旅立ち~上都編・8
「いやぁ、若くていいわよねぇ……。この年になって、あの時はもっと学べばよかったって思えるのよ」
「姐さん、飲み過ぎですよ」
とグダをまく兵士と、その介抱を行う兵士が一人。そして、
「むぎしゅだ、さけだ! おさけを持ってこーい! あひゃひゃ」
「カナンさんも飲みすぎですわ。ジェイさん、もっと言ってやってくださいまし」
「……やめておけ。こいつはここまでくるとどうにもならん。暴れるのを取り押さえるか、見守ってやるだけだ。それか、こいつが飲むコップに水を多めに入れてやれ。この状態なら、もう何を飲んでいるかわからんからな」
こうなった経緯といえば……。
「うちの団長と戦ったというのは、あなたね?」
と、眼帯を付けたガタイの良い女兵士と、そのそばに男の兵士が立っていた。
「え、ええ。今朝がた、お姉……レイスドゥーシェ団長と組手を行わせていただきました。ライヒ・フォン・ケンプコンストと申します」
「って姐さん! あのケンプコンスト伯のご息女ですよ!?」
「なるほど、あの槍裁き……道理で。ケンプコンスト伯仕込みといえば納得だわ」
「ライヒで大丈夫ですわ。大変失礼を承知の上ですが、お名前は……?」
「あ、ここの第五護衛隊長をやってます。ラナと申します」
「同じく、その配下のバムと申します」
と、敬礼する。
「お二人とも、そんなかしこまらなくても大丈夫ですわー! 若輩者で、これから士官学校に通う、ただの見習いですもの。後輩です。ライと呼んでくださいまし」
「え? そ・そう? 貴族なのに珍しいですね。ならお言葉に甘えて。ライさん、よろしくね」
「よ、よろしくっす!」
と、ライとラナ、そしてバムとも握手する。
「なにか、あわただしいのですが、これから何か始まるのですか?」
「うん。旅の成功を神様に祈って、ちょっとした宴」
「一日目の終わりに、夜この町で、いつも行っているっす。町の名産とか、いろんなお酒や飲み物が振るまわれるっすよ」
「そう! この町の名産は何といっても、ご当地のビールとリンゴ酒!」
「ビール! 待ってました!」
と、いつの間にか隣に現れたカナンとジェイ。
「お、そちらの姉さんも飲めるタイプかしら?」
「もっちろん! お酒を飲むために、商人をやってるぐらいなんだから!」
「……ほどほどにしとけよ」
「なんか、そちらも大変そうっすね……」
酒を飲む派と、それを解放する方に分かれて、ほほえましく思えた。
来年には一応、お酒を飲める年齢になる。楽しくお酒が飲めたらいいな、とも思えた。
***
そして、今に至るのである。女隊長はグダをまき、それを横目に、ジェイの思惑通り水で薄めたビールを飲み続けるカナン。
ライは、お酒はこういう飲み方をしないようにしようと、二人を反面教師にしたのだった。
「楽しそうね、ライ」
「あ、リーデお姉さま!」
そこに、ライの隣の空いていた席にイングリーデが座る。それに気づいたバムは、急いで敬礼を行う。
「無礼講ですので、楽にしてください。お気になさらず。今は、ライの幼馴染のリーデお姉さまとして来たのですから。それにバム、ラナ隊長が大変そうよ」
「ああ! 姐さん!」
と、バムはブツブツつぶやきながら、縮こまってうずくまるラナを解放し始める。
「お姉さま」
「ごめんなさいね。こう、ゆっくりとお話しできる機会がなかったから、久しぶりにね。まずは、士官学校入学おめでとう。やっと、後輩になるのね」
「あ、ありがとうございます。直接言っていただけてうれしいですわ。だって、私の夢だったのですもの」
「ライは、そう言ってたもんね。昔っから。ちょっとお転婆で、ずっとまっすぐで、負けず嫌いで元気だった『ライちゃん』が、こんな立派になったのだもの」
「お恥ずかしい限りですわ。でも、まだ見習い予定ですのよ。まだ、まだ。スタート地点にも立っていませんわ」
「立派だよ。なにせ、私の組み手を受けてくれた。槍も強くなった。そして、仲の良い相棒もいて、人馬一体で魔獣も倒した」
「えへへ、仲の良いなんて、そんな……」
遠くで、ぶるぶるとくしゃみをするステファン。噂されていることはつゆ知らず。
「これから、かなり大変な経験をすると思います。でも、それはライとステファンなら、乗り越えられると思うから。それに、もし無理そうなら私を頼りなさい。ううん、それか士官学校で素敵な友人ができると思うから、頼りなさい」
「はい。お姉さま」
「なんか、説教くさくなっちゃったね。今度は、ライの番。今までどうしてたか、お話聞かせてくれる?」
「ええ、もちろん!」
と、宴の素敵な夜更けは過ぎていった。
***
宴はお開きとなり、各々が戻ることになった。ライはステファンの様子を見てから、宿に戻ろうとする。
すると、靴にこつんと何かが当たる。大方、石か何かだろうと思ったが、どうも感触が違った。
拾ってみる。
それは、オオカミの紋章が入った指輪だった。
「……なんなんですの、これ?」
誰かの落とし物と思い、馬房の番をしている兵士に届けてほしいと見せる。
とたん、兵士は血相を変える。仲間を呼び出し、指輪を受け取ると急いで本部の方へと走り出した。
いわく、
「やつらが、近くまで潜み始めている」と。




