47話:罪深きメイドを罪深く愛でる
さて。
タイトル参照のこと、自分でもクズ野郎と自覚していますが、構いません。
どうせ私めは罪深きヒッキーです。うんこ製造機です。
勤労の価値が前世よりも高く、労働の価値が前世よりも低い、悲しきこの世界にあって、私は今、とんでもなく自堕落な生活を送っております。罪悪感をもよおさずにはいられませんね。もよおしてもなんにもしないけど、ヒッキーだから。
「ところで、昨日は夜なべしてこんな衣装を作ってみた。こんなダメな主人を介護してくれるメイドさんにプレゼント」
「え、え、え?」
昼に寝て夜に活動する自堕落生活。
やらなくちゃいけない嫌なことがある時って、普段はやらない単純作業が捗るよね。何もやる氣にはなれないと言ったな、あれは嘘だ。
見た目カレーパン、中身麻婆パンを食した後、綺麗に手を拭き、唇も拭いてさっぱりしてからブロークンオレンジペコな紅茶をいただきまして、なんとなく落ち着いた頃、私は昨晩の成果物をサーリャに差し出しました。
「着てみてみてみてみてみせて?」
「え?……ええ」
サーリャは、そんな唐突な、無茶な要求にも戸惑いながら、それを受け取り、我が意に従ってくれました。さすメイ。さすサー。
私は枕を、むっちりした太ももから布と羽毛のそれに変えて、目を閉じて衣擦れの音を聞き、待ちます。
無心で待ちます。悪い、こういう時の邪心は前世に置いてきた。
「そのままご覧になられても、構いませんが……見せつけるほどの身体でもありませんし」
「……持てる人の過度な謙遜は、時に貧者を傷付けるよ?」
……程なくして。
「……着てみましたが……可愛いのですが……前にアリスが着たきり雀をしていたモノと少し似ていて、複雑ですね。なんですか? これは」
「そういえばこういうのも作れるなー……と思い出したマーチングバンド風衣装。ミニスカメイド服とどっちを造ろうか悩んだけど、よりサーリャが当惑しそうな方を選んでみた。帽子に高さがもう少し欲しかったけど、そっちは専門外だから、ベレー帽風のキャップにリボン。赤と白のコントラストに、可愛いピンクのリボンが映えるね」
「少し胸がきついのですが……」
「そこがこだわりポイントです。ぱっつぱつ」
「えええ」
まぁ運動する服でもありますからね、緩めだと生体兵器があっちゃこっちゃに跳ね回って、自爆兵器になってしまいそうです。立った時つま先見える? 私は見えるよコンニャロウ。かかとまでバッチリクッキリだよコンチクショウ。
「……どこから”ツッコ”めばいいのかわかりませんが、ありがとうございます?」
「うむ。それで、それを着たサーリャには、実は言ってほしいセリフがあるのだ」
「……もえもえちゅーにゅ、ですか?」
「うむ、違う。いやそれはそれでいいのだけれども」「いいのですか? 禁止令、解かれます?」
ぐぬぬ。心が少し揺れることを言いやがって。
「……いやそれはそのままで。今言ってほしいのはこう……ヘルシー! ハッピー! コミュニティ! イェーイ!」
「……なんですか? それ」
「松本家のきよし君に対抗すべく結成された、セブンなイレブンの大元が展開するドラッグストアグループのロゴ……の上にたまに書かれてるフレーズを、その衣装の元ネタ風に元氣良くしてみた感じ?」
「……”ボケ”が複雑すぎて何をどう言えばいいかわかりませんが、私に上手くできるでしょうか?」
「上手くできなかったら私、明日からピンクのクマのキグルミを着て過ごすから、頑張って」
「……」
「うん、それもアリかどうか凄く葛藤した様子が見て取れたけど、頑張って!」
「ん……う……はぃ……わかりました」
このメイドさんはなんだかんだいっても私に忠実です。素晴らしいことですね。でも下着の匂いを嗅ぐのだけは止めてね。それをしたら絶交だからね。
「ふぅ……すぅ……へ、ヘルシひ! ハッピー! コミュひティ! イェぇぇぇーイ!」
「噛んでる! もっと滑らかに! 元氣良く! スマイルでラッキーな感じで!」
「ヘルシーぃぃぃ! ハッピぃぃぃ! コミュニティぃぃぃ! い、イェーイぃぃぃ!」
「やけくそ感が強いよ! もっと嬉しそうに!」
「ヘルシー! ハッピぃ! コミュニテぃ! イェぇぇぇー!」
「いい笑顔だよ! もっといける! ワンモアセッ!」
「ひぇるシー! ハッピぃー! コミュニティー! イェーーーイ!」
「おーけぃ! 良かったよ! 仕上がってたよ! ナイススマイル!」
「ありがとうございます!?」
なんだこれ。
某軟膏プレイからドラッグストアを連想して、そういや私のチートってイオ●ハ●コムのアレみたいだなぁと連想して、そこから更にハ●ハピを連想して、それからもう有り余るヒッキーな時間でネタを仕込んで……色々と暴走してみましたが……どうも笑うには異次元でカオスな仕上がりとなりました。関係各所の皆様、どうもごめんなさいです。スマイル!
