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第13章 後編 パンダのユキちゃん

えっと……真っ暗闇の、一面闇の、見渡す限りが暗闇の世界でたった一つの光が見えるだろうか。懐中電灯で照らしたわけでもなく、それは僕が知る限りの中でたった一つ当てはまるとしたら鋭い目つきに見えた。ほら、ゲームとかでボスキャラが出る瞬間に流れる映像とかあるだろ。そんな感じのやつ。


「ケッ、早速かよ。」

「市川君はどこから狙います?」

「俺は最低限なんもしねぇ。1年に任せる。」

「そうですか。それもいいかもしれませんねぇ。」


後ろで放任主義を全うする会話が聞こえたような気がしたんですけど。

僕はおそるおそる2人に対し振り向いた。


「そんな恐れた顔しないでください。僕たちは別の場所から狙います。2人は正面から狙ってください。」


錐吾先輩の冷静な声音から拒否することはゆるされない威圧感がのしかかる。そうなります!?もしかして逃げる気じゃないですか!


「わっ分かりました。」

「やったな!雅也!これで勢いよく殺せる!」

「そうだね……。」


殺せるって……捕らえることが目的なんだけど!


「それでは1年管理生、海斗。ご武運を祈ります。」

「せいぜい死なねーようにな。」


錐吾先輩と市川先輩は僕が振り返るよりも先に消えてしまった。

えっ瞬間移動!?……って木の上を移動してる。


「身体能力がはんぱないよね……。」

「俺らも月日が過ぎればああいう風になるって!」

「あっ、そう。」

「冷たいな~。っでどうする?雅也。」


海斗がウキウキしているのか楽しそうに笑った。

さぁて、とりあえずどうやって捕らえようか。僕はナイフを取り出し戦闘態勢を整える。でも姿も確認できてないしここでいきなり攻めるのも気が引けるな。


「海斗……試しに打ってみてよ?」

「えっ?ここは普通、雅也が囮で行くんじゃないの?」

「矢であっちの動物を確認したいんだ。さぁ打て。」

「めっ命令形ですか!?でもどこにいるか分かんないし。」

「あの赤い目が見えないの?軽く狙えばいいだろ。」

「いや矢の無駄うちは避けたいんだけど……。」


海斗の腕ならきっと外すことがないという信頼があるから言ってるのに。殺戮試験での海斗の腕前は恐ろしいほどだった。相手の先を読む状況判断力、観察力。どれをとっても不足はない。

僕の無言の拒絶にたいし、しょうがないなーと海斗は弓を構え竹やぶへと矢を引いた。赤い目へと放たれただろう矢は一直線に素早く進んだが、当たったような音がしなかった。


「あれ海斗。反応ないんだけど……。」

「だから無駄うちだって!あーもう行ってきてよ!雅也。」

「きっと避けたんだね。実験動物の身体能力は偉大だね。」

「そうやって行かないそぶり見せないで!大丈夫。俺が後ろで狙ってるから。」


弓に矢をセットし海斗は僕へ行くようにと目を細めた。そんなに行ってほしいのか!?


「分かったよ。間違っても僕は狙うなよ。」

「分かってるって!いってらっしゃーい!ちゃんと俺の射程距離に来させるんだよ!」


無駄に明るいテンションに見送られながら僕は竹やぶ地帯へと足を踏み入れた。けっきょく団体で動いていても個人で捕らえることになるのか。

目の前の竹がガサガサ揺れる音がして僕はナイフを構え直した。そして赤い目が伺えた瞬間、僕の緊張は最高潮へと達する。大丈夫……後ろには海斗がいる。僕が何とかして誘いだそう。


「僕の望む色へと染まってくれ。実験動物!」


先手必勝。僕は相手に一気に近づいてナイフを突き出した。だけど鋭い爪が僕のナイフを器用に受け止めていた。

なんて素早い動きだ。僕は目を見開いた。


「ぱっ……パンダ!?」


僕のナイフを受け止めていた逆の腕で僕へと爪を突き出すその姿は愛玩動物とは思えないほどの凶暴性を兼ねそろえている。


「ぐっ!げほげほっ。」


吹き飛ばされ腰を打った。なんとか爪からの攻撃は避けられたようだ。僕は腕や膝のホコリを払い、立ちながらパンダをまじまじと見た。パンダって立てるんだ。2本の太い足が大きな身体を支えている。赤く鋭い目、もさもさの毛は黒と白に別れている。口からは凶暴な鋭い歯。噛まれたら生命の危険を感じられる。そして爪は軽く30センチはあるんじゃないかと思えるぐらい鋭かった。まるで僕の小型ナイフをそのまま両手に5本ずつ持っているようだ。


