旅立ち~上都編・9
(何やら、騒がしいな)
やたら同胞どもが、重い鎧を着たヒトどもを乗せて飛び回っているところを、ステファンは移動しながら見ていた。
ピリピリした空気が、こちらに漂う。
(まさかヒトども、また我に乗って、あの長い距離を走らせるとでもいうのか?!)
と、一瞬感じたが、それとも違う緊迫感。
あの、生まれ変わる前にステファンが何度も感じた、レース前の厩舎の人たちが放つ緊張感とは、少し違うように感じた。
どちらかといえば、もっと粘っこいというか、レース前のさわやかさよりも、かなりまずい状況に陥っているようにも感じた。
飛び交う同胞たちの、不安や焦りなども伝わってきていた。
時折聞こえる、ヒトたちの「盗賊団……」や、「警戒……」「報告……」などの声も聞こえてくる。
(とうぞくだん……? そういえば、そのようなことを、あの娘が言っていたな)
微量ながら、魔力の流れを感じる。何かをまさぐられているか、確認を取っているかのような感覚だった。
まるで、歓迎されていないものを探すかのような。
(まあ、何も起こらなければいいが……)
***
(やっぱり、騎士団の皆さん、朝から飛び交ってますわね……)
馬車の窓から空を見上げながら、ライはそう思う。胸元にある天馬の羽根の首飾りを、ぎゅっと握りしめていた。
天馬を駆る騎士たちが、昨日よりもかなり、旅の一団の周囲を警戒するように飛び回っていた。
「やだ。あの、オオカミの紋章が入った指輪が見つかったんでしょ」
「そうらしいわね。一応、奴らの影響が少ないところを通っているとはいえ、あの指輪が見つかると、どうもね……」
ライと同じ馬車に乗っているご婦人方の、不安な会話が耳に入ってくる。
(オオカミの紋章……。狼の牙盗賊団……)
それが、この付近を縄張りとする、最近活発になった盗賊団の名。団員は狼の指輪を身に着け、活動するという。
これに関しては、ライも初耳だった。その指輪が、あまり活動が報告されていなかったシュマルドルフでも見つかったというのだ。
それは、活動範囲がそこまで広がったともいえる。
しかし、ライが見つけた指輪は、団員がへまをしてなくしたのか、それとも縄張りを示すためにわざと落としたのか、わからない。
窓から覗く草木が揺らめく。車輪が、がらんがらんと鳴っている。
草の揺れ具合から、微風。天馬にとって、飛ぶにはいい風。いわば、良馬場ともいえる風だ。
しかし、ライはどこか心配であった。杞憂であればよいのだが、何かが起こる気がしてならなかった。
彼女は窓にもたれ、視線を落とし、小さくため息をつく。
「お父様、お兄様たちなら、どう思うのでしょうか……。ステファン」
と、窓をコンコンと叩かれる。
そこには、鋼色にきらめく重装備に包まれた馬と、騎乗する大剣を背負った眼帯の女隊長がいた。
「ラナさん!」
話をしていたご婦人に許可を取り、ライは窓を開ける。
「ごきげんよう、ライさん。やっぱり、心配?」
「ええ。それは、とても……。お姉さまや、ラナさん、天馬騎士団の方々が守ってくださるので、安心できるはずなのですが、どこか……」
「それは、分かるわ。でも、団長も私も、絶対あなた……いえ、このあなたたちの旅を完遂させるわ。本当に信じて。それに、この子――『鋼鉄の女』こと、ドュケレーがいれば、怖いなしだもの」
と、ラナは騎乗する『彼女』に対して首元をやさしくさする。
(お初にお目にかかります……。あの方の、この世界での相棒とお聞きしました……。こちらに、来たのですね……『彼』が)
と、重装備の『彼女』から、動物会話で意思が伝わってくる。
ライは感じていた。『彼女』のその眼には、強い力のようなものが宿っていると。