……あ、当然ヘルシーとかハッピーの部分は、こちらの世界の言葉で叫んでもらってますよ? 実際はなんて叫んだのかって? ヘルシーがエルでハッピーがプサイでコミュニティがコ●グルゥだよ嘘だよ。
……うん、もう思いついただけパロディをぶち込むのは止めよう。
「ティナ様、今日はまた一段と物憂げですね?」
「ん?」
ひとしきり、今日のやりたいことをやってしまって、私がベッドにうつ伏せになっていると、サーリャが特に心配そうというでもなしに、今日の晩御飯は何がいいですかと聞くような口調で、軽く問い掛けてきました。
だから私も、軽い口調で返します。
「今は敵の動きを、攻めを待つフェーズだからね、そうは言っても、ずっと警戒して、不安になって、緊張してるわけにもいかない。いつでも動ける体力を温存しておかなくちゃ」
「それはそうなのでしょうが……だらけすぎていても、いざという時に動けなくなりますよ?」
「ふむ、一理ある」
私は、ならばと、そこで身体を起こし、ベッドの上でいわゆる女の子座りをして……ならば今日……というよりは、いつかやりたいと思っていたことを、時間も余っているし、せっかくだから今、ここでしてしまおうかなと思い、口を開きます。
「なら、私は今からちょっと自分に、負荷をかけてみようと思う。自分自身に負荷のかかる話をする。だから……それを……聞いてくれる? サーリャ」
「ティナ様ご自身に負荷がかかる……お話ですか?」
うん。
「ずっとサーリャに黙っていたことを、今ここで話しちゃおうと思うんだけど」
「……ティナ様の秘密、ですか?」
「どうしてそこで顔を赤らめたのかはわからないけど、まぁそう」
「聞かせてください。聞きたいです!」
「なんか凄い喰い氣味なんだけど! 怖いんだけど! 予想よりも負荷が深くなりそうなんだけど!」
まぁ、そんな感じのやり取りを経て、私はここでサーリャへと話してしまいます。
私の正体。
「前世で私は、
……って名前の人間だったんだ」
前世の記憶がある、元は男性ということ。
「……うん
……血液がおかしくなってしまう病気
……歳の時に死んじゃった」
二十代の半ばで親に迷惑をかけ、死んでしまったこと。
父が、母が、どんな人間で、俺は二人をどう想っていたかとか。
前世ではオタクと呼ばれる人種として生きていたこと。
それは世間的には、あまり良いイメージを持たれていないこと。
そんなだから、結婚どころか恋人もいないままで死んでしまったこと。
死んで、女史っぽい何者かに出会ったこと。
そこでテンプレとは違う妙なチートをもらったこと。
どうしてそんな選択をしたのか、長生きにこだわった理由は何か。
そういうことを、とりあえずは何も考えずに、私は全部、サーリャへとぶちまけてしまいます。
だらけきった、今の私だからこそ、これはできる。
遮ろうとする障壁が、そこに無いから。
「うん、私は私になる前、自分のことを俺と呼ぶ人間で
……うん、その頃は女性が好きだったと思うよ。多分だけど
……覚えてないからね
……そそ、他のことは覚えてる
……でも、そのことだけは、覚えていない
……だから、うん
