46話:ひきこもりの詩
竜の討伐隊へ出兵したことに端を発した、ひとつの事件が終わり。
それで、どうなったって?
「……むにゅう」
こうなったよ。
英雄的聖女、アナベルティナ・タチアナ・スカーシュゴードは、燃え尽きました。
バーンとアウトな人間に堕落しました。
「ティナ様、釣書、目を通さなければ減りませんよ?」
「いーやー。ねーたーい」
「……そのようにおっしゃられても、人は、一日中眠ることはできないのですよ?」
そうですね、何とは言いませんが極上の枕を下にしても眠氣は訪れませんね。ヒントはこの枕の原材料が柔らかい乙女の下半身であるということ。むっちり。このオノマトペに特に意味はない。
「はぁ……どうしてこうなってしまったのでしょう。いえ、これはこれで、とてもアリではあるのですが」
「え、なんだって?」
「だらけるお嬢様をついつい甘やかしてしまうなんて、私はメイドとして失格かもしれませんね、と」
「え、なんだって? おみみないなったー」
「……耳かき、されます?」
「……ついさっきもしてもらったような?」
「それは今朝のことですから……もう四、五時間ほど前ですよ?」
「そっか、じゃあもう昼か」
カーテンを閉め切った部屋には、昼も夜もありません。
聖女、アナベルティナ・タチアナ・スカーシュゴードは、現在絶賛ヒキコモリ中です。
「そういえば昨日だっけ? 王に忠誠を誓う臣民であるなら、竜を説いて率い、敵国を滅ぼすのだと息巻いてたおっさん……の四号君はどうなったの?」
「一昨日です。今回は楽なパターンでしたね。ティナ様が……ならば伯爵様が竜へ直接そう話してください、話はつけておきますので……とおっしゃったのへ、素直に従われたようです。出発したのが昨日ですから、まだ到着はされていないかと」
「ああ、なら後はパザスさんに任せておけばいいか」
少し前まではお屋敷の二階の、ミアのお部屋の隣が私の部屋だったのですが、討伐隊より戻ってきてからはまた三階の、修復が済んだ元々の自室の方に戻ってきました。パパが私のために高級な家具を揃えたはいいものの、二階の部屋には入りきらなかったからなんだそうです。余計なことしやがって。
「まぁ滅私奉公を叫ぶなら、自分がまず滅されよって話だわな。他人に滅私奉公を強要するって、言葉的に矛盾してない? 英語なら自動詞他動詞の問題かなにかで文法的誤りになりそう」
「エイゴが何であるのかはわかりませんが……仕方ありませんよ、彼らは騎士ではなく、騎士に滅私奉公を求める側の人間なのですから。騎士ではない人間に騎士道を強要するのは、それも騎士道に反する行為なのですけどね」
そんなわけで、天蓋付きのベッドがひと回り大きくなり、絨毯がふっかふかになり、ソファの肘掛け部分には、某王女のおパンツではない方のパンツにも使われていた、例のオリハルコン由来のライトグリーンな布が張られていたりと、家具の高級感は大分増しましたが、漫画もアニメもゲームもインターネットもない部屋です。ひきこもりには辛い部屋かと思われましたが……ところがどっこい、甘やかしてくれるメイドさんがいます。どうせ何もやる氣にはなれないので、それで十分です。
「サーリャがそう言ってくれて助かるよ」
「ティナ様はミア様の騎士、私はティナ様の騎士、ですからね」
「え、そうだっけ?」
「もうっ、心意氣の話、ですっ」
襲ってくる敵がいるんだから迎撃体勢を整えろ?
