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第15章 ゆらめく世界

さてついに文化祭前日になりました。僕はそれなのに人生の障害物競走にくじけました。


「37,5℃かぁ。まだ風邪治らないのかな。」


僕は病室を見回し、目を細めた。部屋のサイズは2人部屋の寮室よりもせまい。潔癖を象徴する白い壁に白い床。あるのはベッドとタンスにテーブルと椅子だけだ。無駄な物がないとはこういうことかな……。


「にしてもこの学園に病院があるのかぁ。はかりしれないこの学園の財力!」


僕は起き上がりテーブルに置かれた腕時計を確認し手に持っていた体温度計を置いておく。4時35分。小さい窓から見える青空からして午後だということは確かだ。

この学園には病院さえもあるらしい。保健室など設備の整っていない施設はもはや存在意義がない。さすが金と権力はある学園だ。


コンコンッ


扉をたたく音がして僕は自然と視線を向ける。扉が横にガララと静かに移動してこの何もない世界に明かりが差す。


「お加減はいかがですか?玖珂 雅也様。」


入ってきた女性は白いワンピース型の制服を身につけていた。頭にはちょこんと白い帽子が乗っている。長い黒髪を一つにしばり大人な女性を醸し出す。病院でナースを勤める斉藤さんだ。下の名前、年齢共に職業柄教えてくれない。別に興味はないからね!?こういうのはきっと海斗が喜ぶんだろうが僕はそういうコスプレ的要素と年上というカテゴリを楽しめない。

斉藤さんは手にボードを持っていて、僕のベッド前で体調を確かめるように僕の顔色を確認した。


「熱はどうでしたか?」

「テーブルに置いてあるとおりです。」

「えっと……まだ下がってませんね。解熱剤をまた飲んでください。」

「分かりました。」

「にしても大変ですね。授業中に倒れ出すなんて……。」

「まったくです。」


僕が風邪を引いたことを確証したのは姫野先輩が入院したという報告をしてもらった日の午後。真面目に授業を受けていた僕にある異常現象が起きた。先生がドッペルゲンガー化したのだ。そしてグニャリとゆがんだ教室と生徒たち。色が混ざり合い、黒板の緑と机の茶色、同級生の髪の色とか制服がグチャグチャと真っ暗になり僕の意識は途絶えたようだ。そして気づけばこの狭い部屋にいた。学園内の一端にある小規模な病院。

そしてナース姿の斉藤さんがその日から僕の担当看護士になった。


「斉藤さんには迷惑をかけてばかりですみません。」

「いーえ。それが私たちの仕事です。それにここってなかなか生徒や先生方が来てくれないから嬉しいですよ。仕事が出来て……。」

「夜にけが人とかは来ないんですか?」

「?なんでですか?」

「いえ、急患とかいるのかなって。」

「それは企業秘密です。」


ふふっと笑う斉藤さんに僕は裏を感じる。この病院もつながっているのかもしれない。そうだよねぇそうでもないと間違って殺しかけちゃったときとか大変だもんね。


トントンッ


また扉をたたく音がして僕と斉藤さんがとっさに振り向いた。


「雅也君大丈夫?」


明るい金髪に夜空に日がさす直前の蒼い瞳が細められる。整った顔立ちがまぶしくて、スラッとした長身は、この強者ばかりが集まる学園で一番の殺戮を行う人には見えない。その細い体のどこにそんな力があるのか……。その容姿から『殺戮の貴公子プリンス』と殺戮名で呼ばれるー悠夜会長。手にはラッピングされた果物が入っているバスケットを握っている。

もしかしてお見舞い?なんか会長だけということに嬉しいというか、怖いというか……。


「大丈夫じゃな……えっ?」


カランッカラカラー


ペンが落ちる音が隣でして僕は悠夜会長に言葉を返すより斉藤さんを見た。

顔を真っ赤に染め悠夜会長を凝視する斉藤さん。悠夜会長はあまりに斉藤さんに見られていることを気にしたのかニッコリと微笑んだ。


「どうかしました?看護婦さん。」

「えっいえっ!?なっなんでもありません!すみません。失礼します!」


駆け出すように部屋から出て行く斉藤さんに僕は唖然と目を見開く。

うわっ!なんてういういしいんだ。ちょっとここ高評価だよ!?そりゃこの学園に隔離されているんだ。恋人とか作れないかもしれない。

そしてこの惨劇の主犯の悠夜会長。さっと看護師を見ることもなく落ちたペンを拾いテーブルに置いた。


「慌ただしい子だね。仕事が忙しいのかな。」

「恋の病という病気で医師に駆け込んでいるのかもしれません……。」

「何か言ったかい?雅也君。」

「いえ、別に……。」


悠夜会長の瞳にちょっと殺意がこもったので僕は視線をそらした。

だってそうとしか考えられないでしょう!貴方は天然でそう言うこと言ってるんですか!?完璧あれは恋ですって!