……私が性的なことには疎い、箱入り娘であることに、変わりはないかも」
まるで、テーブルの上でとけてしまった氷の水が、床にだらだらと零れ落ちていくみたいに。
私から、私の中にあった複雑で厄介なものが、溶けて……流れ出していきます。
「……で、
……だったから
……だったんだ
……その時の私は
……って思ったから
……つまり
……私は
……俺だった私は
……を望んで
……どうしてって?」
私は、サーリャに嫌われたら、もう生きてはいけないという確信がある。
この話は、どれだけ私のことが好きでも、受け入れてもらえない可能性のある類の話だ。
「まだ、あの手の温かさを覚えているんだ」
だから、これも賭けになる。
私という存在の全てを賭け、私という存在を全て晒す。そういう賭けになる。
でも、これはいつかしなければいけなかった博打だ。
サーリャというひとりの人間と、これからもちゃんと向き合って、付き合っていくなら、この告白はしなければいけない。
「まだあの顔を覚えている」
これは、これまで築いてきた関係が、その全てが、取り返しもつかなくなるほど壊れる可能性がある、けれど、そうしてさえ、その先の関係に進みたいと思うならばしなければならない、そうであるからこそ
……吐露した
……だからそれは、あるいはそれは
……プロポーズ……のようなモノだった。
「だから今、私はここにいる。もう一度、ちゃんと生きたいと思ったから」
話している間。
サーリャは合いの手をいれることもなく、ずっと静かに……時に言いよどんだり、言葉をつっかえてしまったり、不意に襲ってきた感情に、胸を押さえたり、そうしながら語る……私という存在の全てを、まるで包み込むかのように、ずっと側で、見てくれていた。
穏やかに、私を見守ってくれていた。
まぁ……その格好が、胸元ぱっつんぱっつんなマーチングバンドのコスプレってことだけが、場のシリアスみを壊していたんだけどね。
「ティナ様は……前世では大変な思いをされたのですね」
喋り終えて、言葉も無くなり、口を閉ざして……たまらず、見上げた私の目に映ったのは、ただ純粋に、心配そうな目で私を見つめてくる……サーリャの貌だった。
格好にそぐわない、大真面目な顔だった。
「最初に……言うのが、それ?」
「私にはそれが、一番、大事なことです」
一番、を強調し、サーリャは言う。
ああ。
でもそっかぁ、そこから反応するのかぁ……。
少しだけ、不安に凍えていた胸が、温かくなる。
「私のこんな荒唐無稽な話を信じるか、信じないか、その段階のアレヤコレは無いの?」
「……そうですねぇ」
と……そこでサーリャは口元をにんまりと歪め、ほんの少し、場の空氣を変えた。
ん?……と思った瞬間、次に発せられた言葉は、メイドにはあるまじきものだった。
「私を騙したくて、そのような話をされたのだとしたら……そうですね、おしおきです」
「お、おしおき!?」
え、ちょっと!?
悪戯っぽい小悪魔な顔で何を言い出しましたか!?
貴女、家庭教師とかではないのですから、そういうことをする権利は無いのでは?
チートのおかげで私、家庭教師にもぶたれたことないのにぃ!
