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第17章 一般生徒は影に生きる

最初ぐろいシーン入ります。

苦手な方は浅く読んでください。

沸き上がるのは液体で手で触れてみればグチャッとなまめかしい音がした。暗闇の中でその音を聞いた瞬間、脳裏に思いつくのは僕が時に恐怖を覚え、時に快楽を感じ取ることが出来る物。それは表裏一体の感情を与え赤く黒く僕の世界を真っ白に染めてくれる。夜間授業前に1年の寮室の警備を担当するようになって初めての夜、Aクラス用寮の裏口の近くで僕は驚愕した。


「うっ…………。」


少し顔をあげ、持っていたライトで照らし、その存在の発信源を視界に捕らえた時にはあまりの気持ち悪さに吐き気を覚えた。歪な物体、はみ出た細長い管、艶のある手に握れるサイズの円の形をした物。散らばっているそれらはきっと元を正せば何になるのだろうか。そして僕は目をそらすように辺りを見回して確認したのだ。涙を流しながら震える彼女をー。


「ひっく………ひっく……。」

「殺っちゃったんだね。」

「ふぅえっ?えっ……えっ!」


顔をあげた彼女は怯えたように表情を強ばらせた。この現場を見られたことに驚くように、まるで自分が罪深き犯罪を犯したことを自覚したように。


「見て………たの?」

「見てはいないよ。でも殺ったなら早く処分しないと一般生徒に見つかっちゃうよ?」

「なっ…………そっそうだよね!どっどうすれば……いいのかな?」

「道化師にでも頼めばいいだろ。きっと5分で片付くんじゃないかな。」

「どっ道化師って?ピエロのこと。あはっ……そんなわけないかな?」


僕は彼女をじっくりと見つめた。小麦色の長い髪は毛先がクルッとしていて黄色のカチューシャを付けている。僕より身長が低く、それは猫を見たときの可愛さに似ている。長いまつげにパッチリとしたヒマワリ色の目は僕を見てはいない。動揺を隠せない彼女はどうしてこんなにも慌てているのだろう。初めてだったのかな?いや待て…………この子ー。


「ねぇ夜間授業って知ってる?」

「えっ?いきなり何かな?」

「いいから答えて。」

「知らないけど!何ナノそれっ。」

「じゃあクラスと名前は?」

「えっと、1年A組、青柳やなぎ ユウだけど。」

「…………。」

「なっなんでそんな怖い顔するのっ!?」


僕は眉間のしわを寄せ、信じられないと言いたげな顔をしているに違いない。それを怖い顔だと判断するだなんて失礼なっ!

まさかなことが起きていた。別のクラスに、とんでもない生徒がいた。それも学年1位。僕が勝手にライバル視している女性だ。この子はこうして殺人を犯している。おかしいだろ。もともと殺戮生徒に何故いない。才能があるから殺戮生徒入りになるのだろう。なぜBクラスじゃないんだ?そして彼女が殺したのは誰なんだ?あれ……?人を殺すことを悪いと思わない僕は少し心が停滞しているようだ。でも普通の人が生徒が見たらこの学園の存続に関わる。この学園の裏がばれる。そしたら僕たちはどうなるのだろう。……消されるかもしれない。この学園の権力と金なら可能だ。

そんなの絶対にさせない。さて、どうする?この状況……どうすればいい。


「しょうがない……。」

「えっ?どっどうしたの?」

「まずこの死体を処理する。この時間帯ならクロコがいるはずだな。」

「くろこ?」

「黙ってて。」


僕はボソッと「道化師。」と呟きライトのスイッチをカチャッといれた。3分もしないうちにガサガサと近くの木が揺れ黒い服装に身を包んだ人が現れた。


「なっ誰!?「黙っててって言ったでしょ。」


彼女の口を強制的にふさいで相手の言葉を待つ。


「赤石先生は現在、南校庭に移動中です。用件なら私が聞きます。」


学園内裏組織の『クロコ』ーそれは死体処理から殺戮生徒の管理、一般生徒が夜間授業を気づかれぬように欺き動く者達。黒い服装に身を包み、この学園の裏を守り通す大人達の集まり。普段は悠夜会長と道化師にしか尽くさないが僕は特別に使わせてもらっている。


「道化師に伝えてくれ。今日の夜間授業は辞退するとのこと。そしてこの場を片付けてほしいんだけど。」

「御意。…………一つお聞きしたいことが。」

「何……?」

「その方は殺戮生徒なのですか?そしてこれは管理生、貴方がやったものですか?」


疑うように声が冷徹。クロコは疑い深い輩が多い。忠実に従うだけの使いではない。


「僕がやったんだ。彼女は殺戮生徒だ。他に何か聞きたいことは?」

「いえ。後はお任せください。管理生。」


嘘も万弁。僕はとんでもない嘘をついてしまった。

クロコを尻目に僕は彼女を確認する。彼女の顔が驚きの色に染まっている気がした。それはどの現実に驚いてるのか。おそらく、僕の平然とした態度と夜間授業にたいしてかな?あと僕の男前の性格も。

付いて来て、と彼女に冷静な心が戻るように囁けばうん、とおとなしい返事が返ってきた。


とりあえず僕は彼女にー青柳 ユウさんの猫のような可愛さに守りたい精神が働きかけてるのだ。さてどうしようかなぁ。かっこよく決めてたつもりだけど……とりあえずあの人の元に行こうと足を早め彼女の手を引いた。




