
話は、ステファン達の転生前と戻る。
そこには、大勢の観客が競馬場をごった返した最中、ドュケレーはアロドュケレーという名で、パドックを回っていた。
大事なレースの一戦であり、人間たちのその意識を知ってか知らずか、アロドュケレーはひしひしといつもと違う状況だと理解しつつあった。
前のレースでも、人気は下の方ながらも彼女自体は2着に入るという大番狂わせを起こしており、乗っていた騎手も「出てみるものだ」と驚くばかりの感想を残すほどだった。
今回の人気順位も、下から数えた方が早い状況だが、少なからず彼女を応援する人は戻ってきていた。
そして、この大一番のレースの一番人気は、そう。
斑模様が美しい、葦毛の馬。
ステファノメグロであった。
(彼が……。そうなのですね……)
パドックを回る、彼を見てその並々ならぬ雰囲気に意識せざるを得なかった。
彼の単勝の倍率は、なんと1.0代というほとんどの人間が『彼』の勝利を信じていたほどだった。
(力比べは、負けたくありません……)
そして、騎手が彼女の背中に乗り、レース場へと、向かう。
状況は、あいにくの雨であったが、馬場自体はそこまでぬかるんではおらず、良ともいえる走りやすい状況であった。
馬番は、2番という内側から。ファンファーレが鳴り響き、拍手とともに大歓声が上がる。そして、続々と彼らはスタートゲートに立ち、アロドュケレーも立っていた。
斑の彼も、スタートゲートへと入る。
そして、歓声を上げた者たちは、今か今かと見守っていく。
そして……。
スタートゲートが開く。
一斉に『彼ら』は、走り始めた。
まずまずのスタート。アロドュケレーは足を溜めるため、右によりがてら最後方に位置し、ステファノメグロは前から3番目の位置をキープしていた。
アロドュケレーは、後半に一気に足を解放して抜き去るという戦法だ。
最後方は、騎手やアロドュケレーからはどの馬がどう走っているか観察ができる場所。
あとは、訓練通りで、騎手の手綱から伝わる、指示を待つ。
第2コーナーに差し掛かる。各々のポジションが決まるところ。第2コーナーが終わり直線に差し掛かったところ。
手綱からの指示が、来た。
徐々に、スピードを上げていく。手綱から、方向は示される。
(外側から……なのですね……例の彼は……)
いた。葦毛の彼は先行策で、まだ前から3番目をキープしていた。アロドュケレーは目の前の馬と並び立ち始める。周りの競走馬も徐々にスピードを上げていき始めていった。
第3コーナーに差しかかかったところで、気づく。
(!?)
例の彼も、既にスピードを上げていた。そして、並々ならぬプレッシャーを発して。
周りの物を寄せ付けない走り。すでに、先頭を走る勢い。
(負けてたまるか……!)
ごうごうとした風が、アロドュケレー周りを包む。しかし、疾走は止まらない。むしろ、もっと加速していく。
進路を大外からとの指示が伝わる。外側からだと、多少周りの進路よりも距離が長くなってしまい、周りよりもスタミナを消費してしまうが、それは「鋼鉄の女」であるアロドュケレーなら、問題ないという騎手の信頼による指示だった。
(期待に……応えましょう……!!)
走る走る。走る!
彼女は、止まらない。気づけば、前の方を位置している。
だが……。
葦毛の『彼』の速さは、それを凌駕する速度で彼女の前方を走っていた。
アロドュケレーは、とらえることができない。
そしてそのまま……。彼は、ゴール板を先頭で通過することとなった。
歓声と紙が舞う。
そして、アロドュケレーが2着。
これが、ステファノメグロが、最高峰のレース4勝目、そして、全体として11勝目の出来事であった。