「虚言は寂しいのサイン、と伺っていますからね。寂しくないよう、しっかりと抱きしめてあげます。おトイレに行きたいと思っても放してあげません」
「今ここでその復讐!?」
冗談みたいな空氣にしたいのかな? と思ったので、私も、そこへ合わせに行く。
「ティナ様には先の件で締め落とされていますからね、その可愛らしい鼻も口も、この胸に埋めて、窒息していただく……というのではどうでしょうか」
「復讐のおしおきがなんだかご褒美っぽくなった!?」
悪戯っぽく笑うサーリャに、ソレも悪くないかなと少し思う。
「でもやめてね!? 私、その業界に身をおいた覚えはないんだからね!?」
「それで、虚言なのですか?」
そうだったらこのおしおき、本当に実行するぞとばかりに、サーリャは私の眼前へぱっつんぱっつんな乳袋を突き付け、ぐいと問い掛けてくる。
ほんの極僅かに、虚言でしたと言ってみたい誘惑に駆られるが、それでは、この話をした意味がなくなるとすぐに思い直す。
私は今、プロポーズをしたのだ。
冗談にしてはいけない。
まぁサーリャとだと、なんかどうしても色々が冗談っぽくなるが、それはそれとしてもだ。
「虚言では、ないよ。冗談でもない。真実かそうでないかは私にだってわからないけど、私の認識の中では、それは全部本当のことで、私の記憶の中では、それは全部本当にあったことだよ」
「そう……ですか……」
あ、サーリャの空氣が戻った。
悪戯な小悪魔から、主人を氣遣うメイドに。
その流れはとても自然で、演技であるようには見えなかった。
う~ん……。
やっぱ、計算じゃなくて天然なのかな、この子。
「うん、そう。これは全部本当にあったことで、今生の私が誰にも言えないでずっと抱えていた秘密。ミアにだって話していな……わっぷ!?」
と、そこで私の顔がサーリャの胸に埋められる。
「ティナ様!」「んんん!?」
サーリャの腕が私の頭を抱え、強い力で、その胸に抱かれてしまう。
「ひょっ(ちょっ)!? さーりぁ!? うほじゃないっへぁ(嘘じゃないってば)!?」
ねぇ!? ここで、そのおしおきをされるいわれは無いのですけど!?
「ティナお嬢様!」「んんー!?」
あのさ!? ギャグ時空はシリアスに展開すると危険って知らない!?
私、ボコボコになっても来週には五体満足で帰ってくるギャグ漫画のキャラじゃないよ!?
……ん? ならアリスってばギャグキャラなのか?
「よくぞ話してくれました!」
「んぐっ!?」
おふぅ。
それにしても、ああもうなんていうか、これはやっぱり物凄い質量感、ボリューム感ですね。ぽよぽよのみっちみち。胸部があげぽよ~です。ぽよってナニさ。見た目のインパクトも凄いけど、こうされてこうなってみると、やっぱりこれは、もっともっと、ええと……もっとこぉ……こいつぁ、とんでもなく物凄ぇモンだなって思いますですよ、ハイ。小並感。んがんくく。語彙さん? おっぱいにハネられて転生しちゃったよ。今はたぶん、いずれの異世界で頑張っておられますよ。いいハーレムが築けるといいね。マジかよ語彙君最低だな。
「お辛かったでしょう! ご両親を残して先立たれてしまうなんて! それを誰にも告白できず抱えていらしたなんて!」
「ん……ん~……んんー!?」
それはそれとして。
抱擁より、数十秒が経過して、息が苦しくなってまいりました。胸部装甲の攻撃力とはかくいうモノでありましたかそうですか。通常攻撃が圧迫攻撃で窒息スタイルのメイドさんは好きですか。
「どうかこのサーリャの胸で泣いてください! 泣いていいのですよ!」
「え、ひや、だからさーりぁ、はふっ!? んー! ちょっ、まっ……はふっ! はーなーひー、もがっ!?」
息継ぎ、さーせーてー!
だからギャグムーヴをシリアスにやると危険なんだってば!
酸素欠乏症って本氣で命に関わるからね!?
大過無く済んでも脳細胞が結構死ぬからね!?
ですが、そう思い必死に逃げようとすると、私の後頭部は、すぐにヒシッとされて、ぽよよんでロックされてしまいます。
知らなかったのか! おっぱいからは逃げられない!
「大丈夫です! 今度こそ長生きしましょう! サーリャはティナ様とずっと一緒です! 生まれた時は違えども死ぬ時は一緒です!」
「そへ、フラグ的な意味でぁ同年同月同日に死ねなひ! あひょ二人じゃ成立しなひしぃ!」
桃園の誓いってなんかエロいよね……じゃなくて!
「ティナ様はやはり特別なお方だったのですね! それをこの私にだけ話してくれた! 私は嬉しいです! ティナ様! 私は嬉しいのです! 感激です! 愛しています!」
ああもう!!