「あぁ雅也君。これは生徒会のみんなからだよ。」


悠夜会長から渡されたバスケットを手に取り僕は近くのテーブルに置いといた。

バナナやミカンなど手だけを使って食べられる物もあるがリンゴやパイナップル……後で小型ナイフを駆使して皮をむこう。


「ありがとうございます。」

「本当はみんなを連れてきたかったんだ。だけど明日は文化祭だから連れてこられなかった。ごめんね。」

「いえ、本来なら僕も準備を手伝うはずだったのにすみません。」

「謝ることではないよ。ケガを避けることは出来ても、病気とかは仕方ないね。」


ケガって夜間授業のことですか……。確かにケガしたことないけど、不可抗力の風邪は仕方がない。

悠夜会長は近くにあった椅子に座り足をくんだ。


「悠夜会長……。」

「なんだい?」


僕は息をついて目を細めた。

聞きたいことが……あった。何があったのか。


「姫野先輩はこの病院にいるんですよね。退院しましたか?」

「あぁ。退院しているよ。記憶障害といってもたいしたことないよ。大げさに言いすぎてる。」

「それは……どういうことですか?」

「どうって?」

「じらさないでください。あの時の生徒会室で何が起きたんですか。」


静かに僕は問いただした。悠夜会長から笑顔が消え悲しそうに下を向いたのが僕の興味を引いた。


「姫野は知ってはいけないことを知ってしまった。それは君でも分かるだろう?」

「裏のことですか……。」

「うっかりしていたよ。平和ボケしてた。生徒会にいる時間は一般生徒でいられるってことだからね。僕は気がゆるんでいたようだ。」


殺戮生徒であろうが、一般生徒と溶け込んでしまえば感覚は戻ってしまう。悠夜会長は殺戮生徒たちからの扱いがああいうのだから一般生徒と接してる方が楽なのかもしれない。裏を知った者は何であれ普通に過ごせるわけがない。


「悠夜会長らしくありませんね。その処置が記憶をなくすことだったんですね。」

「そうだよ。僕は姫野を眠らせた。これ以上知られることは論外。この学園で裏を知る一般生徒は殺すのが一番だった。死人に口なし……誰に何を言うか分からない。」

「姫野先輩を殺す気だったんですか!?」


クラッと目眩がした。そうだ……まだ熱が下がっていないんだ。僕の症状に悠夜会長が体を寝かせるように指示したから僕は従い体を寝かせた。

呼吸が楽になったかも……。


「でもそれは過去のこと。今は医療技術が発達していてね……記憶を無くすことが出来る。その時の記憶だけをね。」


だから、か。悠夜会長は最善の選択をとったに過ぎない。


「…………悠夜会長。姫野先輩は生徒会として帰ってきてますよね?」

「もちろん。だけど姫野が入院したと全クラスに報告されるとは思ってなかったよ。」

「えっ?でも当然の処置じゃないですか。一般生徒が記憶喪失になったなら。」

「裏関係になると話は変わるんだよ。何でだろうね。」


何で記憶喪失になったのか、と同級生に聞かれれば姫野先輩はなんて答えるのだろうか。無理に思い出そうとすると悪いことになりかねない。そしたら裏を知る道へとつながってしまう。


「考えてても仕方ないね。雅也君、熱は明日までには下がりそう?」


話を変えるように微笑んだ悠夜会長。それはこの話を掘り返すことを拒否しているようだ。

僕はあまりの唐突の質問に無理です、と正直に答えた。


「ずいぶんはっきり言うんだね。」

「解熱剤を飲んでも37℃以上ですよ。きっと2,3日は無理です。」

「そうなんだ。それは大変だね。」


他人事のように言葉を返す悠夜会長。

心配してくれたんじゃないんですか!?

 

「そういえばこれは道化師からの連絡なんだけど。夜間授業前に見回りをすることになったから。」

「見回り……ですか?」

「一般生徒が出歩いてないか注意を払うんだよ。今回の一件で道化師は神経質になったみたいだ。いつもは『クロコ』が担当するはずだったんだけどね。やっぱり管理生が毎日やらないと意味がない。」

「えっ?」

「なんでもないよ。」


なんか僕の脳内単語帳に聞き慣れてるけど意味が違うような単語が出てきたような……。それにしても面倒くさそうだなぁ……毎日やることは目に見えている。暗黙の未来か……夜だけにそんな感じだ。


「さて僕はそろそろ帰ろうかな。病人に迷惑かけるのはいけないからね。」

「悠夜会長。僕の風邪がうつってたらすみません。」

「僕は大丈夫だよ。人間とはちょっと違う造りをしてるからね。」


えっ!?それって貴方は人間じゃないってことですか!?思い当たる節々……悠夜会長が登場した瞬間、倒れ出す生徒とか僕の思ってることを読めるとか!?学園で最強を誇るところとか!!その美貌と長身とか!!


「それはただの妬みになってるよ?雅也君。」


また読んでるしー!?

悠夜会長は澄ました顔で椅子から立ち上がった。


「それじゃあお大事にね。」

「ありがとうございました。あの……悠夜会長!」


扉の取っ手に手を置いた悠夜会長を僕はとっさに呼び止めた。


「思ったんですけど……早く悠夜会長はこの部屋から出ることが出来た。しかし貴方は何も話さないうちから椅子に座った。僕が聞きたいこと分かってたんですか?」


それはちょっとした疑問。あの日から会っていない悠夜会長は今日久々に会っていつも通りの反応だった。一人でこうして来たのも、うつる前に帰ればいいのに病人の目の前でこうやって居続けたのも、僕にこのことを話すためじゃないかと……話が上手く行き過ぎていると思った。

僕へと振り向き彼はふっと笑った。それは妖美でありながら楽しそう。推理の種明かしをするような挑発的な目を笑顔で隠しているようだった。


「雅也君は知りたがりだからね。聞かれると思ってたんだ。それにいつかはこの学園を仕切る者になるんだよ。」

「予想内だったんですね。」

「この学園を仕切るってことは秩序を守るってこと。知らないことがあってはいけないんだよ。」


それじゃあ、と言って悠夜会長は病室から出て行った。廊下からは女性の淡い悲鳴が聞こえた気がしたがなかったことにする。

悠夜会長は年上さえも苦しめるのか。改めて実感。

それにしても結構な精神を使った。悠夜会長との一対一。あの人のオーラは存在するだけで僕を傷つける。


「なんか…………疲れたかも。」


僕はあまりのまぶたの重たさに抵抗せず、暗い闇の中へと旅だった。


人生で何となく楽しみだった文化祭が楽しめず終わった。

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