とりあえずパザスさんが近くの山でこちらを監視してくれてますよ。パザスさんは探索魔法が得意らしく、特異な動きを見せる人物がいれば自動的に反応してくれる、常時発動型の探索魔法を展開できるそうです。原理は、聞いたけどよくわかりませんでした。アンチウィルスソフトみたいだな~……って思った記憶だけあります。
最初のうちは、そんなパザスさんと連携して、問題ない人、問題ない人の動き方……を除外する作業にあたったアリスが「忙しすぎるんですけど!?」と文句を言っていました。そんで、夜にベッドの上で「慰めて~」ってせがんできました。しょうがないので、チート式マッサージをしてあげました。首の下を愛撫されて喉を鳴らす猫みたくしてあげました。
男爵家に仕える兵士の方々に対しては、一応警戒を強めるよう言いました……が、これはまぁ、正直あまり意味はないでしょうね。あまり強く言うと「我々の忠義をお疑いになるのですか!?」ってなりますし……まぁ忠義も何も、何割かの兵士が裏でパパの悪口を言ってたり、勤務中に賭け事して遊んでるのを、私は知っているんですけどね、アリスのおかげで。
言葉にしていう忠義など、しょせん忠義の無さを誤魔化すだけのモノに過ぎないという皮肉。おまけに、真面目な兵士の方々には、何を言っても「誘拐された経験を持つ子供が不安になっているので、なだめてあげよう」という扱いをされますしね、しくしく。
「パザス様も元は騎士ですが、今はアリスただひとりを守る騎士様……そのようにも思えますね」
「実態は、お父さんって感じだけどね。いやお義父さんかな」
「九星の騎士団は、そもそもは”星の騎士団”であった……という説もありますからね。どこかの国へ忠誠を誓った英雄というわけでも、ないようです」
「そうなんだ? 星のためと言いながら、めっちゃ人間のために戦ってるけど」
「それでも最終的にはエルフの女王をも受け入れ、世界を元に戻す……そのことを目指したのですから、彼らはやはり”星の騎士団”で良かったのだと思います」
「そんなもんかねぇ」
ティア(仮)が、猫睛石の騎士ティアその人であるか、それとも違うのか……それはわかりません。
わかりませんが、この国において占星術師としての、それなりの地位を持っていたことは確かです。
その占星術師としての動向と去就については、ママが名前だけ知っていました……ですが、その詳細は、もう少しお身分のお高いお方々のおネットワークでないと、わからないとのことです。パパは初手「お前と名前が似てるな、誰だ?」だったのでニントモカントモ。これ以上は、一旦は王都に戻る予定のナハトさんに、調査を託すしかないですね。
そんな感じで、今はできることが無いのです。
ゆえにこうしてニートも羨む生活を続けているわけです。
そうして私は、今はヘアピンでまとめている前髪をそっと撫で、サーリャに問い掛けます。
「まぁいいや。それで、今日のお昼ご飯はなに?」
我ながらクズ臭のするセリフですが氣にしてはいけません。うんこ製造機にも栄養は必要なのです。うんこ製造機がこの世界に必要かという話は、脇に避けておくことにしても。
「それですが、ご母堂様より、ティナ様へ、前に提案された新メニューを試作品を試して欲しい旨、承ってます」
「提案した、新メニュー?」
なんだっけ?
