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第9章 前編 次の学校行事は?

日常的な生活に安堵するがここが殺戮クラスなのには変わりない



『中期生徒管理生は前期と同じく3年……。』


道化師の声が体育館に響く。

管理総会は年に3度あるものでその度に管理生を実力試験で決めているのだ。前期管理生は入学式の前日に新2,3年生が実力試験を行って入学式と同時に管理生が発表される。前期の管理生1年の場合実力試験を行っていないので先生方が選抜するらしい。


「そしてたまたま僕が選ばれた。いや僕が一番素質があるからかな……。」


選ばれた身を全く考えない血も涙もない先生方には熱い情熱をプレゼントしたいよな。


『それでは先ほど呼ばれた管理生の代表者挨拶。』


そのアナウンスと同時に台に登壇する一人の男子生徒。金髪に切れ目の蒼い瞳。180センチはありそうな長身は身のこなしがゆるやかで、気品あふれる雰囲気を持つ悠夜会長。

悠夜会長がマイクを持ちにっこりと微笑んだ。あれも0円スマイルだと最近気づいたんだよなぁ。






きゃ〜!悠夜様〜!!!!!






そして迫りくる女子達の歓喜。彼女達こそ本当の情熱を持っていそうだ。先生方に教えてやってくれ。


騒音に見兼ねた悠夜会長はニコっと悩殺スマイルを繰り出した矢先、口を開いた。


みんなこの笑顔で黙り込むんだよなぁ……。


「女子生徒は9999のダメージを受けた!なんで倒れこむんだよ!あの生徒!」


僕の隣には驚愕な表情で顔をゆがめる茶髪に深緑の瞳を大きくした海斗がいた。


「やぁ海斗。君との場所は僕が望む月と海の距離なんだけど。どうしてここに?」

「分かってるって。沈む時にとても近いんだよな。」

「いや現実的な距離の問題だよ。」

「…………それってすごく遠すぎやしないか!」

「今更か。気づけよ。」


いつの間にか周りの女子達のお陰−もとい女子達がステージに近付こうと列が乱れた為に海斗も自由に来たらしい。


「にしても人気だな!俺としては悠夜会長みたいな存在になれば恋愛シュミレーションが限りなく出来ると思うんだけど!」

「僕が思うに現実はゲームみたくいかないと思うな。」

「そこは夢見るの!あの笑顔でいったいどれだけのマイナー女子を落としてきたか……。」

「はっ?」

「ツンデレ、ヤンデレ、ドジッ子、委員長タイプ、それともマセてる女子を〜。夢がありすぎるよ!会長〜。」

「いや海斗の思考の方がありすぎるんじゃ……。」

「しかもあの制服を女子の制服を直に触れられるだなんて!なんてうらや……。」


一人の世界に入った海斗にはもう話しかけない方が良いな。しかも考える傾向がすぐ空想になるとは殺戮授業で頭がどんどん侵食され、まともに正常してないのか。それは僕も同じかもしれない。


ふっとステージへ視線を送ると悠夜会長がスラスラとお決まりの文句を述べているところだった。その間も女子達は黙って熱烈な視線をキラキラと送っているのだが先生達はこの光景を見ても何も言わないんだよな。


せめてもの癒しが悠夜会長だから許しているのか?


「……目標に今後の管理生徒会活動で意識していきたいと思います。」


1礼し降壇する悠夜会長は慣れているのか意気揚々としていた。そしてまた女子達の歓声が上がる。


やっぱり名物みたいだな……。


「なぁ〜雅也!」


海斗の妄想ワールドが終了したのかさっきとは落ち着いた眼差しを僕に向け下を見る海斗。


「俺って最近大人になった気しない?」

「正常に戻って何を言い出すかと思えばいきなり……。」

「正常って……俺はもとから普通だ!」

「……はいはい。っで?」

「こっち側の世界に入ってからかな!何か冷静に物事見れるようになったんだよ!でもそれは夜だけで朝はど〜も無理なんだよね。夜の方が集中してるからかな。」

「そうなのか?僕はよく分からないな。近くにいるぶん感じづらいんだろう。」

「そっか〜。雅也は朝と夜で違う感じしない?」


違う感じ……?


