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とある県のとある山奥の農家に嫁ぐ予定だった祖母の秘密のお話し

作者: 花 美咲

戦争の語り部が皆無に等しい現代の日本、自分の祖父や祖母に戦争の時代のお話しを聴いた事のある人間も皆無に等しいのではないだろうか?

唯一の被爆国である日本なのに、戦争の悲惨さを後世に残す努力が足りないのではないかと私は思う。

TVを視聴していても、平和ボケをしている内容ばかりだ。戦争の悲惨さがあったからこそ、戦争で亡くなった大勢の軍人の犠牲があったからこそ、現在の平和があるのだと言う事を私は、忘れてはいけない事だと思います。

現代の日本、女性は有名になりたい為に、或いは、お金が欲しい為に、いとも簡単に見知らぬ男性に股を開く事に抵抗感が少なくなっている時代だと、私の祖母は私によく嘆く、モラルの低下だよ、お婆ちゃんと思いながら、現に、新人セクシー女優の新作DVDが大量に、毎月、毎月、発売がされているし、職業差別をするつもりはないが、あながち、嘘ではないと私は思う。

祖母の唯一の孫である私は、女の子である為に戦時中の、いわゆる大和撫子の教育を祖母から受けて来た。よって私は、20歳になった現在でも彼氏が存在した事はない。彼氏いない歴20年のベテランである、原因は簡単、祖母の大和撫子の教育が原因だ。

そんな祖母も去年に他界した、今年の初盆、祖母のお墓参りに家族で来た。

父親と母親は、お墓の掃除、お供え物の準備で忙しく動き回っている。

墓石を眺めていると、ふと思い出した事があった。

少女から大人の女性になった頃、祖母と2人きりになった時に、祖母が父親と母親には内緒ねと言い、私に始めて語ってくれたお話しがあった。

(いいかい、戦争の時代はね、好きな人と結ばれるという事は決してなかったの、本来、女性は好きな男性にしか身体を許してはいけないと思うの、でもね、家の事情で、お婆ちゃんは好きでもない男性の元に嫁ぐ事になったの、とある県のとある山奥の農家に嫁ぐ前に、お婆ちゃんは1度だけ過ちを犯した、でも決して、それを後悔はしていないわ。)

私は言った・・・

(それは、お爺ちゃんの家に嫁いだお話しかい、お婆ちゃん。)

お婆ちゃんは左右に首を振る、そして語りだした。

神風特別攻撃隊しんぷうとくべつこうげきたいに、お婆ちゃんの好きな男性がいてね、零戦乗りだったのよ。

私は聴いてみた・・・

(それは、神風特攻隊かみかぜとっこうたいの事を言っているの、お婆ちゃん。)

そうしたら、お婆ちゃんが正確にお話しをしてくれた。

(第二次世界大戦(大東亜戦争)で、大日本帝国海軍によって編成された爆装航空機による体当たり攻撃部隊(特別攻撃部隊)の事でね、戦後、かみかぜと連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が統制をしたのよ。最初は、新風特別攻撃隊しんぷうとくべつこうげきたいと呼んでいたのよ。)

私はお婆ちゃんに聴いてみた・・・

(じゃあ・・・お婆ちゃんの初恋は零戦乗りの人だったのね?)

お婆ちゃんは語ってくれた・・・

(お婆ちゃんの好きな人はね、人間爆弾 桜花おうか だったのよ。)


人間爆弾・・・桜花おうか・・・とは・・・


昭和20年3月21日午前11時20分、鹿児島県の鹿屋海軍航空基地から(神雷じんらい部隊)の異名をもつ第721海軍航空隊の双発の一式陸上攻撃機(一式陸攻)18機、続いて陸攻を護衛する零戦が相次いで離陸滑走をはじめた。

一式陸攻のうち15機は、胴体下の爆弾倉からはみ出す形で、小型の飛行機のようなものを搭載している。

それは、母が子を抱いているような姿だった。

陸攻に抱かれていたのは特攻兵器(桜花)、1.2トンの爆弾に翼と操縦席とロケットをつけ、それを人間が操縦して敵艦に体当たりする超小型の飛行機で、(人間爆弾)とも呼ばれる。

母機の一式陸攻に懸吊けんちょうされて敵艦隊の近くまで運ばれ、投下されると主に滑空で、ときには装備したロケットを噴射して増速し、搭乗員もろとも敵艦に突入することになっていた。

