第3章 夜の授業
Bクラスの生徒しかいない寮の夕食はバイキング形式で豪華な物だった。あたりに見えるのは最高級の肉や魚ばかりで野菜がかすんで見えるぐらい。もうお腹がすいて背中とお腹がくっつきそうとはこのこと。さっそく料理を取ろうとした瞬間に先生からの声がしたために、僕と海斗は料理を取り損ねた。
「これから1年の生徒は校庭に集合。各自移動でかまわないが遅れた者は罰則があるから早く来いよ。」
長い茶髪をうなじで結び、両耳に銀ピアスをつける若々しい男性は20歳前後。いかにも穏やかそうな先生に見えるのだが外見で人を判断してはいけなかった。あれでも、2年の殺戮クラスの担任。自称『二面性の道化師』。昼は穏やかな性格なのだが夜になると恐くなると錐吾先輩に聞いたことを思い出す。
それにしても先生に急に言われたので、1年の生徒はほとんど食べてない状態なため校庭に向かう姿はやる気のなさからバラバラだ。
「雅也、早く行こうよ!夜間授業だよ!!」
「そうだな……。」
目の前の現実を知る僕の足取りが自然と遅くなる。でも考えるのが面倒になってきた。こんなことでネチネチ考えてどうする?やっと納得してきた。とりあえず僕はこの流れに任せてみることにした。
今後の人生なんてどうでもいいだろ。死んだら僕の好きなメロンパンでも備えといてくれれば文句はない。それに比べ海斗は何を考えているんだ?それより……。
「お腹すいたなぁ。」
「ダメだよ!雅也ここで帰ったら罰則だよ!」
「そんなの分かってる。あ〜なんか全て面倒くさくなってきた。」
「ちょっ雅也〜!」
そんな会話しつつ僕と海斗はしっかりと校庭に足を向け進んだ。
校庭の中心辺りで人だかりが見える。それがBクラスの生徒達ということに瞬間的に気付いた。道化師の目の前には人1人分くらいの物体が何かシートみたいなのに覆い被されている。
「よし、集まったな。それでは始めにこれを見てもらおうか……。」
変なにおいがしている。鉄のにおいに近いような気がする。どこからだ?もしかして……。
僕がそう考えてる内に道化師は足下にあったシートを取る。夜だから形が曖昧でよく分からない。30人の生徒は訳の分からないことに、それぞれグチを漏らし始める。この場に及んで何をするつもりなのか先生に対し敵意をむき出す。
僕も心配になって海斗へと不安な気付ちを見せる。
「なぁ海斗。あれ何?」
「いや。俺にもさっぱ……。」
海斗が言いかけた時には、夜に目が慣れてそれが何かじょじょに分かった。それは……。
「死体だ。」
誰かが小声で言ったのかもしれないし、もしかしたら自分で言ったのかもしれない。それくらい僕は混乱してなにがなんだか分からなかった。周りの生徒が動き始める。叫び始めようとする。1瞬の静寂とともに1瞬にして目の前がふらつく感じがした。その死体は心臓にナイフがささっていた。
「きゃ「さけんだやつは殺す。こっから1歩でも動いた奴も殺す。」
周りが止まる。人が止まる。時間が止まる。
現実にみて僕はとても恐怖していた。だって悠夜会長達が言ってたことはあまり信じていなかったから。どこかで嘘だと思っていた。だから安心しきったいつもの対応で、こんなのないと心のどこかで思ってた。
女子生徒の口元を押さえつけながら首本に小型ナイフを突き出す先生は……道化師は言葉を続ける。
「見ての通りこれは死体だ。」
そんなの知ってるなんてツッコミをいれる気にはならない。
「まだ新鮮の死んで5分もしてない。これからお前ら生徒はこの光景になれろ。お前らBクラスは殺戮クラスとして育成する。分かるか……?お前らは駄作なクラスだ。もし逃げだそうとした者や陰口した者は殺す。口ごたえした者は処罰を与える。死なない程度にな。」
女子生徒にむけていたナイフを、道化師はおろすとまた持ち替えた。それを1直線に遠くに投げ出す。それは空気を突き刺すように飛びきった。
「ぎゃ!!」
遠くから男子生徒の声が聞こえてきた。後ろを振り返っても暗くてかたちしか見えないがそのナイフがどうなったかはここにいる生徒全員が静寂の中で確認した。
そして、また生徒が騒ぎ出そうとしたが冷たい視線が体中を突き刺す感じがして声がでない。
「死にたくないよな。お前ら。」
これは道化師からの殺気。初めて経験したこの感じは声も出せないし動きもとれない。道化師の手にはナイフらしきものが握られている。そのナイフに赤黒い液体がしたたってた気がするのは勘違いなのか。それともこれは夢なのか。まさかの夢落ち!ここで話は終了してまた入学式から始まるんだ。その時には完璧な会長ではなく僕より格好が悪いヘタレで僕は学園でモテモテ!ハーレム築き有意義な学園生活を送って……。
「なぁ……雅也どう思う?」
海斗が静かな声で僕を現実に戻した。ちっ……僕のハーレムが!
「なにがどう思えば良いんだ?」
「俺からしてみればこの状況がゲームのように感じる。主人公は俺ら。舞台は学園。内容は殺人養成を目的としていた。B級のゲームだね。俺だったら3日でクリアしちゃうな~。」
余裕そうな口調に見えて乾いた声。海斗も精神的に追い詰められている。
だからこの異常を日常に戻そうとする。会話をすることで真実を確かめようとしている。
「僕だったら買う気さえ起きないよ。もし海斗が買っても借りようとも思わない。」
「もとから雅也ゲームしないじゃん。こうなるんだったらもっと武道系のゲーム買っとくんだった。」
「あぁ。そうすればもっとこの生活が楽になっただろうね。」
「ははっ、こういうときに雅也が親友で良かったよ。3日ではきっと終わらないゲームは3年も時間がかかるんだろうねぇ。」
僕も海斗が親友で良かった。普通の感覚を持たない親友で良かった。
「まさかの留年で10年かもよ。頑張れ。」
「留年どころじゃないよね!?まぁ……抜け出せないんだろうね。」
「そうだね。こんな囲われてた学生の国では抜け道なんて造らないよ。それに携帯も学園内の者にしかつながらなくなってるし。状況は最悪かも知れないな。」
「携帯も!?里帰りも出来ない感じ?」
「そりゃどうだろうね……。それより海斗は堪えられそう?」
「うん……俺こういうのってワクワクする方なんだよ?」
楽しそうに頬を歪めた海斗。僕はきっとぞわっとしただろう。
変わった思考の持ち主だけに海斗は楽しむんだろう。
「お前は変わってるよ。海斗。」
「雅也もだよ。俺らは変わってるんだ。だって恐怖より好奇心の方が強い。ゾクゾクする。きっとここにいる奴ら全員も同じ思考なんだ。」
変わった思考だけに集められた生徒達。この生活に耐えられる者だけを集めた。それがBクラス。普通の常識なんて持ってないのかもしれない。
「……なぜそこに僕も加わるんだ?」
「雅也、気づいてないの?雅也の顔がずっとニタニタしていることに。」
僕はそこで自分の頬が痛いほどに引きつってたことに気づいた。
「楽しもうね!雅也!」
「はぁ……自分が恐いよ。それなりに……ね。」
僕らの夜の授業を覆い尽くすように月が消えた。僕も雲に隠されたい!