「愛してるならいい加減にしろぉ!?」
「あひん!?」
サーリャの桃園、違う、お尻に、両手でスパーンとダブルの平手打ち。
これ以上ツッコミを躊躇ってたら死ぬわ! の氣持ちで、本氣でいかせてもらいましたよ。
「ぷはぁ!」
それで漸く、サーリャの腕が外れて、やっとのことでまともに息が吸えました。
まったくもう。
まったくもうだよまったくもう。ぜーはー。
「ティナ様がパシーンってされました! ということは次は接吻なのですね! かまぁんです! さぁ!」「ひっ!?」
だけどメイドさんは懲りない! 両手を広げ、迫ってくるぅ!?
「どうしてそれがお約束になったと思った!?」
「おぐっ!?」
右足でサーリャの胸元にキック。襲われたら股間を狙えの護身術が、さすがに股間はヤバイの判断で妙な軌道を描きました。
プチッ……と音を立てて、ぱっつんぱっつんを支えていたボタンが弾け飛びます。あああ……夜なべして造った私の自信作がぁ……。
「予想とは全く違う意味で、ふかふかの負荷が不可避に深かった……」
「取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
ドツキ漫才から数分。
裁縫チートさんが十秒もかからぬ応急処置でボタンを取り付けた、今なお健在な、ぱっつんぱっつんの乳袋を揺らして、サーリャが深くお辞儀をします。
なんていうか、この子もアレよな。
良く出来たいい子で、顔も可愛くて、胸もおっきくて、豊かなる恵みで、でっかくて、壮麗たる巨峰なのに、どうして要所要所でシリアスになり切れないのか。
まぁ……だからこそ私は、サーリャを信頼も、愛しても、いるのだけどさ。
「というか、その部分には全く反応しなかったけど、私が元男で、その記憶を不完全ながらも持っていることとか、だから精神的には実は年上だよとか、そういうのは氣にしないの?」
こちらからその話を向けると、サーリャは「んー?」と可愛らしく悩んでから、答えた。
「男性的な記憶は、消去されたのでは?」
「そうだけど、いややっぱり普通は氣にするもんじゃない? 年下の、貧相な女の子のお側付きになったと思ったら、頭の中身、年上の男性だったんだよ?」
「んー?……けど、私は、ティナ様はやはり女の子だと思いますから。今ここにいるティナ様はとびっきり可愛い女の子にしか見えませんから。実感が湧いてこないのですよね」
「……嬉しいような、悲しいような」
ヲイ聞いているか俺。おんどれ、存在の耐えられない軽さになってるっぽいぞ。
「ティナ様ティナ様、では実感できるよう、少し男言葉で話してくださいませんか?」
「やだよ。それ絶対またコントになる流れじゃない。それに、この世界の言葉で男らしく振舞おうとすると、元ネタにクソ兄貴が混じるから嫌なんだよ」
パパや男性のカテキョを真似してもあまり男らしくならないし。執事は無口だし。
やだ……私の男性(と話した)経験……少なすぎ?
「ということは、今でも前世の世界のお言葉を覚えているのですね? ではためしに、そのお言葉でこのサーリャに、お前を愛しているって言ってみてもらえませんか?」
「……ファーストチョイスがそれ?」
まぁ……いいけどさ。
「──愛しているよ、サーリャ。サーリャが私を嫌いになるか、サーリャが本当に好きな人を見つけて、その人と一緒になるその時までは、ずっと私の側にいてほしいと思っている──」
「長い!? なにかとてもラブいことを言われた氣がするのに、全くわかりません!」
「そこまでラブじゃねぇわ!?」
もうなんかあれだ。
多分サーリャの中では、この一連のやり取りって大真面目なんだろうけどさ。
天然でそうなっちゃう残念な子なんだろうけどさ。
なんですか、この、ぐだぐだとくだ巻いた下らなさの具沢山は。
この話をしようと思った私の、最初のシリアスみを返せよぉ。
「ティナ様ティナ様、あのですね」
「……なに?」
「私が、ではティナ様と同じように、元男性だったとしますよね?」
「……さっきから何度も視界にチラつくぼよんぼよんを前には、想定しにくい仮定だけど、それで?」
「ティナ様はとても可愛らしい女の子です。元男性の私はティナ様に恋をしてしまいました。氣持ち悪いと思われますか?」
「んんんんん!?」
まーた妙なことを言い出しやがって。妙な想像をさせやがって。
あと近い近い近い。またそのでっかいのが私の眼前に来ている。むしろちょいちょい、ふわっと鼻先に当たってる。当ててんのかコンニャロウ。