「しないと思うけど。」

「ふ〜ん!雅也はもとから冷静だもんね!」

「どこか冷静さが皆無なやつと一緒にいるからだろ。」

「えっ?誰だよ!」

「心に聞くといいよ。」

「……心臓の音しか聞こえない。」

「少しでも期待してた僕が馬鹿だった。」

「ちょっ!どういうこと!?」

「そのままのい……。」



『これにて生徒総会を閉じます。1年から教室に帰りなさい。』


アナウンスが体育館に響き流れた。周りの1年がざわつく。


「じゃあ帰るか。」

「待ってよ!雅也!」


帰る途中、体育館の隅っこでなぜだか女子達がうるさいと思ったら悠夜会長が苦い顔して中心にいたのは言うまでもなかった。




なんであんなにモテるんだ!?









「なんか、暇だよな〜!!」

「黙って食べろよ……。空想大好き人間め。」

「ちょっ!何だよ!それ〜。……にしても混んできたね!」


昼食の時間になり寮へと戻ってこうしてもとから並んでいた昼食を食べている僕と海斗。


「お昼時だからだろ。」


もとから30人程度が座れるであろう長椅子と長テーブルが3列に並んであり一学年1列がそこを使う。今では満席状態。その中でも管理生は中央の席に座り一般生徒より豪華な食材で作られている。


これだから管理生は止められない!


「雅也のはいいよな〜!豪華で。ちょうだい!!」

「ダメだ。」

「そう言わずに〜。」


海斗がフォークでメイン料理の若鶏のソテを取ろうとするが間一髪のところで皿をずらした。



バギィっ!



「…………。」

「…………。」


フォークが机へと変な音がして刺さる。その音に振り向く生徒達の視線が冷たいが1瞬の沈黙があったものの何もなかったように会話を始める生徒達はどこか変に感じる。


普通なら騒ぐはずなのに。こんな事別にどうでも良いみたいだ。確かにどうでも良いけど。殺戮クラスだからこそこんなこと日常茶飯事に過ぎないのかもしれない。



「どうしよう〜!雅也やっぱり怒られるかな。この机案外高そうだし!こんなに穴あいちゃって。」

「もう怒られるだなんて優しいもんじゃないよ。弁償だよ……弁償。」

「そんな〜!!!どうしよう……俺そんなに金持ってないよ!あ〜!!どうしようどうしよう!!」


頭を抱えるとは実にこういう事なんだろうな。まさに海斗の今の姿に当てはまっている。弁償なんて嘘なんだけどまんまと引っかかるだなんて……。


「あっ!笑ったな!雅也。親友がこうして困ってるって言うのに!!」

「ごめん。ごめん。大丈夫だって……直してくれるよ。これぐらい無料で」

「本当!?よかった〜!!」


嘘を本当に信じるだなんて単純にもありすぎるのだが、いつも通りの会話に変わりはない。昨日のことで何かあったらどうしようかなとも思ったが大丈夫そうだ。昨日傷つけた腕は制服のせいでどうなっているか分からないが……。


「どう?昨日の傷……。」

「そんな深刻そうな顔すんなよ!大丈夫だって!さすが雅也。傷が浅くて絆創膏だけですんでるし!」


海斗が答え終わるのと同時にチャイムの音が鳴りお昼休みへとなる。それと同時に動き出す生徒達。入室は自由なのにチャイムが鳴るまではここから出てはならない規則があるんだよなぁ。


「僕達も行くか……。」

「そうだね!!」


席を立ち出ようとするが目の前によく知る人物が立っていたので立ち止まる。僕はお決まりの挨拶をするべく笑顔を作り出す。


「こんにちは。悠夜会長、錐吾先輩。」

「こんちは!先輩方!」

「こんにちは。雅也君、海斗君。」


明るい金髪に蒼い瞳。180センチはある長身にしては無駄な肉がない。10人中10人が彼の笑顔を一目見ただけで惹かれてしまう顔を持つ悠夜会長。今日もその爽やかすぎる笑顔が眩しいです。



