68 戦場に潜む三人組
黒い魔石を埋め込んだ警備兵は、黒い影を纏いながら剣を振りかざし、地面に叩きつけたのだ。地面は剣の圧力でぽっかりと穴が空き、魔獣や傭兵の亡骸を吹き飛ばしたのである。
"悠長にやってたら不味いことになる"
"エスイア、援護をお願い"
エスイアは空から警備兵に赤竜|の業火を浴びせる。その瞬間にクリスティーヌは黒龍を召喚し、ジュイナと一緒に背に乗りフェンリルは一旦戻したのだ。
「逃がすか!」
後ろから空を切り、剣先を振り下ろす風音が聞こえるとクリスティーヌは後ろを振り向き間一髪で風の刃をかわしたが髪の先がバッサリと斜めに切られてしまったのだ。ジュイナが慌てて防御魔法をかけ、クリスティーヌはリヴェグブルに、紅炎、と命じる。
エスイアが続けて魔導具を2つ取り出し、2つ共地面に叩き付けたのだ。
1つは地面に根をはり、魔石を埋め込んだ警備兵に絡みつき動きを捕らえ、もう一つは赤い狼煙があがったのだ。
万が一の為に緊急の狼煙を上げておく。こちらの現状がわかるだろう、と考えたのだ。
黒い魔石を埋め込んだ警備兵は、呻き声を上げながら根をむしり取り剣で根を薙ぎ払いこちらへじりじりと近づこうとしている。
リヴェグブルの紅炎が黒い影を纏った傭兵へ放たれたのだ。影まで炎が燃え移り、傭兵は叫び出す。
「なんだ!影が燃えている!なぜだ!」
警備兵は自身に燃え移った炎を必死に払い、沈下を心みるのだが一向に消える気配はなく、徐々に燃える面積を増やしているのだ。警備兵の周りには肉や物が焦げる独特の臭いが漂い、紅炎の熱風によって汗が吹き出るほど熱くなっているのだ。
リヴェグブルの紅炎は神をも燃やすと言われており、普通の炎と違い手で掴めない物質でも燃やせる威力の高い炎なのである。
リヴェグブルを神と崇める民族は、紅炎を聖なる炎と考えている程のものなのだ。
警備兵が紅炎に気を取られている間、クリスティーヌが指先で何かの模様を空気中に描くと模様が発光しそのまま警備兵の黒い魔石へと吸い込まれたのだった。
警備兵は、胸を掻きむしり指先まで血塗れになりながら苦痛の顔でその場に倒れ意識を手放したのである。側には、黒い魔石が転がり落ちると、輝きを失い炭のようなくすんだ色をした何の変哲もない石へと変化したのだ。
「やっと終わった……」
「クリスティーヌ、お前その魔法なんなんだよ」
「時の魔女に教えて貰ったの。トワライ王国へ行ってた時に不測の事態に備えろ、と言われてね。浄化の魔法の組み換え式らしいのはわかるのだけれど、術式しか記録して下さらなかったから、見よう見真似ですわ」
「それ……大丈夫なのかよ……」
「大丈夫な……の……?」
エスイアとジュイナは同時に言葉を発し、もうクリスティーヌが何を言っても驚きもしなくなってきたのだった。
クリスティーヌ達は下に降り、未だに燃え上がる炎をリヴェグブルが風を起こし消しさると魔法陣を展開し、蔓で警備兵を捕縛したのである。
「まさか黒い魔石の使い方にこんな方法があるとは思わなかった」
「ただ魔力や生気を集めるだけかと思ってたけど、これはちょっと考えるわよね」
「わたくし達の想像の域を超える何かが始まっているのですわ」
クリスティーヌ達が警備兵の側にあるただの石と化した黒い魔石を見つめながら、この状態をどう報告し援軍を待つか話し合っていると、国境の砦の内側が騒がしくなってきたのだ。
きっとデニス達が赤い狼煙を見て素早く進軍したのであろう。
辺りは焦げる臭いや血の臭い、瓦礫の山や亡骸の臭いなど様々な臭いが混じりこの戦いがどれ程の激しさか見ればわかる程であった。
クリスティーヌ達は、崩れ落ちた砦から出てきた人物に驚いたのだ。
「ジ……ジラン司教……?」
"クリスティーヌ、静かにしろ"
"この戦いの後にジラン司教が来るなんておかしいわ"
幸い、三人が立っている場所はジラン司教達が出てきた場所からは死角になっており、かろうじて見えない。だが、このまま進まれると魔獣で見つかる恐れがあるのだ。
"魔獣を戻すぞ"
クリスティーヌとエスイアは急いで魔獣召喚を解除し魔法陣へと戻すと、近くにあった木の茂みに隠れる。そして、念の為に姿隠しの魔法と防御の魔法をかけたのだ。忘れずに、裏切り者の警備兵に防御魔法を展開させておくのである。抜かりがないエスイアなのだ。
ジラン司教と共に崩れ落ちた砦から出てきたのは、数名の教徒と黒のフードの者だった。
"黒のフード!!一体どういう事なの"
"クリスティーヌ落ち着け、今見つかるとまた面倒な事になる。先ずは奴らの目的を知る為に隠密行動で情報収集だ"
"エスイアに同意見。クリスさん、少し落ち着かないと駄目よ?ここは戦場よ?"
"ごめんなさい。そうね、少し混乱していたわ"
三人は静かにジラン司教達の動向を監視し、ジュイナはポケットから魔導具を取り出し、蜘蛛を数匹召喚させ木に放つと魔導具を設置するように命じたのだ。
"念の為にノワズ君が持たせてくれた魔導具が役に立つみたい"
ノワズが持たせてくれた魔導具は、映像を記憶するという画期的な魔導具なのだ。専用の機械に設置するとビジョンに映る仕掛けになるそうだが、どういう仕組みなのかは全くわからないのである。
小さい蜘蛛達が数匹、魔導具を運びながら木から木へと糸を駆使しながら移動をし、ジラン司教達の声が聞こえる範囲まで近づき魔導具を設置したのであった。
"設置したら声も聴ける物が良いわね"
"ジュイナ、ノワズさんに相談しましょう"
"お前は、本当に切り替えはえーな"
"必要でしょ?読唇術だって少ししかわからないし、エリールに教えてもらおうかしら?"
"おい、大概にしろ。何か指差してこっち来るぞ"
三人は息を潜め、ジラン司教達がこちらに来る足音を聞きながらじっと静かにして立ち去るのを待つのである。
「チっ、役に立たん奴だな。グレンがここにおるわ」
「ジラン司教どうなさいますか?」
「当初の予定とはちと違うが、このまま続行だ。この様子だと相討ちか何かしたのだろう」
「トワライ王国の準備もそのまま続行で宜しいのですか?」
「うむ。ハミルが見当たらんが、まぁ貴奴が居なくてもトワライ王国を落とすのは簡単だろう」
「ここはこのままにしておきますか?それとも……」
「下手に触ると儂らの事が露見しても困る」
「では、このままに」
「あちらに赤狼煙が上がってた痕跡がありました。早く撤退しましょう。直に、ニズカザンの援軍が来ます」
ジラン司教と教徒達は黒いフードの者に着いて行き、そのまま森へと消えていったのだ。
"ふぅ。危ない"
"トワライ王国も襲うという事かしら?"
"情報が少なすぎてわからないな"
クリスティーヌ達は周りに何も気配がない事を確認し、そのまま静かに砦の中へ戻っていったのである。