うーん……。
「どうだろう、初対面で元男性です、あなたに恋しちゃいましたって来られたら、そりゃあ氣持ち悪いかもしれないけど……サーリャだからなぁ。今の私は、サーリャがいてくれないと困るし、なんなら現状で私の服の匂いを嗅いでいることとかも、氣持ち悪いとは思っているけど」
「え゛」
「でも、それがサーリャなら仕方無いと思ってるし……下着に手を出し始めたらちょっと考えようと思っていたけど」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」
だって私、上の方の下着って、必要ないから使ってないのですよ。たとえ鉄棒へ逆さにブラ下がって、上半身をブラーんブラーん揺らしたとしても、そこにモーションブラーなどは発生しやがらないのですよ。だから、もうこの言葉の流れで想像してくださいよっていう、そんな上の下着いらずの、ないすばでぃ()草、なのですよ。ふっ。
だから私の下着はですね、主に、ドロワとか除けば全て、下の紐パンのことなのですよ。
紐パンってね、布の部分はほとんど大事なトコロに密着しているのですよ。
……嫌じゃね? これは普通の女の子でも普通に嫌だよね?
「私が本当に嫌だと思うラインを超えてこない、そういう氣遣いがあるなら、多少は氣持ち悪くても……うん、別にいいと思うよ?」
「なんだか嬉しいことを言われてる氣がしますが、それどころじゃない心が! てんやわんやのわやくちゃにぃ!」
「いや、だから自重できるならある程度までは許すから、落ち着け、な?」
「心得ました! 下着には誓って手を出しませんから、ベッドメイクの際、時折枕やシーツに手を出してることも許してください!」
「ここにきて衝撃の新事実発覚!?」
「最近はアリスの匂いも混じって少し不快でした!」
「ここで私にそれを責めてこれるのって凄くないか!?」
「いいえ! アリスが猫だった頃、この変化はティナ様が大人になられたからなのでしょうかと、のんびり構えていた自分を責めたい氣分です!」
「知らないよ!? 自分を責めるのは勝手だけど流れ弾を当ててこないで!?」
まぁ、だからそれはもういいのですよ。
サーリャが変態さんなのはもうわかったから、いいから。
「まぁ、だから、氣持ち悪い部分があっても、それが好きな人ならさ? ある程度は受け入れられるって話。そもそも、私にとって好きって、相手が完全無欠の素晴らしい人だからとか好きとか、氣持ち悪い部分がまるで無い人だから好きとか、そういうことじゃないんだよ。上手く言えないけどさ」
前世の両親、今世のパパママ、みんなどうしようもない部分があるけど、だから嫌いとはならない。
そういうことなんじゃないの?
「そうなのですか? こんな私を許してくれるのですか? こんな私でも受け入れてもらえるのですか?」
だからさぁ。
あの、さぁ。
だからぁ、あのさぁ?
「それは逆に、私がサーリャに聞きたいんだって。サーリャは前世の記憶がある、元男性の、なんか変なのにチートもらってズルしてる私を、許してくれるの? 受け入れてくれるの?」
「それは」「そもそも私ってさ、数年の内にはどちらかの男性の元へ嫁ぐ身だけどさ」「え」「この枕元に積まれた釣書の誰かに嫁ぐかもしれない身だけどさ」「えええ」「それ、やっぱりちょっと氣持ち悪いって思うもん。この心で、男と子作りしなきゃいけないのか~……っていうのもそうだけど」「えと、あの」「それでも、この人生には必要だからと、その男性を愛そうと努力している自分ってのが、数年後には確実にいるわけでしょ?」「あの、ティナ様」「それを想像すると、やっぱり氣持ち悪いって思うんだけど」
「……ああっ! もうっ!……唐突に、そこへ話を繋げるのは、その方がズルいし! ヒドいとも思うのですがっ!」
何度か、口を挟むのを阻害されたサーリャが、プンスカと頬を膨らませる。
それはハムスターみたいで可愛いと思ったが、でも……だってしょうがないじゃない。
それは、そういうものなんだもん。
「けど、私にはそれ、すごく切実なことだからね」
私は、そこのところをどう説明したものか、真面目に頭を働かせながら、サーリャへと言葉を紡ぎ、繋いでいく。
「私はさ、この心で、男性である夫を受け入れ、どこかの夫人様として生きていく必要があるの。その違和感に比べたらね~。サーリャが元男性とか、どうでもいい類の話になっちゃう……ん?」
……あれ?