メニューを提案、か。
そういえば、ママとアフタヌーンティーしていた頃は、そういう行事もちょいちょいありましたね。今はひきこもり中なので、そういうのはやらなくなってますが。
スカーシュゴード男爵領の北部には、豊かな果樹園が広がっています。
ぶどう類の他には、柑橘類やトロピカルフルーツが主となり、意外なところではマンゴー、バナナなんかが普通にあります。
ライチ、ココヤシ(ココナッツ)も、大量生産できるほどの生産能力は無いようですが、そこら辺は北部出身のママの好みということもあり、男爵家の食卓をちょいちょい彩る程度には栽培されています。
これらは、日持ちするモノならそのまま(バナナなんかは青い状態で輸出されてますね)、日持ちしないモノは果実酒や、ドライフルーツ(バナナはバナナチップにも加工されていますね)に加工するなどして、様々な形で領外へ輸出されています。ぶっちゃけ男爵家のかなり重要な資金源でもあるっぽいです。
なお砂糖は、異世界転生モノだと甜菜の利用が多いように思えますが、カナーベル王国では何箇所かで大規模に、フツーにサトウキビを栽培しています。スカーシュゴード領でも多少は生産していますが、これもそれなりの雨量が必要とされる作物なので、雨量の少ない男爵領だと、大規模には栽培できないようです。
溜め池や、雨水を溜める木製のタンクのようなものはありますが、それはトロピカルフルーツ用であって、広い範囲に撒く手間を考えると、お茶畑やサトウキビ畑には使えないそうです。まぁビニールホースや塩ビパイプなんて無いですからね、仕方無いです。
なので、砂糖は果物の加工に使うものと、あとは地産地消の生産物ですね。自家用といってもいいのかもしれません。
こんな事情がありまして、当男爵領では砂糖より果樹の方が儲かるという、甜菜チート殺しな状況となっております。ワインも特産品らしいけど、それは女子供が近付くな状態です。
まぁ水に関して言えば、雨量こそアレですが、井戸ほりゃ清潔なのがフツーに湧く土地柄ですからね。衛生的に、ワインの方が水よりマシって世界ではないのです。
内政チート定番の一角、手押しポンプや水車も割とちゃんとしたものが既にありますよ。手押しポンプは、嘘か真か、歴史的には千年近く前からあるモノだそうです。南方の、その名もずばり地中海(この世界の言語で「(前置詞)中央の」+「地」+「海」)沿岸に発展してた王朝だかの頃より伝わるのだとか。水利チートは千年遅かった。
ゆえにお酒は、基本的には子供は飲むな状態です。更に限定して貴族令嬢的には……となると……まぁ当然、妊婦の飲酒も推奨されていませんから、若い内はあまり飲まない方がいいというのが、社会常識っぽいです。そんで、ママもまだまだ若いので、お酒はあまり嗜まないようです。
そんなこんなで、ママは領外におけるドライフルーツの需要掘り起しが、男爵領の発展に繋がると考えていて、それを使ったスィーツの研究をしていたりもします。顔も甘いし娘にも甘いし、実益を兼ねた趣味も甘いお人です。
当然、大人だけでも……まぁ婦人会のようなモノですが……試作品を食べる会をするなどして話し合っているようですが、その試食役は、ちょいちょい私やミア、サーリャにも回ってくることになります。王都にある男爵領のアンテナショップ(そんな名称ではないけど)に並べる商品の、試作の試食という態ですね。
チートのおまけか、(この世界の)スィーツの知識もまぁまぁあった私は、だからちょいちょい有益だったらしいアドバイスをするなどして、その分野でママの信頼を勝ち取ってきたのです。チートと呼べるほどの実績は得られませんでしたが、まぁ、地味にママからの好感度がアップした、くらいの感じで。
「お持ちしました。こちらです」
でもなんか……今はこう……スィーツには見えないモノが配膳台の上に載っていますね。
ドーナッツ……ではないな。なんぞ?
「挽き肉にたっぷりの香辛料を混ぜ、辛味油で炒めたモノをパン生地でくるみ、そこへ溶き卵でパン粉をつけ、揚げたもの……だそうです」
「あー!」
