52 ジェシカ
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今回は何時より少し長めです。
新学期明けて早々、ひと悶着あったクリスティーヌはC組の一致団結により完封勝利で魔法大会に挑む決心をしている。
ジェシカ達に情けは一切無用。やるならば徹底的に、そして圧倒的に勝利を見せつける為に作戦を練り、魔導具を制作するのである。
勿論、クリスティーヌ対策もしておくのだ。
きっとクリスティーヌの強さを知っているのは一部の人間であるが、何が起こるかわからないのだ。C組にとって嬉しい誤算は、クリスティーヌが隣国トワライ王国から珍しい魔草を手に入れてたり、調合を習ってきた事である。他の者も夏休暇中に他国の新商品の魔導具の解析を行ったりしていたのだ。
そして詠唱なしでの魔法展開の仕方も教える。これは、ソルティオから教わった魔術式の変換の応用である。覚えると詠唱なく強力な魔法が使えると便利なのだ。クリスティーヌもフェンリルから教わってきたのだが、魔術式変換を覚えておくと格段と覚える速度が高まるのだ。
勿論、こうなったC組を止める事は出来ないのであり、各教科担当の教師がコダックの元へと苦情を申し出るのだ。だが、それが大量な為にどう対処しようかと、コダックは一人頭を抱えていたのである。
C組に注意をすれば論破される事は目に見えているのだ。それを逆手に取る作戦を考え、コダックは実行するのである。
教師達からの苦情が激化したある日の事。
「おーい、お前ら。ちょっと手を止めて話を聞いてくれ」
コダックのいつもの言葉といつもの雰囲気が違う事に反応したC組の生徒達は手を止め、顔だけ向けてコダックの話を聞こうとする。
「お前達、他の授業中も魔法大会の作戦を練ったり魔導具開発をしてるそうじゃないか。別にやる事は構わないのだが……いや駄目なんだがな。他のクラスの受け持ちの教師の前で、自分達の手の内を見せても良いのか?作戦や開発が知れて寝首かかれるかもしれないぞ」
コダックの言いたい事をC組生徒達は直ぐに理解し、目を見開いて固まるのである。
「お前達は優秀だが、熱が入ると少し周りが見えなくなるのが欠点だ。もし、完璧に勝利を納めるのであればそういう事も頭の片隅に入れとかないといけないんじゃないか?」
「確かにそうだ……コダック先生の言う事は正しいな」
クラスのリーダーであるルーダが腕組みをし呟くと、周りの生徒達も同調し頷くのである。
コダックがC組にこの話をした事により、午後の授業からは皆、真面目な態度で授業を受けるようになったというのだ。
他の教師達に、どんな手を使ったのか教えてくれ、と激しくせがまれたコダックだったがC組生徒達の思惑と自分の思惑を知られたくなかった為に、何とかその場をのらりくらりと誤魔化し続けていくのである。中々腹黒いコダックなのだ。
後にC組生徒の担当はコダック先生という、実にどうでも良い名誉なのかわからない担当をさせられ、彼等が卒業するまで生徒達からも教師からも無茶振りを幾度となく受ける事となるのである。
昼休憩になると、C組の生徒達は持参している者と学食を食べる者とふた手に分かれる。皆、寮住まいなので基本学食なのだが、平民と呼ばれる爵位を持たない者達が学食に行くと嫌がらせをされるので次第に足が遠退いているのだ。
未だに爵位カーストと呼ばれる物が存在するのだが、クリスティーヌはそのうち爵位などなくなる世界になるだろうとクラスメイト達と話をするのだ。それが何年先、何十年先なのかはわからない。
親の権力を振りかざす子供など、世に出れば一人で何も出来ない者が多いのだ。勿論、クリスティーヌも始めは一人で服を着ることも、湯浴みする事も食事を用意する事も出来なかったのだ。1つ1つ、マリエルに根気よく教えてもらったから出来るようになったのだ。