「……こんにちは。1年管理生に海斗。」


そして鴉のような黒髪に黒縁眼鏡でその鋭い目を隠し無表情に近い顔をする錐吾先輩。


にしてもこの2人は本当に正反対だな。僕と海斗みたいに何も言わなくてもお互いに罵り合う関係になればいいのに!……いやもとから僕と海斗はそんな関係じゃないけどね。


悠夜会長が現れたことにより意識した生徒達が僕らから遠ざかる。僕に対してはイジメ。悠夜会長に対しては眩しすぎて近寄れないんだろう。孤独強度のレベルが上がるチャンス!?


「これから君たち2人に来てほしいところがあるんだ。専用武器を持って……。」


専用武器を持って?こんな昼間から何をするんだ?


「僕は持ってますから。海斗は?」

「取ってくるから待ってて下さい!」


海斗は専用武器を取りに自室へと戻る。なんて言ったって弓矢だ。小型ナイフと違い、そう簡単に持ち運べる物ではない。海斗を追うように錐吾先輩が付いていく。


「…………。」

「……あの!」


僕と悠夜会長の2人だけになり沈黙しつつも何とか話を切り出そうとする。


なんだろ。昨日まで彼を救おうと考えてたのとは違う感覚に覆われる。夜は近付きたいと思っていたのに朝は避けたい。矛盾している気持ち。海斗が言っていた違う気持ちってやつか。

それより今の僕が気にかかること−。


「なんで……専用武器が必要なんですか?白昼堂々と何するつもりですか?」


悠夜会長はニッコリとした表情で穏やかに口を開いた。


「年に一度……この時期に2人だけ選ばれる。その2人は嫌でもやらなければいけないことがあるんだ。」


それは答えではない。ただの前置き。


「それは何ですか。」

「クス……それはお楽しみ。」


ニッコリとあの時のステージ上にいた時、女子達が黙り込んだあの笑顔をした悠夜会長。遠くの方で女子の叫びと倒れた音がしたのは気のせいであってほしい。


「取ってきました!悠夜会長!!」


タイミングが良いところに海斗と錐吾先輩が帰ってきた。


「じゃあ行こうか。あの場所へ。」


その言葉を発したのが悠夜会長でどこか楽しげに見えた。

とりあえず僕らは悠夜会長について行くしか道はない。












なんでこんな所に……。

僕達に待ち受けていたのは過酷にも武器など無関係に感じた。



体育館において花や色取り取りの装飾品がありまるで何かの行事の準備が行われている。


「っというわけで、君たちには学園祭の実行委員になってほしいんだ。」

「『っというわけで』……って意味分かりませんよ。」


にこやかに言う悠夜会長に対し冷静に僕は聞き返した。相変わらず錐吾先輩は無言で海斗は錐吾先輩の前では落ち着こうとしているし、見ててそわそわしいことこの上ない。


「ほら、この学園みんな勉強で忙しいし実行委員なんて雑用係なんだよね。だから君たち2人が頑張ってくれればいいんだよ。」

「だったら悠夜会長と錐吾先輩がやればいいじゃないですか?」


2人なら……管理生で信頼もされているこの2人なら別に僕達じゃなくても良いはずだ。僕の疑問に錐吾先輩が面識臭そうに溜息をついた。


「僕たちは去年やりましたから……実行委員は一回切りしかできないんですよ。去年とだいたいかぶってしまうので、こうしてまだ学園祭を体験したことのない1年生を1名と学園祭の基準を知っている2年生を1名、学園側で選ぶのですが今年はどうやら1年生が2名のようですね……。悠夜会長。」

「そうだね。刹陸学園理事会の決定権は絶対だから。どういう志かは分からないけど多少僕たちも手伝うように言われて下準備だけはしといたから……後は学園祭でやるプログラムや必要な人員はまかせたよ。それじゃ健闘を祈るから。」


必要な人員?検討を祈る?まったく意味が分からない。

僕は悠夜会長に諦めたような視線をひそかに……いや睨む形で送った。


「……んっ。これから僕と錐吾は生徒会の集まりあるから後はよろしく頼んだよ。」


優しげな笑顔。

僕の思い届かずっ!?