歩いて数分ー。

彼女は立ち止まった。どうしたんだろう。


「ねぇっこれからどうするの!私は私は人を殺してっえ、違う。あれは私じゃない。私じゃない!そうよ。君がやったんだよね?そうだよね。だってそう言ってたよね!?目の前は真っ白、違うよ真っ赤だよ。何でこんなことにー。分かんない。分かんない。さっき私に何が起きたのっ。」


今、彼女は自分との葛藤に戦っているらしいのか両手で頭を抱えている。今更、さっきまでの落ち着きはどうしたんだ。でもせっかく手握ってたのになっ。ショックだよ。彼女を見る限り分かるのは狂ったように自問自答する困惑した言葉を浮かべるだけだ。僕の10分前の思考に前言撤回ー彼女はおかしくなどない。正常者だ。


「えっと……大丈夫?」

「何が?そっちこそ大丈夫?私は何もしてない。したのは君!そう貴方だけ。おかしいよ~君。なんで殺したの?黙っててあげるから私を逃がしてよ~!」


でも壊れた正常者なんて目障りなだけだ。逃がしてよって僕、彼女に何もしてませんよ?僕は彼女の手をさっと掴んだ。交わり会う僕と彼女の視線。黄色い瞳は涙で緩んでいる。


「えっ……何よー。そんな怖い目で見ないでよー。」

「ちゃんと現実を見ろ!」


震える彼女は怯えた目で僕を見つめている。そんな表情、するな。僕の壊れた心が反応するだろ。


「青柳 ユウ!君が殺したんだ!何で逃げようとするっ。まず僕の質問に答えろ。」

「なにっ何なのー。」

「誰を殺した?生徒?先生?それとも知らない人?」

「だから私は誰もころし……。ころしっこここころしてなんてっ。」

「落ち着け!ちゃんと見て。今をこの瞬間を。」


最小限の優しさを言葉にし、僕は彼女を抱きしーこれ以上は出来ないな。せめて手掴む程度でキープ!

僕の内心も知らず、彼女は胸辺りの服をぎゅっと掴んだ。苦しがってる姿-。あぁ、そそるなぁ。


「はぁ……はぁ……そう。そっか。そうだよね。私が殺したの。親友、なの。あの子とは友達で軽い言い争いがーあの子はあの人が大好きで!私も好きで好きでっ。」


そして彼女は涙を浮かべた。ぐさっ!精神面に500のダメージ。


「好きだったのに友達があっあんなこと言うから!」

「……あんなこと?」

「あの人が実は人を殺してる、って。」


その子は知っていたのか!?だとしたら危険だ。この学園が。


「その子はどうやってその状況を?」

「夜、寮の裏口から抜け出したみたいなのっ。その子だけが知る道があって、私だけに教えてくれるって言ってくれたの。」


だとしたら大丈夫なのか。いや後でその子だけが知る道をふさぐ必要が。にしてもクロコ達は何をしていた。道化師の『使い』として夜、一般生徒が夜間授業を目撃しないように見張っていたんじゃなかったのか!?


「そうか。ねぇ青柳さん。」

「えっと……ユウでいいよ?」

「ユウ。僕の話を聞いてくれ。僕はこれから君を悠夜会長の所まで連れて行こうと思うんだ。」

「なっなんで?いやっ嫌だよー!会長ってあの有名な会長でしょ?なんで私なんかをあの人の元にっ。」

「君を救える方法なんだ。これはー。」


僕はそろそろ腹をくくるしかない。そうだ。これからどうするか、が大切なんだ。


「もう嫌っ!なんなの!?もう私を警察でもなんでも連れて行きなさいよ!会長に会うぐらいなら死んでやるんだから!」

「……それ本気で言ってる?」

「…………えっ?」


彼女の瞳がまた大きく開かれる。それは恐怖を写している。僕が持つ物に驚いているんだ。

ナイフをベルトから抜き出し彼女の首元に当てた僕は、早くこの状況から抜け出したかったのかもしれない。


「選ぶと良いよ。悠夜会長の元に行き、生きるか。それとも今ここで死ぬか。ちなみに殺してもここでは罪にならないんだよ?」

「どっどういうこと?なんでそんなもの。」

「君はよくやったよ青柳 ユウ。裏を知った者は殺される運命さだめにある。ユウ、君もその一人かもしれない。」

「私……殺されるのっ。嫌よ!なんで私がっ!死にたくないよぉ。」


僕の胸元を掴んで泣き叫ぶ青柳 ユウ。今度は死にたくない、か。精神不安定者……を目の当たりしてこれが普通なんだと思った。そうだ、殺したら困惑するんだ。自分が悪くないと思うんだ。でも今の僕にはそんなことさえ考えるのをしなくなってしまった。壊死した心に慣れてしまった。そうだ。悪いことなんだよ。人を殺すって言うのは。

僕は彼女を強く見つめた。


「僕も出来れば殺したくないんだよ。だけどこれは僕一人で解決できる物じゃないから勝手に君を殺すことは許されていないんだ。だから連れて行くんだよ。悠夜会長の元に。」


彼なら彼女を生かす方法を知っているかもしれない。

殺すことはいけないことだって僕に分からせた彼女。悲しみに、背徳心に、常識を無視するのはいけないんだ。彼女はそれを思い出させてくれる。その感情を思い出させてくれた。彼女は新鮮で僕は彼女を手元に置きたいと思ってしまった。


さぁ、どうなる……。



もしかしたらそれを見つけた僕自身が彼女を殺すよう言われるかもしれない。

でもそれでも悠夜会長に頼るしか方法はなくて、道化師に言わなかったのは彼だったら冷徹に殺せ、と言いそうだったから。

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