第6章 後編 殺戮試験内容
限られた者しか出入りすることの出来ない部屋
それは血に溺れてしまった者だけが許される
「お聞きしたいことがあるんですが良いですか。」
「なんだい……雅也君。」
生徒管理室ーそれは管理生だけが足を踏み入れることが許される場所。部屋は教室の半分ぐらいで両脇にロイヤル系の本棚。中央に長机、向かい合うようにして木材のいすが3つずつ並んでいる。そして大きな窓から見れるこの学園の校庭と夕焼け色に満ちた景色が目を引く。
僕の目的の人物ー金髪に切れ目な蒼い瞳は細められ本に見入っている。端正で整っているその顔はいつみても眩しすぎる。いすに座り足を組み頬杖をついている悠夜会長はどこか気品があり額縁に納めておきたいほどだ。僕が話しかけても読書は続けている。僕が邪魔なのか……。だけどこっちは詳細が知りたいだけだし、さっさと聞いて帰ろうか。
自己決定を心の中心らへんで考える。よし!善は回らず急げだ。
「実力試験のことなんですが、あれでトップにならなければ管理生が変わってしまうって本当ですか?」
「うん。そうだよ。だから頑張ってね。管理生は一般の学校で言う学年委員長のような者だから……それで管理生になれなかった場合は今までの特待生扱いなくなるから気を付けてね……。それともその扱いが嫌だったら別に良いけど……。」
本を読みつつ、口だけは動かす。その口調は本を読んでない時と同じに感じる。このまま目をつぶっていれば本を読んでいるなど誰も思わないだろう。それにしても、特待生にだけある扱い……食事、出席日数、内申、そして周りからの態度。この周りの態度はけっこう酷くなり、管理生と言う立場が嫌になりそうなことが予想されるが、孤独強度を上げておくか。
そして、付け足すように悠夜会長は口を開く。
「それとこの学園創立時から実力試験で管理生が変わったことがないから気をつけてね……。」
その気をつけてね……はどういう意味だろう僕は冷めた目つきでため息をついた。
「分かりました。ありがとうございます。」
そう言って一礼する。相手への敬意を込めて。生徒会長に対しての敬意と殺戮に対しての敬意を。
この世界を作りあげた悠夜会長は優しい微笑みを僕に向けた。
「慣れた?この生活。」
「はい。悠夜会長を信仰するヒステリックな住人達に日々命狙われてる罪人の気持ちがわかりました。」
「クスクス。面白いこと言うんだね。」
冗談だとでも思ってるんですか。僕は常に迷惑ですけど、この生活で自分が強くなってきてるのが分かるからいいですよ。なんと言っても相手は上級生だ。武器使用されたら避けるか太刀打ちするかの選択しかないから。
あっ、そういえば。
「悠夜会長。貴方はこの生活に慣れているんですよね。僕に教えて下さい。」
「何か問題が?」
「クラスの生徒を統括出来る術を。最近、わがままな連中が増えてるんです。この前は自習時間に武器を出して遊んでましたよ。このままでは危ないですよね。」
本当に困っている。それを統一する管理生の立場は辛いものだ。その時は僕が武器片手に悠夜会長をマネしてニッコリ笑顔で注意した。何を感じたのか苦笑いで武器をしまってくれた。
ふっ……技は盗んでなんぼ。悠夜会長に感謝!
僕の困った表情に悠夜会長は、うーんと考えからニッコリ爽やかすぎる笑顔を向けてきた。
ヤベー余りの爽やかさに僕の身体が惚れ込んでるのか寒気がする。
「そうだね……調教してあげるといいよ。」
ちょっ調教?
「僕の時も最初は酷かったんだ。そういう人は身体に教え込まないと……ね。」
「……例えば何を?」
「とりあえず授業に支障がないように利き手ではないほうの手の指を全て折る。そして縛り上げて急所以外の外部を損傷し、血が露出しないように内部出血させまくる。」
笑顔で言う悠夜会長。その光景は想像しただけでも恐ろしい。楽しげに殺って……じゃなくてやってそうだな!
「そして極めつけに夜間授業でその行為をわざと公開することで恐怖を埋めつける。そうすればたいていは落ち着いてくれるよ。」
「……。悠夜会長は出血を見るのが好きなんじゃないですか?」
「どうして?」
「いや殺人で快楽を感じるのなら血を見て喜ぶのかと思って……。内部出血とかでは血は見れませんよ?」
僕のふっとした疑問に悠夜会長はクスクス笑って、本を閉じた。そして僕をじっくりと見た。
顔に何か着いてます?
「……クスクス。そんなことを聞いたのは君が初めてだよ。そうだね……人を殺す行為は快楽に直系する。それは人様々なんだけど。殺される側の悲鳴が最高だと感じる生徒もいれば歪んだ顔、原形を留めぬ姿を作り出すのが好きな生徒もいるよ。別に皆が皆、血を見るのが好きな訳ではないよ。」
「へぇ……皆、血が好きだと思っていました。」
殺人鬼ってそういうものばかりだと思っていたけど違う。想像と現実の違いってやつか。
「それは偏見だよ。あっ。錐吾君は弓矢でしょう?彼は物理的攻撃にしては血は見づらい。だから動く標的が一発で視界から消えることで満足する。ゲーム感覚で殺人する子だよ。……けど僕は違う。」
「えっ?」
遠くを見つめるように目を細める悠夜会長。
「僕は殺人することは素晴らしいとは感じない。だから血は見たいとは思わないんだ。」
驚いた。悠夜会長は最も血に染まっている気がする。その行為に満足してそうな気が……それも僕の偏見か。
「誤解してました。」
「んっ?」
「けれどその行為は死ぬより恐怖を感じます。人がすることではないです。」
ぼそぼそと呟いた思いは悠夜会長に届かなくていい。
「雅也君……なんて言ったの?」
「いえ。それでは失礼します。」
「……そう。じゃあね。雅也君。」
最後まで笑顔を向ける彼に背を向け歩きだす。僕は悠夜会長を好きになれないかもしれない。感覚が違いすぎる。
あの人は殺して楽にするよりも痛みつけるだけ痛みつけて死ねない恐怖を永遠に続けるんだ。
どんなに殺してくれと哀願したところで彼は優しい笑顔で苦しみを与えるに違いない。
階段を駆け降りる。
「……殺さないことが優しさだなんて限らないはずだっ。」
僕は何故悠夜会長が神だと言われてるのが分かった気がした。