61 マッセラ教会
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デジュの樹木の葉が散り、空から白い雪が降る季節がやってきた。
ここはマッセラ教会前の広場。
今日はマッセラ教会でのバザーがあり、マッセラ教会の潜入調査を頼まれたマリエルとデニスは、仲の良さそうな恋人という設定で来ているのだ。
このマッセラ教会は、以前から黒のフードの者達と関わりがあると噂されているきな臭い教会であり、ハミルが王都の魔法師として在籍中に最も懇意にしていた教会でもある。
2ヶ月程前、隣国トワライ王国の騎士ソルティオからの黒い魔石情報やクリスティーヌとエスイアの黒い影情報、そして幸運の魔石と呼ばれる黒い魔石の情報を合わせ、潜入調査をする事となったのだ。黒い魔石の根源がどうもマッセラ教会のバザーからだというのである。
王宮に集まったエルノーワ家、サーモス家、グラッサ家と騎士団長のデニス、国王や重役達は内情も知るこの2人が適任だとしマリエルとデニスに調査を任命したのである。
騎士団長のデニスが選ばれるのはわかるのだが、マリエルは何故自分なのか疑問になっていたのだ。聞けば、女性騎士や王妃の女性護衛の育成に力を入れだしたのはモルテリリー事件後からであり、即戦力として今の人材では少し不安な状態だというのだ。グラッサ家のマリエルであれば、実践、知識共に申し分なく適任だと選出されたのである。
「マリエル殿、急ですが宜しくお願いします」
「いえいえ。こちらこそ宜しくお願いします」
デニスは右手を差し出し、マリエルと握手を交わした。2人は恋人として潜入するとは、些か無理なのでは?難易度が高い、とキースに申し立てたのだがすぐさま却下されたのである。
「えー……マリエル……と呼ばせて頂くが宜しいか?」
「あ、はい。私はデニス様とお呼びしたら宜しいですか?」
「あ、いや。そのままデニスと呼んで頂くのがいい……キースがそうしろと……」
マリエルは少し照れながら、わかりました、と返事をしたのだ。どこからどう見ても初々しい恋人である。
2人は並びながら、少し大きめの広場をゆっくりと歩き先ず目視で情報を集めていく事にしたのだ。不審な行動と思われない程度に周りを見渡したが、黒いフードの者達と思われる影はなく、怪しい所もある訳ではなく、普通の教会の慈善バザーにしか見えなかった。
教会に住む孤児達が一生懸命に接客をし、自分達で作った野菜や手作りの小物を売っているのだ。教会も開放されており中にも入れるらしく、いつも以上に賑わっているみたいだ。
近隣の街の者達も手伝いに来たり、出品したりしており、売上は教会に寄付されるそうなのだ。
「特に変わった所はありませんよね」
「うむ、普通のバザーにしか見えないのだが」
マリエルは少し落ち着かなさそうに、辺りを見渡しだしたのだ。
「なにか、ずっと見られている感じがします」
デニスも辺りを見渡すが、特に不審者や不審な者も見当たらなかった。気のせいだろうと思い、ふと至る所に飾られている花や草で作られたガーランドに目をやった。太陽の光が反射し、角度によっては見えなくなったりしたのだ。デニスは不思議に思い、目を凝らしよく見てみると黒い宝石のような物が一緒に組み込まれているのに気付く。咄嗟に近くにいる教会の人間と思わしき人に声をかけたのだ。
「すみません。あのガーランドは売ってないのですか?」
「あぁ。あれは売り物ではありませんが、お気に召したのでしたらお1つどうぞ」
「いいんですか?!ありがとうございます!」
「わぁ、素敵ね。これ手作りですか?」
「そうですよ。教会で毎年作るのです」
マリエルもデニスに合わせ、物も入手し出処を上手く聞き出す連携をとる。
「他にも手作りの物を売ったりしている所はありますか?この草や花の飾りがとっても可愛くて素敵です」
マリエルがいかにもこの小物の作りが好みだと強調し、他の物品もあるか聞くのだった。
「ああ。今日はでてないけど、街や王都にも小さいスペースを借りて教会の物品販売として品物を置かせてもらったりしてるよ。店を教えよう。少し待ってなさい」
教会の関係者と思しき人間が、店の名前と場所を記した紙をデニスに渡してくれる。
「ありがとうございます」
2人は笑顔で教会の人間にお礼を言い、目配せで合図をした。ここで会話をしてしまうと、潜入調査や自分達の身分がバレてしまい水面下に潜られる可能性も高くなるのだ。
デニスはメモ用紙をポケットにいれ、ガーランドをカミラから借りた特殊な巾着袋にいれたのだった。
この特殊な巾着は、内側に魔法陣の刺繍が施されており魔石をいれると、その魔石の魔力を抑える効果が自動的に発動されるという優れ物なのだ。勿論、制作は王立学園1年C組の服飾が得意な生徒によるのである。
カミラとデニスは、不審に思われないように屋台で食べ物を買ったりバザーに出ている教会からの品物を中心に買い物をするのであった。
マッセラ教会の中にも入れるとの事で、広場の店を一通り見て回った後2人は中に入ろうと入り口に向かった。
入り口では、付近の住人と思わしき人々が子供を抱えながら教徒に向かい怒鳴り散らしていたのだ。
「お前達が大丈夫だというから任せたのに、娘は日に日に悪くなるばかりだ!こんな物効くものか」
皆、黒い物を地面に叩きつけたのである。
「きっと、祈りが足りなかったのでしょう。さぁ、中にお入りください。浄化の魔法をいたしましょう」
教徒の一人が、住人達に中へ入るように促すと皆先ほどまで怒っていたのが嘘のように静かに教会へと入っていったのである。
デニスは先程地面に叩きつけられた黒いものを手に取り、周りにわからないように袋へとしまい、マリエルに目配せをし教会へとそっと入ろうとしたのだ。
だが、中から教徒が数名こちらへきて今から浄化の儀式をするので一般見学はお断りする、と言われてしまったのだ。ここで揉めてしまって元の子もないと判断し、2人は渋々教徒達の言葉に従うのである。
引き返す際マリエルは空いた扉の隙間から、大きな黒い魔石が祭壇に飾られているのを目にしたのだ。一瞬固まり戸惑ったのだが、平常心を保ちデニスと共に教会の外へと出たのだった。
「中に巨大な黒い魔石がありました。きっと何かあるはずですがこちらの装備を考えると……」
「分が悪いか……さて、どうしたものか」
デニスとマリエルが小声で話しをしていると、中から魔法詠唱の声が聞こえてきたのだ。
一般の人々には、浄化の呪文か何かに聞こえるがよく耳を凝らすと別の魔法詠唱の言葉が聞こえる。だが、今まで聞いた事もない魔法詠唱なのだ。
教会の入り口に戻ろうとしたデニスの腕を咄嗟に掴んだマリエルはそっと首を横に振り、目配せで上を見上げたのだ。
そこには黒く光る魔石と魔法陣が浮かんでいたのだった。
「ここは引くべきでしょう」
マリエルは土の隅に何か落とした振りをし、クリスティーヌから渡された小さな魔導具をそっと置いたのだ。デニスはその意味がわかり、マリエルに声をかける。
「さて、先程教えてもらった店にでも行こうか」
「そうですね」
2人は疑われないように、早々と調査を切り上げ教徒から教えてもらった店へと向かうのだった。




