旅立ち~上都編・3
「うん、似合っているね~」
「はい、ありがとうございます。とてもうれしいですわ。ハンドメイドで作っていただけるなんて……」
そこには、ペンダントになった一枚のステファンの羽根。ライの胸元に下げられている。
ここにはいなくても、いつでも彼とつながってられると信じられる。どこか、後押ししてくれそうな力になれる気がした。
まあ、当の本馬は馬房でぐだぐだと寝っ転がるかして、そんなことなど気にせず過ごしているのだが。もしかしたら、ブヒヒンとくしゃみの一つもしているだろう。
「はい、じゃあ、いつでもごひいきに! 場所は、ここじゃないけど、1か月くらいは行商広場でやってるからぜひとも!」
「……まあ、かるくウインドウショッピングとか、顔出しにくるだけでも良いぞ」
「はい、ありがとうございました」
と、優雅にお辞儀をし、ライは商店の外に出る。そして、行商人の2人も外に出て、カナンが紋章を触れるとともに、商店が変形していきこぢんまりとした不思議な形をした馬車に戻す。
「さてー、この場所別に借りてるわけではないから、とっとと移動しちゃいますか」
「おう、そうだな」
「はい、わたくしもそろそろ、品物が届いてる頃でしょうし、戻りますわ」
ライは、もう一度お辞儀して、カナンは大きく伸びをした後手を振り、ジェイは微笑むように手を上げて、ふる。
季節は、春先。雪が解け切りそうな季節。そろそろ暖かくなり、過ごしやすくなるころだ。
不思議な行商人であるが、そう遠くない未来、ライはまた出会えそうな気がして、その時にはまた面白そうなことがおこる気がして、顔がほころんでいた。
***
「ということがありましたの」
(で、その首飾りがそうか)
と、ちらっと、ステファンはライの首元を見て、またそっぽを向く。
「ええ、そうですわ。これで、いつでも一心同体でしてよ」
(やめてくれ。気色悪い。我の落ちた羽根なぞ……しかし、ヒトというのは、ほんと奇妙なことをする。我の羽根を身に着けてどうするというのだ……。そういえば、ほかのヒトの雄が、我らの鬣を切ってたのって……ヒトが身に着けるのに使うために……?)
「それは、違いましてよ! ……。いえ、もしかしたらそういう方もいらっしゃるのかも……?」
無論、そんなことはなく、人間が髪の毛を切るのと同じように、天馬や馬も身だしなみのために、切るのと同じ意味だ。まあ、余談であるが、ステファンが元居た世界では、ファンの人が有名な競走馬の鬣を切ってしまって持ち帰ってしまうと事件もあったという。もちろん、そのファンは逮捕されている。
そんなことは、つゆ知らず、深く考え込むライであった。