「実験動物……本来の可愛さはどこに行った。」


殺戮専門のために作られたらそんなの関係ないか。パンダは鋭い爪を僕へと振り下ろした。

さっきまで間合いをとっていたはずなのにー!?僕は腰を低くして避けとっさにナイフを突きつける。だがパンダはジャンプして回し蹴りをした。これは避けきれない。


「ぐはっ!あー痛いっ。」


パンダが動く前に僕は何とか態勢を整える。もうせっかく支給された戦闘服がぼろぼろだ。黒の学ランがすり減っている。この学ランはボタンじゃなくてチャック式だから動きやすく、着やすくて良い物なんだけど……どっちかっていうと、昼間のブレザーの方が僕は好きだ。


「ってそんなのどうでもいいことか。」


僕はパンダの動きを観察し避けることに専念する。時にはナイフで受け止めるも、すぐに跳ね返す。そうしないと別の手で僕を襲うから。


キュインー


聞き覚えのある弓なりの音に僕はパンダから離れた。グサッとパンダの背に当たったのが見える。

さすが海斗……。ちゃんとやることやってるんだね。

パンダの静寂に僕はナイフをその右腕へと突きつける。避けることに遅れたパンダに深い傷が付いた。これで右腕が使えなくなった。だけどそこからが恐怖の始まり。


ギュー!!


怒ったのか大きな声を出しさらに暴れ出した。なぎ倒される竹たち。僕も避けようと逃げるがやはり標的は僕のようで追ってきた。しかも竹を持ちながら。


「竹って武器になるんだねー。」


知らなかったよ。さてこの暴れる動物にたいし僕はどうするべきか。そういえばこの先はー


「俺の矢に撃ち殺されな。実験動物のパンダちゃん!」


茶色の髪を風になびかせ細めた藍色の目はいつもとは違う雰囲気をかもし出している。スイッチが入った海斗は僕が思うに馬鹿じゃない。


キュインーグサッ


パンダへ矢が打ち込まれ、後ろでドサッと音がした。僕は足を止め息をほっと吐いた。終わった。


「おつかれ~!雅也。」

「海斗……良いところどりだな。」


もう疲れて足を支えることが出来ない。海斗はニカっと笑い僕に手を差し出した。


「雅也が動いてくれたからじゃん!それにこれはいつものこと、だろ!!」

「僕が引きつけて、海斗がとどめをさす。そうだね……いつものことだ。」


でもそれはいつも僕に命の危険性があるわけで、僕はこの状況に満足している。海斗に危険性がなければいいんだ。


「あっそういえばさっき錐吾先輩が『終わったら呼びに来てください』だって!」

「ってことは帰ったんだね。やっぱりあの2人のことだからね。」

「いいじゃん!俺らだけで倒したんだよ!?気分いいじゃん!」


実はあの2人が僕らの成長のために退いてくれてたのかも……とか思ったのはなかったことにする。だってあの2人は面倒くさがりだから。


「さぁて帰るか。海斗。」

「そうだね!今日は矢の無駄うち避けたぞ~!」


僕と海斗はどこか安心しきったように空を見た。夜の月は僕らを照らすことなく雲に隠されていた。












道化師が言っていた。今日のミッションがユキちゃんの処分だと。僕が夜間授業に参加できないからってふざけないでほしい。彼女は僕には従順な良い子だ。学園側の行動についに僕は身構えなくてはいけないね。


「ユキちゃん。生きてる?」


竹やぶの入り口前にはパンダが弱ったようにうつぶせに倒れていた。あぁ、こんなにも芝居がうまくなって。


「あの子達は強かったかい?少しは成長してくれると良いんだけど。」


彼女に話しかければムクッと起き上がり肌をすり寄せてきた。ふかふかで気持ちが良い。僕はぽんぽんと頭を撫でてあげた。一度闘ったことがキッカケでこんなにもなつくとは思わなかった。彼女に刺さっている矢を抜き取るとみるみるうちに傷が消えていく。実験動物の治癒能力は尋常じゃない。だけど……。


「……気絶してくれないかな。」


彼女の首に手刀をくりだし眠らせる。そして彼女の爪を1本へし折った。これが欲しかったんだよね。


「クロコ……ユキちゃんを研究所へ連れて行って。錐吾君たちが後で来ると思うけど適当に追い払っといてね。」


学園内裏組織の『クロコ』ーそれは死体処理から殺戮生徒の管理、一般生徒が夜間授業を気づかれぬように欺き動く者達。黒い服装に身を包み、この学園の裏を守り通す大人達の集まりだ。これを扱えるのは道化師、そしてこの学園を支配する僕だけ。

さっと現れた一人のクロコは膝をつき、頭をたれた。


「悠夜様のお望みとあれば。」


僕はその返事を聞くより早く、この場から姿を消した。








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