一機で一艦を撃沈することを目的とした、日本海軍の最終兵器だった。

(桜花)は、これが初出撃だったがレーダーで探知して待ち構えていた米海軍戦闘機と遭遇、敵艦隊にたどり着くことなく、全機が母機とともに撃墜された。

護衛の零戦も30機のうち10機が帰還しなかった、桜花搭乗員15名、一式陸攻搭乗員135名、零戦搭乗員10名、計160名もの若い命が、九州・都井岬南東の沖に消えた。


好きな人が零戦乗りの軍人さん、軍人さんの事を話すお婆ちゃんは、私の知っているお婆ちゃんとは思えない程の表情をしている。・・・


昭和20年3月上旬、鹿児島県鹿屋海軍航空基地・・

指揮官・野中五郎のなかごろう少佐と桜花隊第2分隊長である、三橋謙太郎みはしけんたろう大尉に呼び出され、お婆ちゃんの好きな人はこう言われたそうだ。

(新人、お前の初の任務が人間爆弾桜花だ、もう日本の土を踏む事はない、お前は海に消えて行く運命だ。)

そうしたら、お婆ちゃんの好きな人はこう答えたの・・・

(大日本帝国海軍の為、確実に任務遂行致します。)

敬礼をしたお婆ちゃんの好きな人は、指揮官・野中五郎少佐に、こう言われたんだって・・・

(新人、任務遂行は難しいだろうよ、こんな作戦は無謀なんや、本来、新人みたいな若い連中は生きなければいけないんや。それなのに、桜花搭乗員に選び、若い連中の生命いのちを桜花の部品にした。こんな作戦はおかしいんや。俺は護衛だが、この作戦で生き残れるとは思っていねぇ。だから、あえて言ったるわ、お前の命日は、嫌、ここの部屋にいる全員の命日が・・・多分3月21日だ。護衛で生き残れる奴がいたのなら、そいつは、神様に生命を貰えたと言うだけの事や。新人、お前の所属する第一神雷部隊桜花隊は、桜の花びらのように散る運命、だからや、それまでに、お前に、いとる女がいるのなら、好いとる女への思いを精算して来いや。)

指揮官・野中五郎少佐の突拍子な発言に驚く、お婆ちゃんの好きな人は・・・唖然としていると・・・

自分の所属する桜花隊第2分隊の隊長、三橋謙太郎大尉から、こう言われたの・・・

(この世に未練を残さない為にも、すべての事を精算するべき、よって、明日から5日間の休暇をやる。死ぬ前に、家族、好きな女に、別れの挨拶に行きなさい。)

そうして、お婆ちゃんの好きな人は、私に会いに来てくれることになったのよ。

その頃のお婆ちゃんはね、処女がご所望の農家との縁談が決まっててね、嫁ぐ予定だったのよ。

でね、そうしてたら、お婆ちゃんのお父さんとお母さんから、お婆ちゃんの好きな人が、お婆ちゃんに会いに来ると教えてもらい喜んだのね。

私は、お婆ちゃんに聴いてみた。

(普通、縁談が決まったのだから、親は会わせようとはしないんじゃあないの?)

そうしたら、お婆ちゃんは私にこう言った。

(日本の国の為に戦う軍人さんは優遇されるのよ、ましてや戦地に出兵する直前よ、その行為を妨害したら、世間様から袋叩きにされる可能性だってあるんだから・・・)

その頃、お婆ちゃんの家は山のふもとに住んでいて、近くの神社の境内で、お婆ちゃんは好きな人と会う事になったんだ。

海軍兵学校に入校してから、5年は会っていなかったけど、再会をした瞬間・・・

軍服姿の好きな人が凛々しく立っていた。

(久しぶり、5年振りかな?)