「分かりました……。」

「じゃあまた後でね。」

「…………。」

「…………。」


軽く手を降る悠夜会長と無表情の錐吾先輩を見送って僕らは無言に陥った。


確か下準備だけしてくれたんだよな……体育館の装飾だけか。




というより










凄くメンドクセー!!!

僕のキャラが崩れるくらいの叫びをあげたい。いやありえないだろ。この学園はどんだけ特定の生徒に重労働させる気だよ。なんだ?過労死をさせたいのか!?僕はどうやら生徒達だけでなく学園理事会のお偉いさん自体にも嫌われているのか!



「やったね!雅也。楽しそうじゃん!実行委員なんてそうそう出来るもんじゃないよ!!」

「海斗……分かってる?海斗も実行委員なんだよ?」

「…………。」

「海斗?」

「えー。なんでだよ?やだー!!こんな雑用係!!俺がなんでしなくちゃいけないんだ。」


他人事だと思っていたのか……。悪いな海斗。お前は僕と同じように嫌われてるんだよ。


「なんて僕は自虐的だな……。」

「えっ?なんだよ。まさ……。避けて雅也!!」


さっきまで嘆いてたのに何かに気付いたように突然声をあげた。


「えっ?」



シュンー!




その瞬間、黒い物体が目の前からやってきた。


「…………っと。」


それを紙一重で避ける。

手裏剣?なんで昼間のこの時間に……。


僕の目の前にいる女子生徒の両手には手裏剣が握られていた。辺りを見回すとさっきまで装飾をやっていた生徒達がそれぞれ武器を抱えている。






……それじゃ健闘を祈るよ。






さっき悠夜会長が言っていた言葉を思い出した。そう言うことか……。だから専用武器が必要なのか。


海斗も事態だけは納得したのか弓矢を構えられるよう手だけを動かした。


手裏剣を持つ女子生徒が口端を下げやれやれと仰いだ。


「実行委員になられたのが1年生だけとは嘆かわしいことですわ。この学園も落ちたものですね」


目の前にいる女子生徒はどこか上品に思える。どこかのお嬢様だろう。しかし手裏剣を構えてはいる姿は似つかしくない。


可愛いのに勿体ない。


まだ争う気はないのかな。お近づき……いやこの状況を説明してもらわなくては。


「どういう事ですか?実行委員になるには2年生と闘わなくてはいけないのですか?」

「何も聞いていないのですか?」

「はい。なんにも。」

「学園祭の準備は実行委員と2年生が基本的に行います。先ほど悠夜会長がおっしゃったように人員があなたたちには必要です。しかし私達もどこぞのしれぬ者などに従うほど落ちてはいませんわ。だからこうしてあなた達を試すのです。私達、殺戮生徒達がちゃんと納得するまで……これでいいですか?」


人員を確保するために戦う?弱肉強食のような感じか。


「分かりました。最後に1つだけ。これは毎年行われることですか?」

「ええ。毎年です。それではいいですね?」

「いいだろ海斗?」


どうせ、この道も通らなくては行けないのだろう。見たところ錐吾先輩がいないことに安堵する。錐吾先輩って百発百中だもんな……命がいくつ合っても足りない。

えっとー人数は30人くらいかな。2年の殺戮生徒全員ってところか。見たことのない武器も存在するがやってみないとわからない。


なんかワクワクしてきた!


「俺はOKだよ!!」


海斗の瞳が妖しく輝いた。その時、お昼休みが終わり授業の鐘が鳴り響いた。



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