第10章 後半 僕の偏見でした
成績優秀な実力主義の完璧主義者が集まる生徒会
そこにおおざっぱな人間が来たらどうなるか
「ここかな……生徒会室。」
錐吾先輩から渡された生徒会室までのメモを片手に放課後こうして生徒会室にたどり着いた。
たどり着いたまではいいんだけど問題は……。
「はぁ〜……どうしよう雅也。もし殺戮生徒の先輩方が居たら俺死んじゃうよ!それに錐吾先輩がどんな顔して俺を見ることか。」
「あーたぶん、いつも通りの無表情だと思うけど?」
「そういうことじゃないの!!他人事だと思って……はぁ。」
いつもとは違いテンションが低いというか、元気がないというか……そこまで先輩が嫌なのか。このまま生徒会室に入ったら逆に先輩方に目をつけられると思うのだが。
「大丈夫だって!もしかしたら悠夜会長以外は一般生徒かもしれないだろ!」
「本当に!?なら大丈夫だ!!GO!」
「ああ。多分な……。」
「なんかいった?小さい声で。」
「いやなんでもないさ。僕が扉、開けるか?」
「俺が開ける~!!」
なんて単純なやつ。扱いやすいというか扱いにくいというか。それだから楽で良いのだが。海斗が勢いよく生徒会室の扉を開けようとドアノブに手をかけた。
ガチャッ!!!
教室は管理室とほぼ同じぐらいなのだが違うところがあるとすれば机の数といすの数が多い。それ故に部屋のスペースが狭く感じる。しかし空気が張り詰めているせいか海斗の顔がひきつるのを感じた。うん、やっぱり想像してたとおり生徒会室って静かだよね!
「やっと来たね雅也君。海斗君。近くの席に座ってくれるかな?」
1番遠くに座っている悠夜会長が頬杖をつきながら僕らに声を掛けた。
長机は1台で3人座れるものなので4台が囲むようにして並べてあり、ちょうど向かい側の悠夜会長を中心に左右には錐吾先輩と2年の女子生徒が座っていた。副会長だということが何となく伝わってくる。悠夜会長と目があいニッコリと笑い目の前の席に座った僕と海斗が一息ついたところで悠夜会長が口を開いた。
「一応自己紹介しておこうか?僕らは君達を知っているけど君たちは知らな……。」
「はいは~い!先陣切りま~す!悠夜会長は黙っててくださいね!」
えぇっ!悠夜会長の隣に座っていた女子生徒が勢いよく立ち悠夜会長に向かって黙って……だなんて。
「分かったよ姫野。そのかわり落ち着いてね?」
「はいはい悠夜会長。それじゃあ!私は副会長をやってる2年A組、姫野 優衣。雅也に海斗だよね!呼び捨てOK?」
副会長……テンション高いな。
でもふんわり長髪で黒い大きな瞳、血色の良さそうな肌。なかなか年上にしては可愛いな。
「いいですよ。副会長さん。」
「OK!OK!よろしくお願いしますね!」
えっ海斗!?さっきまでの落ち込みはどこに行った!?
「おっ!海斗はノリがいいねっ。雅也もこんくらいのテンションでいかなくちゃ!」
「はぁ……?」
「そうだぞ!雅也も副会長が言ったとおりこんくらいのテンションでいこうぜ!」
やべー、海斗と同じ人間が2人……。可愛さがうざさに変わっていく。
「ヒメちゃん、もうそれくらいにしておけや。俺は書記の二宮 大智。3年C組だ。よかったら仲良くしてくれよな!」
金髪に紫がかった瞳。短髪でさわやか系のお兄さんに……僕は少し引きつった笑いを浮かべた。
だってその先輩の周りにはー
「だいち~早く帰ろうよ~。もう疲れちゃったぁ。」
「だいちゃん!今日は私のこと泊めてくれるよね?」
「違うわよ。今日は私の番よ!」
えっとーこれが噂に聞く両手に花……ってかこんなところに女連れ込んでいいのかよ!?
「……よろしくお願いします。」
「よろしくっす。二宮先輩!うらやましいくらいのもててますね!」
「海斗そんなことないよ。ただ俺の周りには女が集まってくるだけ。」
自慢ですか!?
最後に自己紹介していない男の先輩に少なからず視線を向ける。
「なんだよ……。」
ぎらっとした目つき。所々のピアスに武士を思わせるような長髪を一つ縛りにしている。でも制服はきっちり……いやだいぶ省いてますね。ネクタイなんか揺るいし第2ボタンまで開けてるし。
それに何よりも怖いっ!?
「こっら~。湊人!海斗と雅也に眼つけないの!」
「あ゛あ!うっせぇよ。」
「はぁ!?何よ!」
「…………。」
「何でシカトすんのよ!」
副会長の姫野先輩が声をかけるもイライラしているのが伝わるぐらいの殺気を!?