熱いのでお氣をつけ下さい……といって皿ごと渡されたそれは、見た目どこからどうみてもカレーパン。茶色くて丸っこいシルエットが四つ、並んでいます。おまけに揚げたてのようで、ふっくらモチモチの外観からは、まだほんのりと湯氣が上がってました。
「ああうん、言った言った! こういうの欲しいって!」
「なんだか少し、コロッケにも似ていますね」
「系統でいえば同じジャンルかもね!」
いやね、ほら、私ってその……元、男性じゃないですか。
身体はね? ちゃんと求めるのですよ、スィーツを、甘いモノを。
だからね? 別に、いっつもスィーツを食べさせられるのがイヤになったってわけじゃないの。全然、ちゃうちゃう。別腹ちゃんとある。乙女ちっく時空に。どこだよそれ。
でもね。
やっぱりね? ほら……男の魂が求めるのですよ。
たまには油で揚げたもんガッツリいきてー!……って。
「……うわぁ、なんかちょっと感動」
そんなわけで、フルーツを使った甘くないジャンクなフードを考えた結果、こういうモノが頭の中より出でてこられたのですよ。ちゃーっす、って。
「ミートソースの元となる、合わせ香味料と辛味油を輸出する……というのがティナ様のご提案だったと伺っております」
はい。
実を言いますと、この世界、カレー……というかカレー粉らしきものは既にあります。
カレーチートは手遅れだったぜ……といういつもアレですが、庶民には高価すぎ、貴族にはその色と、手づかみのナンに付けて食べるという作法が下品に見られ、そもそもがあまりメジャーな料理とは言えない感じに収まっています。
現時点でカレーは、裕福な商人など富裕層の、一部限られたマニアだけが好むメニュー……という立ち位置っぽいです。カレー好きと強欲で知られる、家とも取引がある有名商会の会長さんは、ケツ舐めアルマジロなる妙な別称……というか蔑称が知られていたりもします。ヒントはカレーの色と、ナンが舌に見立て可能であるということ。あとは体型の揶揄。貴族社会の陰口ネットワーク、怖いです。
そんなわけで、カレーの基本たるターメリックもあまり栽培されておらず、残念ながら男爵領には輸入も生産もありません。将来的な見込みもないっぽいです。
前世で、そこまでカレー好きだったというわけでもないのですが、たまには食べたいと思い、叶えられないメニューのひとつではありますね。まぁその前に、それよりかはカレー「ライス」の、お米の方をどげなせんといかんとは思っているのですが。
というわけで私、考えました。
辛くて油っこいモノをご飯にかけて食べる料理といえばカレー……そして麻婆豆腐。
ご飯もカレーも無いなら、近いものを造ってみようではないですか!
「随分と香ばしい香りですね」
「そりゃね、ある種香辛料の塊だから」
はいそうです。
わたしくが少し前にママへと提案したのは、麻婆豆腐パンです!
……あ、今「不味そう」って思いましたね? 大丈夫、私もそう思った。
まぁ豆腐っぽいものは、断崖絶壁の海岸線を除けば内陸の地といってもいい男爵領では氣軽に手に入らないので、そもそも豆腐は入っていません。凍み豆腐、高野豆腐っぽいものは海が近い地域から輸入されてますが、入れませんよ。これは輸出品の考案という前提ですし。
だから正確には、これは麻婆パンでしょうか。
私が指示した部分だけをいえば、挽き肉に、男爵領の果樹園産、陳皮と山椒と花椒らしきモノをたっぷりと混ぜ、これも男爵領で栽培されているにんにく、しょうが、ねぎ、唐辛子などを使ってラー油っぽいモノも造り、それらを炒めてミートソースを造り、揚げパンの中に入れるタネにしておくれと、まぁそんな感じのオーダーであったと思います。
あとは実作業をする人のお好みでハーブを適当に混ぜ、いいバランスの組み合わせを探ってください云々言った覚えもあります。ラー油のベースとなる油についても、男爵領内だけでも大豆油、パーム油、オリーブオイル等いくつかの種類が生産されているので、その選択も実作業する人にぶん投げました。揚げる油と肉の種類についても同様です。
アイデアだけ出して細かい調整は人任せ。正統なる由緒正しきナローシュチートでありますね。惣菜パンチート。チートか?
