第16章 打ち上げは盛り上がらない
僕がいまだ年齢と悠夜会長に対する思いに疑問持つ看護士さんの斉藤さんと別れ、数日。
今日は文化祭も終わったことで生徒会室で打ち上げが行われていた。
「姫ちゃんふっか~つ!!みんなと文化祭出られて楽しかったよ!」
現在 生徒会室の中央ではしゃぐ女子生徒1名。壁側の机に向かい黙々と書類整理をする僕の要注意人物の先輩方2名。それとは別に2,3人の女子生徒に囲まれ満足げにお菓子を食べさせられている陽気な先輩1名。そして……。
「雅也!何だよ~そんなさえない顔して?今日は打ち上げ会だよ!!楽しくやろうよ?」
「僕は文化祭さえに参加した覚えはないんだけど。」
楽しそうに笑う幼なじみ1名。ため息をつく僕1名。そう僕こと玖珂 雅也。
文化祭が終わって一日。僕はついに退院した。運が良いのか悪いのか……終わった後の打ち上げだけに参加するってどうなんだ?僕的には準備を死ぬ気で頑張ったのに当日出られない運命を風邪の悪魔もろとも呪ってやりたい気分だ。重要な部分だけ取り残されたのは哀しい。
「そんなのいいじゃん!雅也がいない間の文化祭は悲しかったよ!」
「そう言う割には、クラスの友達と楽しんだって聞いたけど……。文化祭の個人発表ではステージ上でギター弾いてたんだって?」
「なっなんでそれを!?」
「僕の友達も海斗だけじゃないってことさ。」
クラスの男子がわざわざ見舞いに来てくれたときには驚いた。もしかして下剋上か!?僕は殺されるのか!と思ったが凶器を出すこともなく楽しそうに文化祭を語ってくれた。そんなに話したこともなかったのに……心配されるとは歯がゆい。
「親友は俺だけだろ!……にしてもなんで市川先輩、参加しないんだろう?生徒会のメンバーなら参加すべきだよ!」
海斗が真面目に拳を振るったので僕は、はいはいと聞き流した。
市川先輩は確かに来ていない。二宮先輩は女子生徒と楽しそうにしているのに……。
「面倒くさいんだろうね……。それに市川先輩はいるだけでも空気が変わるというか、もはやテンション高くして祝えなくなると思うよ。」
「……市川先輩は居るだけで凶器だからな!その気持ち分かるよ。雅也。」
うんうん、と頷きながら僕の肩に手をおく海斗。
あれ?僕って同情されてるの?
そんなこと考えてる内にもあの先輩は一人でマイクを取り出した。僕が出られなかった文化祭には復帰し、楽しいどこどりした姫野先輩のテンションは誰にも止められない。
「さぁ!今日は乾杯しなくちゃ。雅也!会長と錐吾に紙コップ持っててあげて。」
「……はい。」
なっなんで僕が。視線を向けたのが行けなかったのか。うっとおしくもテーブルに並べられたジュース入り紙コップを2つ手に取り壁側の机に向かい黙々と書類整理をする僕の要注意人物の先輩方2名に差し出した。
「悠夜会長、錐吾先輩。これオレンジジュースです。どうぞ。」
「ありがとう。雅也君。」
「1年管理生、僕は別にいりません。ただでさえ書類整理が忙しいというのに……なんで姫野さんが生徒会室に来ているのか……。」
愚痴をこぼすように、はぁとため息をついた錐吾先輩に僕は同感です、と節目にうなずいた。
脳天気な副会長の姫野先輩は文化祭が終わったことで書類をかかなくてはいけないのに、そんなことどうでもいいそぶりだ。まさに私と文化祭後の書類整理どっちが大切?もちろん私でしょ!的なノリかな。なんか違うけど……まぁいいや。
その状況を見ていた悠夜会長が優雅な手つきで紙コップに口をつけ、にっこり笑った。あれ陰りが見えるような……。
「そんなこと言ってはいけないよ。姫野は嬉しいんだよ。こうして文化祭を終わらせたことが……。公開文化祭とはこれで終わりだから。」
「ですが悠夜会長。今日中に終わらせなければならない書類整理が残っています。こうしている暇は、もうないはずです。」
「錐吾君。だから雅也君たちに姫野の世話をさせているんだろう。そこまでいうほど仕事はないから一番書類整理が早い僕と錐吾君がこうして頑張っているんだ。文句はないはずだろう。」
意味:錐吾君が頑張ってくれれば早く終わるんだよ。文句言うより手、動かしたら?
まるでそんなこと言っているように笑顔に影が見えた。目を細めた悠夜会長は少し怒っているようだ。それもそうだよね。書類整理という雑用係なことを悠夜会長はやっているんだ。僕が変わってやりたいけど効率性を考えれば一目瞭然。悠夜会長や錐吾先輩の方が早い。何も出来ないって悲しい……。
「雅也君ゴメンね。君は病み上がりだと言うのに無理に参加させてしまって。でも僕としては準備を頑張ってくれた感謝の気持ちとして参加してもらいたいんだ。」
困ったように笑う悠夜会長。大丈夫……この笑顔に陰はない!
僕は手を振りながらそんなことありませんっとはにかむ。
「準備しか出来なかったのは悲しいことですがこうした生徒会の姿を見れて良かったです。それとお見舞いの果物ありがとうございました。」
「あぁ。他のみんなにもお礼を言うんだよ?それと雅也君……。」
彼の目が細くなり空気が変わる。えっ何?
「今日から夜の見回り頑張ってね。」
それは一般生徒が聞いても何とも思わないただの予定であり応援の言葉なのに悠夜会長が言うと何でこんなにも重々しい……。
僕は感謝の言葉を述べながらも、何か起こる気がしてならなかった。
今日から夜の授業に参加かぁ。頑張ろう。