「悪いな。あいつは会計の市川 湊人。いつもイライラしてんのか自己中心的なやつだよ。あれでも2年だからな。大きな心で接してくれや。」
二宮先輩が先輩らしくも気を遣うような発言をした。これが先輩なんだよね。今までの先輩達とは違うよ。いや、錐吾先輩達が悪いとは思ってないけどね!にしてもここまで殺気をだすだなんて。
「あの……二宮先輩。」
「なんだ?雅也。」
「市川先輩のクラス教えてもらってもいいですか?」
「あぁ……確かBクラスだったよな?なぁ市川?」
「んだよ。文句あんのか。」
でしょうね。Bクラスですよね!こんなわかりやすい殺気をだすなんて。
「それじゃあ、さっそく本題に入ろうか?」
間を置いて悠夜会長が優しげにほほえんでいた。
その笑顔からは早くしてくれないかな……?という怖い感情が読み取れた。
刹陸学園学園祭は8月の中旬の3日間の内に行われその期間だけこの学園を一般公開している。地域の住人や父兄にこの学園の素晴らしさを見せつけるためだ。当日には教育委員会のお偉いさん達もが来るらしい。
1日目は開催式、クラス別の模擬店。
2日目には全校生を体育館に呼び出し講演会及び個人発表(団体発表)。
3日目には部活別の模擬店及び閉会式。
模擬店による資金の配分は人数分とその企画の規模による。装飾は学園にある物をつかい足りない物は生徒会側に申請し生徒会の人が買いに行く。
「……ここまでが学園祭の詳細ですが何か質問等はありませんか?」
息もつかないほどに詳細をのべた錐吾先輩は辺りを見回す。すごいな肺活量!2,3年生がほぼの生徒会は学園祭は経験者なので特に何もない。この詳細も1年のためだけに言ったようなものなんだろうなぁ。
「あのあの!実行委員は何をすれば良いんですか?」
この空気にもなれたのか海斗が手をあげ質問する。
適応能力高っ!?僕はまだ他の2,3年生が怖くてそんなことできないぞ。
「実行委員は生徒会の手伝いと言うことで学園祭に何をやりたいかアンケートを採り累計しプログラムを作ってくれば全然OK!。その他にも模擬店の配置や資金の配分はあんたらにお任せします!」
「分かりました~!」
副会長の言葉に海斗が元気よく敬礼のポーズをとった。
生徒会の手伝いか。思ってたより楽かもしれないな。悠夜会長が見かねたように席を立った。
「これで生徒会の話し合いを終わらせるよ?各自寮に戻るなり、外に行くなり好きにして良いよ。」
その言葉を聞いた生徒会員は立ちこの教室を出る。
先輩達はほとんど3年生だから緊張したが案外やっていけそうだ。そろそろ戻るか。
「おい、海斗「実行委員〜!!お前ら今から茶でも飲みに行かない?」…は?」
声を掛けられ席を立つと生徒会書記の……?
「誰でしたっけ?」
「二宮だよ。確か自分たちから志願したんだろ。しっかり働いてくれよ。そうしないと首が飛ぶかもしれないからな!」
かははっと笑う両手に花持つ二宮先輩。その花たちはこわ~いと二宮先輩に寄り添うように抱きついている。そんな甘い状況より今はー
「志願……?」
「首が飛ぶ??」
僕と海斗が苦い顔で首をかしげる。
「首が飛ぶのは冗談だよ!1年は冗談も通じないのか?にしてもお前ら志願したって俺は聴いたんだけどね。違うの?」
「はははっ!ですよね~。」
「僕らの首が飛ぶなんて……実現したら怖いですよ。」
「えっ?おまえらそんなに本気にしてたのか?」
Bクラスの僕たちにとって冗談にならなさそうで恐いんですよ!それより志願などしてない。するはずもない。ならどうして?これも裏での口あわせかな?
「彼等は率先してこの実行委員を受け持ちたいと声を掛けてくれたものだから、彼等に頼んだんだ。こちらとしてはすごく役立ってるよ。ありがとう。雅也君。海斗君。」
そこには微笑む悠夜会長の姿があった。しかし目は笑っていない。そのことに冷や汗をかく。
「いえ、僕らも役立ててもらい光栄です。なぁ?海斗?」
「そうですよ!!悠夜会長のためなら何だってします!!」
やっぱり裏での口あわせか。危ない危ない。自分の首がマジで飛ぶところだったぜ!
「ありがとう。それくらいの意欲があると助かるよ。ところでこれからこの2人と話したいのだけれども。だめかな?二宮。」
「ん?ようは出てけってことか?別に構わないけど悠夜が土下座して『お願いします!二宮様!!』って言ったらいいよ!」
「冗談のつもりかな?それとも生徒管理及び生徒会長命令で学園内の君の立場をなくしたいのかな?」
「職権乱用~。分かりましたよ!生徒会長様!」
そう言って書記の二宮先輩は女子生徒を引き連れて足早にこの生徒会室から出て行った。やっぱり悠夜会長には逆らえないな。彼を敵にしたら命はないと思った僕であった。まぁ死にたくはないし。
気づけば生徒会室には僕と海斗、悠夜会長だけだ。
「君たちは自分たちから志願したと言うことになっているからちゃんと話を合わせてくれて助かったよ。」
いえいえ自分の首を守っただけですから。
「それじゃあ、またね?」
話それだけ!?
「はい。それでは悠夜会長。」
「また会いましょう!!」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「早く出てってくれないかな?鍵閉めたいから。」
「!そうですね!すみません。行くぞ海斗!」
「ラジャー!どっちが先に寮に帰れるか勝負だ!」
「そんな面倒なことしたくないよ。」
僕と海斗は廊下へと飛び出した。
生徒会ってまじめな人間ばかりじゃないんだな。