「皮はオレンジ酵母のパンのようですね、柑橘の味を主体にしたためでしょうか」
「ほー、どれどれどれどれ?」
くんくん。
うん、麻婆っぽい匂いに混じって、なんかそこはかとなく柑橘類の香りがするね。
発想の段階ではカレーの代用品くらいのイメージだったけど、意外と悪くない感じに仕上がっている氣がします。たまに期間限定で売り出される変り種の惣菜パンって感じ。
「いいな。とりあえず匂い、香りの段階ではすっごい食欲をそそる」
こういう、ある種のジャンクフードっぽいヤツ、どこか心をくすぐられるものがあるよね。
ひきこもってると特に。
「貴族向けでは無い氣がしますね。見た目が、揚げパンですから」
「輸出品としてのターゲット層は一般家庭でしょ? ラー油はすぐに真似されるかもしれないけど、カナーベル王国内だと、柑橘類とトロピカルフルーツの生産は、ここスカーシュゴード男爵領が一強状態なんだから、陳皮と山椒と花椒を混ぜた三味調味料、もしくは更に唐辛子を混ぜて四味調味料なんかが一般家庭に浸透したら強いと思うけどなぁ」
「うーん、どうなのでしょうか……トロピカル?」
おっとそこだけ日本語……っていうか英語のままだった。
蛇足ですが、香辛料の話ついでに言えば、胡椒はコレも普通に流通しています。カナーベル王国ではほとんど全て国外からの輸入品ですが、そのお値段は……せいぜいが同質量の塩と同程度、くらいのモンです。当男爵家のバナナは、乾燥したチップなら同質量の塩よりも高いですよ。あくまで重さで比べるなら、ですが。
肉の臭み消しとしてはハーブの研究が進んでいますし、辛味としては唐辛子や山椒も存在しているため、そこまで必需品とは認知されていないのですよね。胡椒は連作障害の起き易い作物でもあるそうで、カナーベル王国での栽培は、リスクがリターンに見合わないと、結構な昔に結論付けられたようです。胡椒チート、成らず。
まぁ。
能書きはこの辺までにしておいて、それでは実食と参りましょうか。
「それじゃ……あんぐっ」
「ティナ様!? そんな! 揚げ物を手づかみだなんて!? しかも二個同時!? 二刀流!?」
メイドさんがなにやら叫んでますが知りません。カレーパン……麻婆パンは手づかみで行くのがマナーというものです。この私が決めました。
「あぐあぐ、パンは手づかみで食べるものじゃない、んぐんぐ」
「そうかもしれませんけど! 油が! お手が! お唇まで!」
んー。
香りはだいぶ、柑橘系が存在を主張していましたが、食べてみるとそこまでフルーティな感じではありませんね。最初に舌へ来るのはやはり肉……牛ですね……の旨みと、唐辛子の辛さです。
たぶん、色的にはそこまで辛くないハズですが、この身体が辛いモノに全く慣れてないこともあって、かなりピリッときます。前世で、小学生の頃に食べたカラムー●ョを思い出しますね。懐かしい。
そうした辛さが、ほんのり甘いさくさくモチモチの皮と合わさり、変り種の中華まんとカレーパンの、丁度中間みたいな味になっています。
そんな感じで暫く、食べ進むと、今度は山椒と花椒の辛味が強く舌に残ります。それはピリッ、ではなく、ビリッ……とくる独特の、痺れる感じの味ですが、陳皮がここで仕事しているのか、そこまでキツイ感じもしません。山椒自体、木としては柑橘類の親戚ですから、柑橘の酸味甘みとは相性がいいのかもしれません。
「んー……おいしいし、有りか無しかでいえば有りだけど、なんていうか、普通に食べられる変り種の域を超えないというか、これでなきゃダメなんだというほどの魅力を感じないというか。てい」
「そう言いながら三個目!?」
まぁ運動をサボっていたので、あまりお腹が空いていなかったということもありますが……まだちょっと微妙ですね。
「ハーブはレモングラスっぽいものが入ってる氣がするけど、あんま意味が無い氣がする。ハーブ、いらないかなー? 入れるならもういっそオレガノとかにして、トマトイン、チーズインにしちゃうとか?」
「更に油分脂肪分が増えます!?」
それになんというか、肝心の、陳皮と山椒部分がまだ調和しきれてない感じがするのですよね。あむあむ。特に山椒(?)の独特の風味が、陳皮で多少抑えられてはいるとはいえ、まだまだ人を選ぶ感じになってしまっている氣がします。山椒は抜いて、花椒だけにした方がいいのでしょうか。んぐんぐ。まぁ……コスパとかも考えれば、普通に、ミートソースをぶち込んだ揚げパンでいいじゃん? て感じ。このままじゃカレーの二の舞になりそう。んむんむ。