すると、言葉で言っていることと、自分の内面の齟齬に氣付いた。
「ん……いや違うか?」
うん……今、未来の旦那様とメイドさんが別枠であることを前提に、具体的に想像してみたら……これ、どうでもよくなんかないですね。
「違うのですか?」
うん違う、全然違う。
「うんごめん、全く違うわ。どうでもいくない。サーリャが元男性? ごめん、それむしろ嬉しい」
「え゛?」
「だって、私の氣持ちをわかってくれる人が、ずっと側に居てくれるってことでしょ? 自分と同じ悩み抱えていて、その辛さとか想いを共有してくれるんでしょ? 最高じゃない」
どうせ私も、だから世間一般からは氣持ち悪いと思われる存在ですからね。それでも社会通念上、正しく生きようと思うのなら、幸せに生きようと思うのなら、それなりの覚悟が必要で、その覚悟を後押ししてくれる何かがほしい。
だから私は、そもそもがハーフエルフで魔法使いと言う、人間社会からは排除されるべき存在であるアリスを受け入れたのかもしれないし、その魔法使いの力を借りなければ再起が困難となった、ナハト隊長を勧誘したのかもしれない。
仲間がほしかったから。
想いを共有してくれる誰かがほしかったから。
ああ。
そっか。
あるいはこれが私の、「好き」……なのかもね。
人生の長い道程を、共に歩きたいと思えたら「好き」。
たぶん、そういうことなんだ。
「……まごうことなき、生まれついての女性で、女性以外の何者でもなくて、申し訳有りません」
「……いや、サーリャが始めた例え話でサーリャに落ち込まれても、私が困るんだけど。あと、なんかもう、なに? 私を押し倒そうとでもしてんの? って勢いでサーリャの顔というか頭が近いから、落ち込まれると、ハニーブロンドが私の上半身のあちこちを撫でるのね。大変にくすぐったいのね。へくち」
それに、だからこそこうして、私はサーリャを「特別な仲間」にしようとしているんじゃない。
この秘密だけは、ナハト隊長にも、今はアリスにも話せないからね。
何度も私を好きって言った、愛してるとも言ってくれた、サーリャだから、伝えるんだ。
「ですがっ……ティナ様」
「うん、いつもながら立ち直り早いね。それはサーリャの美徳だと思うよ。あと顔、やっぱり近いから、ずずずぃって近付いてこないでね」
「確かに私は、ティナ様と同じ悩みは抱えていませんが、その辛さとか、想いを共有することは出来るのですよ?」
うん、無視して更に近付いてきやがります。
女の子座りのこちらが、お尻の脇に左手をついて、そのまま斜め後ろへ反る勢い。右手はおへその上。
けど、この体勢でも、蹴りはいけるんだからね?