好きな人の発言に無言で頷くお婆ちゃん・・・

そして、お婆ちゃんの好きな人は、こう言ったのよ。

(3月21日、出撃します。その日が自分の命日となります、その前に指揮官・野中五郎少佐と、自分の所属する桜花隊第2分隊の隊長・三橋謙太郎大尉から、家族、好きな女へ・・・別れの挨拶をして来いと言われて、5日間の休みを貰いました。)

好きな女・・・その発言に、お婆ちゃんの頭の中は真っ白になったわ。

何年も、何年も、ずっと好きだった気持ちを心に秘めていたから・・・

そして思ったの、戦争は、日本軍は、人間の生命までも部品にした。部品にされたんだ、お婆ちゃんの好きな人の生命を・・・

狂った戦争で、死んでしまうんだって考えてたら、頭の中が真っ白になって、そしてお婆ちゃんに対して、お婆ちゃんの好きな人がお婆ちゃんに、こう言ったの・・・

(自分は、大日本帝国の為とか天皇陛下の為とか、そういう気持ちではなく、君の、これからの明るい未来を守る為に、人間爆弾桜花となって、桜の花びらのように散る事になるでしょう。その前に、あなたのことの演奏を聴きたいと思った。お願いをしてもいいですか・・・)

お婆ちゃんのプロ級の琴は、その頃からしていたんだと驚き、お婆ちゃんに聴いてみた。

(お婆ちゃん、好きな人に会った時、琴を持参していなかったのでは?琴の演奏なんて無理でしょう?)

そう言った私に対して、お婆ちゃんは、こう答えた・・・

(その神社の境内、お社で、お婆ちゃんは琴を習っていたから、お社に琴は置いてある。宮司さんに頼んで鍵を貰い、琴の演奏をしたのよ。)


お婆ちゃんの琴の音色が、神社のお社から境内へと響き渡るのが安易に想像出来た私。


お婆ちゃんの語る表情、きっと、そのお社での琴を演奏している時間は、お婆ちゃんにとって、幸福しあわせだったんだと表情でわかった私。


琴の演奏が終わる、沈黙のお婆ちゃんと、お婆ちゃんの好きな人、そしてお婆ちゃんの目に飛び込んできたのは、好きな人の涙だった。

(自分は海軍兵学校に入学後、貴方への恋心は、心の奥底に封印をしたつもりでした。いざ、出撃となると、封印が解けてしまったのでしょう。ましてや、貴方が農家に嫁ぐと聴いた、それが追い打ちとなり封印が解かれるキッカケとなってしまいました。)



沈黙・・・



目と目が・・・



手と手が絡み合う・・・



接吻・・・



お婆ちゃんのファーストキス・・・

のお話しを聴いた私は、ガールズトークのノリで、続きのお話しを催促した。


お婆ちゃんの表情は赤面・・・


そして・・・


抱かれたと・・・


抱かれてる最中、すべてを、言葉にしてくれた。


そして・・・



後悔のない処女喪失・・・



お婆ちゃんは私に語ってくれた・・・



そして同時に結婚のお話しは白紙状態となったと、お婆ちゃんに聴かされた。

お婆ちゃんの結婚相手は、徴兵制度で落ちて軍人さんになれなかった男性、地主で農家で、お婆ちゃんとお婆ちゃんのお父さんとお母さんが、食べる事に困る事がないから・・・と、単純な考えで結婚を決められたんだと、後になってわかったんだと、お婆ちゃんは私に語ってくれた。


そして・・・


私は、お婆ちゃんに質問をした。


(処女が、ご所望の農家との結婚はなくなったの?)


そうしたら、お婆ちゃんは私に返答する。


(正直にお話しをした、軍人さんだったから、宮司さんにも、親にも、嫁ぎ先にも、誰にも怒られる事はなかったわ。)


その後は、どうしたのか?とお婆ちゃんに聴いた私・・・


お婆ちゃんは、こう答えた。


(抱かれたお社で、出撃する3月21日のお昼頃、ずっと琴を演奏していた。何時何分何秒に戦死するかわからないから、そして後日、敵艦に到着する事なく、宮崎県都井岬南東の沖に消えた、全滅だった、無駄死にだったと知った。)


お婆ちゃんは、後日、すべてを知ったのよ。


隊長らしい覚悟の訓示


「戦わんかな、最後の血の一滴まで、太平洋を血の海たらしめよ。」


この言葉を脳裏に刻み、人間爆弾桜花になる、お婆ちゃんの好きな人・・・


午前11時35分、「桜花」を腹に抱いた一式陸攻は、次々に飛び立っていった。

午後2時頃、敵グラマン50機の迎撃にあい、桜花を落として応戦したが・・・

戦死160名(桜花15名、陸攻135名、戦闘10名)