んー……それに……唐辛子は砂糖と同じで、もっと生産力の高い地域が他にあります。陳皮と山椒を売るなら、一味唐辛子で代用できる味ではダメということですね。
もういっそ、三味や四味で止まらず、七味唐辛子まで行ってしまいますかね。青海苔以外の材料は男爵領内で手に入りますし……ただ一味と七味って前世的に考えると、微妙な間柄なんですよね。好きな人は一味じゃなきゃダメ、七味じゃなきゃダメってこだわるんですが……大多数の人はどっちも同じじゃん、変わんねぇよって扱いをしてる氣がします。うどんや天ぷらを扱う外食産業の店舗でも、どちらかしか置いてないことがほとんどだったと思います。そんなこんなで、某孤独な五郎さんばりにグルメな小父様は、カバンにマイ七味、もしくはマイ一味を忍ばせてることも多いのだとか。ソースはよく「食事制限は俺に死ねと言ってるのと同じだー」と愚痴ってたおっちゃん……もとい小父様。
まぁ、スカーシュゴード家が儲けるために七味を作るのであれば……それは一味より割高になるはずですからね、七味でなければダメだって使用法を考案して、こだわる人を増やさないと、広がっていかない氣がしますね。
お高くするからには一味よりいいものですぅ~って売らないといけないし、そうなると一味の産地的には面白くないだろうな~。一味、っていうか唐辛子の主要生産地ってーと、政治的には~……。
「まぁそんなことはどうでもいいとして、このジャンクフード感にはそれでも魅了されるモノがある。あむあむぺろん」
「あ、あ、あ……そんな……油の付いた指をお舐めになるなんて……」
「ごちそうさまーぼー! まだまだ要改善だけど、可能性は感じたのでもう少し試作を続けてくださいとお伝え下さい」
「お、おそまつさまーぼー?」
こうなりゃもう、ジャンクフードチート、目指しちゃいますかね。激しく貴族令嬢には推奨されないだろうチートですが。
「まーぼーってどこからきた言葉なのでしょう?……」
サーリャが食後のお茶をティーカップに注ぎながら、頭にハテナマークを浮かべてますが、それは別に私の言い回しが妙だったからだけではありません。たぶん、きっと。いやだって、視線はあとひとつ残ってる麻婆パンに向かってますし。だからきっと。うん。
「うん。さすがに四つはいけないから、あと一個はサーリャが試してみて」
「えええ」
まぁ本当はいけますけどね、久しぶりのジャンクフードでしたから。
「手が汚れるのが嫌なら、食べさせてあげようか? なんならポ●キーゲームの要領で」
「ふぇ!?」
あ、ポ●キーは前に新スィーツとして提唱したことがあります。
試作品(太さ直径壱センチくらいありました)ができた後、こんな楽しみ方もあるよー……と、二人で両端を咥え齧り合っていく~という例のゲームをサーリャを生贄にやって見せたところ……そのあまりのはしたなさに即刻封印とされてしまいました。残念。サーリャはまんざらでもなかったようですが。
「とても惹かれるご提案ですが! ふたりとも油まみれの顔になる未来しか見えません!」
「まぁね」
まぁ、ポ●キーと違って中身もありますからね。その点ト●ポってすげぇよな、最後までチョコたっぷりだもん。まぁト●ポも内容物は固定されていますが、じゃあそこが流動物であった場合、両端から齧っていったらどうなんのって話です。誰か検証してみてください。【現役JK】カレーパンでポ●キーゲームをしたらこうなったwww【女同士】……投稿を世界の果てよりお待ちしております。見れないけど。Vの黎明期にて、ポ●キーゲームで一世を風靡した世知辛いおじさんは御壮健で御座いますかのじゃ。
「で、では失礼して……」
そんなこんなで自らの手を汚し、普通に食されたサーリャの感想は。
「……なんだか罪悪感を感じるお味ですね」
ひどく抽象的なものでした。
油っこいジャンクなフードが罪深い……という感覚は、どうやらこちらにもちゃんとあるようです。
……罪深き脂肪の塊をその身に宿す、結婚する氣ゼロなメイドさんの方が罪深い氣もしますけどね。




