第8章 前編 試験中は隅っこで
全校庭を使い月が昇る頃
殺戮生徒達は漆黒の瞳へと変わる
「実力試験のルールは無傷で自分の学年で生き残ることだ。傷を負えば試験失格。傷を負った順で最下位が決定し最後に残った1人が管理生になれるというサバイバル形式。分かったな?」
全校生徒の3分の1をしめる殺戮生徒が校庭に集合して道化師の言葉に耳を向ける。恐ろしいことに悠夜会長、錐吾先輩の姿を確認したときには周りの殺気めいた視線に僕の呼吸がしづらくなった。
悠夜会長を見ることさえ許されないのか。いやそれとも1年に対して圧力をかけているのか。2,3年生は道化師の説明を注意深く聞いているもののこれから行われる試験にピリピリしている空気が伝わってくる。
「試験会場は校庭。1,2,3年生が合同で行われている。1年はこの東校庭。2年が南校庭。3年が森と化してる北校庭。西校庭は3年合同で使って良いことになっているがよほどの自信家の限り行かない方が良い。そこは最強の神が待ち受けている。」
道化師が故意的に悠夜会長を見るとニコリっと笑った悠夜会長が道化師に無言の制圧をかけた。
悠夜会長が陣取っているのか。管理生になりたいがために闘いを強者共が挑むが悠夜会長にかなう者はいないんだろう。僕も1度は闘いたいし専用武器を知りたいとも思ったがそれで自分の地位がなくなると思うと嫌だ。ルールは全学年共同だ。たとえ別の学年にやられたとしても……。
「闘え!俺と!!」
はい。試験が始まり20分がすぎました。周りに見えるのは東校庭特有の5メートル感覚に設置されている木ばかり。僕の現在地は東校庭の隅っこの自然とふれあおうコーナーらへんだろう。なにぶん砂埃しか立つことのない中央にいては標的にされ失格にされることが間違いない。まぁさておき、目の前に現れた漆黒の服に身を包んだ男子生徒が僕の前へと立ちふさがってきた。
誰だろ……最低限の孤独を愛する僕にはこの生徒の名前が分からない。それが孤独強度を高めることに精進する僕の努力が垣間見えている。ふっ……汗と涙の結晶!
という自己陶酔の思考回廊を巡り合わせるほど猶予を与えているのに動きが遅い!
男子生徒が構える前に僕はナイフで彼の頬をかすめる。赤い液体が少量流れ男子生徒はその速さに目が閉じられないのかあきっぱなし。ドライアイにならないことを祈って……。
「闘う価値がないよ。」
そう言ってナイフをしまう。男子生徒は漆黒の大柄の男によって除外される。除外といっても試験失格なので寮へと連れ戻されるわけだが。これで5人目だった。だけど武器を構える前に相手を負かす。それが僕の戦法。
「管理生みっけた〜。」
明るい声に前を向く。日本刀を持った女子生徒が勢いよく振り下ろした。これまた知らない女子。告白しにきたわけじゃないのがよくわかるほどの情熱的な目は狂気だ。
「みんな教訓でもされたのか特攻隊のごとく真正面から来るんだよな。そんなので管理生相手に勝てるわけがないだろうに。」
「んっ?何言ってるの!聞こえない〜。」
そりゃそうだ。独り言だからな。
僕は日本刀を避けつつナイフを強く握って隙を伺う。
夜の場合限られた明暗、視野でしか相手をとらえられないため誰と闘ってるかさえ分からなくなる。知ってることは道化師達に常に見張られてることぐらいだろうか……。あちこちの視線に襲ってはこないだろうかとは思ったもののそれでは実力試験の意味がない。
キュインー
「何のお……」
「キャッ!!」
そこで振り返るが体の方が早く動き何かが服をかすり地面に刺さる。血は……出ていない。しかしそれは女子生徒の腕もかすめていたらしく女子生徒は刀を落としてしまった。血が流れている。失格だな。それも横取りされた。僕の獲物を。
見知らぬ男がその女子生徒を手刀で眠らせ持ち運び気配をたった。
地面に突き刺さっている何かをつかみ僕は確認する。
キュインー
何かが放たれる音にとっさに身構え来る場所を確認し避ける。
「矢……?」
手に持って確かめると同時にまた弓矢の音が連続でし矢がこちらへと来る。っが打たれる方角がバラバラでどこから来ているのか分からず、ずっと避けるしかない。
「どこにいるんだ。」
場所さえ分かれば接近しナイフで何とか出来るのに……弓矢は長距離戦向きだ近距離のナイフとは違う。
それに最悪なことに弓矢。僕の苦手とする人物が使っている武器に僕は知らずと冷や汗をかく。錐吾先輩のせいで対抗が出来てしまったらしい。
それに動きたいのに動こうと定めた場所にちょうど矢が来て逃げられない。どれほどの名手だよ!この1年管理生に向かってこんな矢を連射する奴は!一度地球温暖化について話しておかないと.
矢はな、木で作られているんだ。こんなにやったらもったいないじゃないか!!!
にしても、弓矢なんて誰が使って?
「こんなもんなの?雅也!」
暗闇から現れた人物に目を見張る。見上げた木に佇むのは僕のもっとも避けておきたい兼親友。
「海斗……。」
僕の漆黒の瞳がゆらいだ。
それは僕にとって1番闘いたくない相手だった。
「雅也〜避けてばっかじゃ勝てないよ!!」
弓矢を巧みに操る海斗は闘いさえもゲームと化すのだろうか。
「海斗。何でお前が?」
「だからいってるじゃん!俺は管理生を倒して強くなりたい!それがたとえ雅也だとしてもゲームではよくあることだから!ってさっきから何度目だよ!」
この闘いは試験はゲームなのか。海斗にとってはゲームなのか……。僕と同じ思考を持つ同族−海斗。僕は親友とは闘いたくないよ。
「海斗は管理生になりたいの?」
「そうだよ!ゲームの主人公はトップに上り詰めることに意味があるんだよ!雅也はそういうことも知らないの〜?」
「いつ海斗がゲームの主人公になったんだよ。」
「最初っから!雅也は脇役に過ぎないよ。」
「ふざけるな。そんなもの妄想だ。現実を見ろ。今の主人公はこの僕だ!」
「…………。」
「…………。」
僕と海斗の間に睨み合う形で静寂が生まれる。なんとかして別の策を考える。
退くか?闘うか?それじゃ、結局変わりない。管理生なのだから正々堂々と逃げることなく闘うべきだ。だけど傷つけたくはない。ナイフを握っていた右手が汗で滑る。
「ね〜!雅也?勘違いしてない??どうせ俺らは闘う運命にあるんだよ!管理生になれるのは1人だけだからどうせ闘うんだよ!なのに雅也が闘う気がないんじゃ俺つまんないじゃん!俺たちは友達だよ。だからこそ正々堂々とやりたいんだ!これじゃウサギを狩る獅子の気持ちにもなれやしない……。」
そうだよな。どうせ闘う運命にあるんだ。だったら逃げずに正々堂々とやらないと。
「ウサギ?悪いが俺は狩られる側じゃなくて狩る側の方が良いんだけど?」
「やっとやる気になってくれた!?それじゃ俺を狩れるもんなら狩って見てよ!!」
そう言うなり弓を構える海斗。それに対し僕はナイフを構え直す。
「勝った方が主人公で良い?」
「あぁ。もちろん。」
僕らは笑いあい動き出した。