読者への優しさ
本編じゃないよ
崖を登っていた。
いろんなことをした。両手では足りない。店の手伝い、教師の真似事、大勢の前で話し、見知らぬ多くの人と会話をし...見知らぬ多くの人に...よくわからないな。ものを作ったりもした。
思いのほかうまくいったものもあった。上手くいかないものに多くの時間と労力を割いた。上手くできるようにしたいと、考えたのだろう。結構なことだ。
自分はあまり器用な方ではない。こう言うと語弊があるか...訂正しよう。
全くもって不器用だ。
だから、よくドジを踏む。
気のつく方ではない。周りをよく見れる方ではない。
だから、よくケアレスミスを起こす。
そんな私の様子を見守ってくれる人もいたし、そんな私のうまくいかない動作一つ一つに対して厳しく目をつける人もいた。
そんな私に対して呆れる人もいたし、手伝ってくれる人もいた。「お前にはそういう不得手な部分があるのはわかっている。好きでそうなっているわけじゃないよな」と、理解を示してくれる友人もいた。
もっとも、記憶には厳しく当たられることのほうが多かったか。
その度に、足場は少しずつ小さくなっていった。
その時は目の前の崖を登ることに必死で、自分の腕が疲れていることにも、足場が小さくなっていることにも気付かなかった。
あぁ、胸が少し苦しくなってきた。
今はもう、これ以上何も考えたくないな。
少し深い呼吸を挟もうか。
本編に入れない。入りたくない。
無理だ。入れないかもしれない。
辛い、キツい。あぁ、また寝るだけの生活に戻りたい...
ハハッ!
だったら、もう永遠にプロローグだけやっていればいいじゃないか。
...なるほど、その手があったか。