戦果・・・0


軍人にとって定め難い運命とはいえ、半年以上にわたり訓練を重ね、敵を目前にして、全滅の悲運にあった搭乗員の無念は、察するに余りあるものが有る。


宮崎県・・・都井岬・・・


私は、お婆ちゃんの言葉を聴きながら、この言葉に幼少期からの思い出があった事を思い出した。

宮崎県都井岬展望台、毎年、毎年、春先に家族旅行で訪れていた。

お婆ちゃんが海に向かって手を合わせる記憶もある、この時に、何故、毎年、宮崎県都井岬展望台を訪れていたのか理由が解明された。

しかし・・・

お爺ちゃんも一緒に同行している、お爺ちゃんもお婆ちゃんと一緒に海に向かって手を合わせている。

私は、その事を、お婆ちゃんに聴いてみた。

お婆ちゃんは、教えてくれた。

(お婆ちゃんの心の中には、常に好きな人がいる。それでも構わない、すべてを承知で、お爺ちゃんが包み込んでくれたのよ。だから、海に向かって一緒に手を合わせてくれるのよ。)

お爺ちゃんの心の懐の深さに、私は驚いた。

好きな人の心には、好きな人の好きな人がいる。それを承知で結婚をする。

私には、理解不能だと思った。

それほど、お爺ちゃんは、お婆ちゃんの事が好きだったんだと理解が出来るが・・・


そして、驚愕した私・・・


処女喪失・・・愛してる最中に・・・


好きな人が言ったそうだ。


(君との間に子供が産まれて、女の子だった場合、名前は・・・美琴みことって名前を考えていた。)


お婆ちゃんの琴の音色が美しいから・・・と・・・


そう、お婆ちゃんのお話しから、自分の名前の由来を聴かされるとは思わなかった。

お婆ちゃんは、私のパパしか産まなかったから、孫の私が女の子だったから、美琴と言う名前を、パパに頼み込んだと聴いた。お爺ちゃんは、ママに土下座をしたとも聴いた。

私は思った・・・

私には、お爺ちゃんが2人いるんじゃないのかと・・・


そう思っていると・・・


(美琴・・・みーこーとぉー)


(美琴・・・みーこーとぉー)


私の名前を呼ぶ、パパとママ・・・


パパは言った・・・

(墓参りは終わったし、帰るぞ美琴。)

私は答える・・・

(うん、あのさぁ~、今度、いつ、お爺ちゃんの所に行くの?)

ママが返答する・・・

(初盆の墓参りが終わったって報告がてら、今度の日曜日かな・・・)


私は、老人ホームに軽度の認知症で入所しているお爺ちゃんに会いに行って、パパとママのいない隙に聴いてみようと思う。


何故、お爺ちゃんは、お婆ちゃんと結婚をしたのか?


初盆のお墓参りの帰宅途中に思う・・・


私であった・・・


でも、軽度の認知症のお爺ちゃんだから、お爺ちゃんは語ってくれないかもね・・・


「終わり」

















神雷部隊の事を勉強した事で、指揮官・野中五郎少佐には敬服する。

当日、陸攻隊を指揮した野中五郎少佐は、数多の実戦経験から、一式陸攻が桜花を搭載したまま、無事に敵艦隊上空に到達できるとは考えておらず、

(俺は、たとえ国賊とののしられても、桜花作戦だけは指令部に断念させたい)

と、後輩の指揮官に漏らしていたと言う、出撃前夜には、桜花隊・第4分隊長の林 富士夫大尉に、

(ろくに戦闘機もない状況では、まず成功しないよ、特攻なんてぶっ潰してくれ。)

と遺言していた。

野中五郎少佐の言葉もむなしく、以後、桜花隊の出撃は10回にわたって続き、神雷部隊は、桜花搭乗員55名を含む829名もの戦死者を出した。(陸攻搭乗員や護衛の零戦搭乗員、また零戦で特攻出撃した者も含む)、桜花による戦果は、米側記録との照合で、駆逐艦1隻撃沈、3隻に再起不能となるほどの大きな損傷を与え、ほか3隻を小破させたことが判明している。

戦争の是非を問うつもりはない・・・

ただ、指揮官・野中五郎少佐と言う人物の発言には敬服したいし、世の中に、もっと知ってもらいたい人物の1人であると私は思います。

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