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84 幻術

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「さすが、王宮のキッチンですわ」


 クリスティーヌ達は辺りを見渡し、何か食べ物はないかと物色し始める。


「なぁ? 王宮とかは食物庫とかあるんじゃねーか? 一般の家とちがうだろ? 」


「確かに。人数も違うしね」


「こちらが食物庫ではないのでしょうか? 」


 いち早く食物庫を発見したクリスティーヌは鍵を壊し、少し重みのある扉を開けたのだ。


「きゃ! 」


 中から何かが沢山飛び出し、クリスティーヌは腕で顔を庇いエスイアとジュイナは戦闘態勢に入った。

 飛び出して来た何かを目で捉えると三人は驚き、口を揃えて素頓狂な声をあげる。


「「妖精?? 」」


 そうなのだ。

 飛び出して来た何かとは、トワライ王国に生息する妖精だったのだ。しかも百匹近くいるものだからクリスティーヌ達は更に驚き、声を失うのである。周りを飛んでいた一匹の妖精が、クリスティーヌの存在に気付き叫んだのだ。


「クリス! クリスだ! 」


 すると他の妖精も集まり出し、あっという間にクリスティーヌ達は妖精の群れに囲まれたのである。


「クリス」

「クリスだ! 」

「久しぶりだ〜〜」

「あれ? 知らない顔がいる」

「いるーー。知らない顔ーー」


 口々に叫ぶ妖精達は、エスイアとジュイナの周りを行ったり来たりと忙しなく飛んでおり、厨房に明かりが着いていないにもかかわらず、妖精の光で辺りは明々としている。


「妖精さん達、わたくしのお友達のエスイアとジュイナですわ」


「エスイ……ア……? 」

「エスだ‼ エスとジュイ‼ 」

「エス、ジュイ! 」


「何だ……これは……」


「初めて見ました。妖精ってこんなに喋るのね」


 エスイアとジュイナは、妖精達に話かけられ一言づつ返答している。妖精達が少し落ち着くと、クリスティーヌは話を切り出したのだ。


「ねぇ。妖精さん達は何故こんな所にいるのかしら?? 」


「悪いやつに捕まったの! 」

「変な石持ってたんだ」

「結界あるから出れない」

「黒い服きてたやつ! 」


「黒い服? こう、服に頭を被るような布がくっついてたりとかした? 」


「うん! 」

「そーだよ!ソルティオもいた! 」

「捕まってた! 」

「フェイディーネ様守ってた! 」


「ソルティオが捕まってるの?何処にいるかわかる? 」


「分からないけど、分かるーー」

「うん。分からないよ。でもわかるよ」

「大丈夫だよ」


 "クリスティーヌ……分からないけど、分かるの意味を通訳してくれ……"


 "わたくしもわかりませんわ"


 クリスティーヌ達三人はさっぱり言っている意味が分からない、と困った顔をするが、妖精達はお構いなしに大丈夫とばかりに口々に()()()をするのだ。


「行こう! 」

「行こう」

「ソルティオ、いるよ」

「悪いやつ、今はいない」

「行こう! 」


 100匹程の妖精達に急かされ、腹ごしらえせずに王宮の厨房から慌てて出た三人は静かな廊下をひたすら走るのである。

 暫く妖精達についていくと、何処かの塔の入り口へと繋がる扉の前へ着いていたのだ。


「ここにソルティオいる」

「いるよーー」

「ソルティオ助ける」

「フェイディーネ様言ってた」


「ん……ここは結界が張ってるぞ? 」


「エス! 大丈夫! エスやる! 」

「エスがやる! 」

「男の子だからやるんだよ」


「ここで性別を出されてもなぁ……」


 エスイアは困ったとばかりに苦い顔をし、髪の毛を掻きむしりながら考えるのである。



 三重か……

 中々骨の折れる作業だな

 どんな仕掛けや(トラップ)が仕掛け

 られてるかわかんねーしな……

 どうしたものか……



 三重の鍵結界はそう簡単に破壊されにくく、失敗すれば毒魔法や呪いの魔法が発動するのが普通なのだ。

 呪いの魔法が発動すると、それまで行っていた作業がリセットされ、尚且つ記憶から全て忘れてしまい()()()()の作業が困難になるのである。


「エスイア。こういう時はノワズさんの魔導具使えば良いんじゃない? 」


 ジュイナは颯爽とノワズ印の魔導具箱から鍵開け道具を取り出したのだ。

 少し大きめの魔導具は、金庫のダイヤル式の部分とそっくりで傍からはどう使うのかさっぱりわからないのである。


 扉の三重結界の中心部分に解錠魔導具を取り付け、エスイアに魔力を注入するように促した。

 すると、解錠魔導具は紫色に光りダイヤルが一人出にくるくる都何度も右に回ったり、左に回ったり忙しなく回っている。


 暫く待っていると、結界が硝子のようにヒビが入り真ん中から消えていったのだ。


「ノワズ……あいつは天才かよ……いや、天才なんだけどさ」


「どうしたの、急に。早く助けなきゃいけないんでしょ? ソルティオさんって人を」


 妖精達は扉が開くと一斉に中へとなだれ込み、一直線にソルティオの元へと飛んでいったのだ。

 クリスティーヌ達は遅れまいと必死に階段を駆け上がる。途中、クリスティーヌがフェンリルを召喚しようとし二人に止められた事は内緒にしておこう。


 別棟になっているこの塔には誰も近づかないと踏んでいたのか、見張り等は全くおらず簡単にソルティオの元へと辿り着いたのだ。

 塔の窓から下を除くと、周りには薪が沢山積まれている箇所がある。それ以外には何も見えず草原が広がっているだけだった。


 流石にソルティオが幽閉されている扉には結界が貼られているが、ノワズ印の魔導具を使えば簡単に解錠できるのだ。

 エスイアがソルティオに声をかけるが、ソルティオは気を失っている。かなり衰弱しており、命の危機にあるかもしれないと察した三人は直ぐに脱出の方法を考えるのだ。


「この幻術には何が効くのかしら? 」


「いっその事、ノワズの魔導具使ったらどうだ? 」


「エスイア、真面目に考えてよ! そんな事は、できる訳が……出来るかもしれない」


「できるのかよ‼ どんだけ万能なんだよ‼ 」


「出来るかも、だからね! 」


 ジュイナは魔導具箱から紐を出し、いくつかの魔法陣を展開し紐に術式を何度も何度も組み込んでいく。術式を組み込む度に少しづつ紐が太くなり、出来上がる頃には指先で摘めた紐が掌でしか掴めない太さになったのだ。


「よいしょっと。これを魔法陣の型にして……ちょっと‼ エスイア‼ 踏まないで。もっと右に寄せて」


 妖精達はソルティオを任され、側でクリスティーヌ達が何かしている作業が気になって仕方ないのか、代わる代わる視察にきている。


「出来た‼ よし。やるよ」


 ジュイナは魔導具に魔力を込め、綱に近い紐が赤色になると一気に魔導具を発動させたのだ。


 綱でかたどった魔法陣から、赤色の光が地面をつたい幻術の元へと一気に集まり破壊したのだ。


 クリスティーヌ達は幻術が解けるや、魔獣を召喚し、きっと来ているであろう医療班の元へと急ぐのである。

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