女の子座りって、結構蹴りが繰り出しやすい体勢だよね。
「うん、今までも、私にそうしてくれたサーリャには感謝してる。そこに元男性であるとか、生粋の女性であるとか、そんなのは関係ない……サーリャはサーリャだから、私はそんなサーリャが好きなんだ」
「唐突に突然に殺し文句いただきましたー!? ごふっ」
あ、なんかサーリャにノックバックが入った。
計画通り。嘘。ラッキーパンチ。
「……ですがっ、そうです!」
あ、でも三歩下がった辺りで持ち直したようです。ニワトリかな。
「私もティナ様がティナ様であることが大事です。私をぞんざいに扱ったり、私の目の前でアリスにキスをしたり、時には私を締め落としたり、この私の眼前でアリスへキスしちゃいやがる酷いご主人様ですが、それでも私はティナ様が大事なのです」
どうしてキスを二回言った。
「そのことの前には、元男性であることなど、どうでもいいのです。それに、もし仮にですよ? ティナ様が……その、男性的な欲求を、なにかの弾みに、もよおされたのでしたら……サーリャは構いませんよ? この身体、好きにしていただいても。ええ、なんの問題もありません」
「お……ぉぅ?」
なにそれ。一周半回って逆に男らしい。
「誤解しないでくださいね? そうしてほしい、ということではありません。ティナ様はそうした欲求を忘れるために、女史さん……ですか? 神のような存在へ、そうしてほしいとお願いをしたのですよね? であるなら、それもティナ様のご意思ということでしょう? 私が尊重すべきはティナ様のご意思です」
「いえ、私めも別に、前向きにそれを、積極的にそれを、その意思を、通したわけではないのですが」
そこは誤解しないでね? これが何のこだわりなのかは、自分でもわからないけど。
「私は、どちらでもいいと言っているだけです。ティナ様が元男性で、そのように私を求めようとも、そうではなく、私を同性の従者として一生お傍に置いて下さるだけでも、そのどちらでも、私はティナ様に誠心誠意仕え、ご奉仕させていただきたいと思っています」
「……そっかぁ」
私はそこで、いつでも蹴りが行けるようにと籠めていた足の力を……抜いた。
そうして上半身を無造作に、後ろへと無防備に、ベッドへと倒れ込ませる。
もし、これに、この身体に、サーリャが覆いかぶさってきたら……くるのだとしたら……いいや、この身、この私という人間の全て、全部、サーリャへ預けようと思いながら。
社会通念上、何かが間違っているとか、普通なら氣持ち悪い関係と言われるだろうなとか、そんなの、もうどうでもいいや。
サーリャが好きだ。
サーリャとずっと一緒にいたい。
許されるなら、この命果てるまで、同じ道程を共に歩きたい。
だから、サーリャが求めるのであれば……いい。
そこに子を生すという、崇高な使命があるわけじゃなくても。
それは、この二人にとって、けして悪いモノとはならないハズだから。
「そっかぁ……なら、うん……サーリャ、ありがとう」
「ああまたおぐしが。まったくもう、ティナ様ったら」
変な倒れ方をして、変な風に身体の下へと入り込んだ私の黒髪を、サーリャは優しく微笑みながら整える。
そこに、襲い掛かってくる氣配などは、皆無だった。
ここまで押してきたのに、サーリャはそれ以上進んでこなかった。
ちょっと残念なような、申し訳ないような、でもホッとしたような、複雑な想いがよぎるけど、ああ、でもやっぱり、サーリャはサーリャだなと嬉しくもなった。
大好き。
髪を整え終えると、サーリャはただ一言、こう返した。
「こちらこそ、ありがとうごいました」
話してくれてありがとうと、優しく笑う、その瞳が語っていた。
それで。
ああ。
私はこれで……受け入れてもらえたんだな……と思った。
……この子に嫌われたら、私はもう生きてはいけないという確信があった。
この話は、どれだけ私のことが好きでも、受け入れてもらえない可能性のある類の話だった。
だからこれも賭けだった。
サーリャという人間を信じて、私という存在の全て晒す。そういう賭けだった。
でも、これはいつかしなければいけなかった博打で、サーリャというひとりの人間と、これからもちゃんと向き合って、付き合っていくなら、この告白は、しなければいけないモノだった。
だからこれは儀式。
結婚式のような、セレモニー。
サーリャは残念な人で、こんなすっちゃかめっちゃかな私を好きだって言ってくれるちょっと変な人で、ほんのり変態さんでもあって、だけど。
だけど……。
「それではサーリャ」
サーリャはやっぱり、私の大事な人だから。
「どうかこれからも、これまでと変わらぬご愛顧を私に、どうぞよろしくお願いします。私はサーリャを。アナベルティナはサーリャを」
ずっと一緒にいたい。
「──病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、ひとりの人間として愛し、敬い、慈しむことを誓います──」
世界が許してくれるその時まで、一緒にいよう。
「はい……って後半は何をおっしゃったのですか? 日本語? なのですよね?」
好きだよ。
だからこれからも。
「さぁーあね」
どうかこれからも、よろしくね。
「ずっるーい。ティナ様、私に日本語、教えてください! 私、ティナ様とそれでお話ししたいです!」