食堂に着きメリッサと共にレイアスと合流する。勿論、ケント付きである。
ケントは、魔法大会後の夜会パーティーにメリッサを誘う事に成功したのだ。嬉しそうにレイアスに報告しその日は終始鼻の下が伸び切っていたらしい。レイアスは苦笑いしながらこっそりとクリスティーヌに教えていたのだ。
そしてもう1つ、驚く噂を耳にしたのだ。
何とアレクシスがジェシカと婚約するかもしれない、という噂だ。
クリスティーヌは耳を疑ったが、性格と根性の悪さはさておき……家柄も良いジェシカなら第2王子の婚約者としては無難だろう。
ジェシカの取り巻きのご令嬢がこれみよがしに、クリスティーヌに向かって大きな声で騒いでいるのだ。嫌でも聞こえてくるのである。
クリスティーヌにとっては、少し複雑である。アレクシスの事は好きなのだが、どうも肉親に対しての愛情なのではないか、と考えるのだ。
そして、相手があのジェシカとなると何故だか気持ちが納得できないのである。きっと兄のスペンサーがジェシカを選んだとしたら、烈火の如く怒り狂い、完全暗殺を目論むだろう。そういう感覚に近いのである。
「瓶底の誰かさんはさぞ悲しんでおられるでしようね」
「元々釣り合いがなかったのですわ」
「野暮令嬢の分際でジェシカ様と張り合おうなんておこがましいのですわ」
口々に取り巻き令嬢達がわざとクリスティーヌに聞こえるように大きな声で話しをするのだ。
そのお陰で、食堂は静寂になりジェシカとジェシカの取り巻き令嬢の声だけが響くのであった。
そこへタイミング悪く、アレクシスとフランがやってくる。
クリスティーヌ達を見つけると、駆け寄り声をかけてくるのだ。
「クリス、久しぶりだな。元気にしてたか?」
この時、アレクシス以外皆、この人は空気読めないのか……と思ってしまったのである。
見かねたレイアスがアレクシスに小声で話しかける。
「アレクシス様、御無礼を承知で申し上げますが、少し空気を読んで頂いてもよろしいですか?」
「ん?何かあるのか?」
どこまでも察しが悪いアレクシスを見かね、フランがレイアスに小声で事情を聞き暴走アレクシスを回収するのである。
「アレクシス様、あちらに行きましょう」
「え?なんでだ?どうした、フラン」
引き摺られるように食堂のテラスに出て行ったアレクシスとフランは、外で何やら話しをし、アレクシスが頭に手を置いて何か嘆いている姿が見えるのだ。
きっと、フランに、空気読めないのか!この馬鹿王子!とでも説教されているに違いない。
そんな様子を目の当たりにしたジェシカが黙っているはずがないのだ。
カップを片手にクリスティーヌの頭の上から、紅茶を流したのだった。
ジェシカの取り巻き達は耳に障る声で笑い出す。周りの者はボソボソと小声で何か話しをしていたり、目を背ける者、好奇の目で見る者と様々であったが誰一人として声をかける者は居なかった。
流石にレイアスとメリッサは頭にきたのだ。ジェシカの態度に声をかけようと口を開きかけた時、クリスティーヌは手で二人を制し首を横に振る。何も言わなくて良い、と目で合図をするのだ。
「あらあら、手が滑ってしまいましたわ」
ジェシカがわざと紅茶をかけているのは明白だ。
「一度が何度も重なると偶然では済まされない事を知っていますか?偶然が何度も重なるとそれは必然になるのです。つまりこれは故意的にされたもの。ついこの間、忠告致しましたわよね?」
クリスティーヌは濡らされた頭と服をハンカチで拭いながらジェシカに話す。
「なっ、なによ」
「次はないと。そちらが懲りずに稚拙な事をするのであればわたくしもお返しをさせて頂きますわ。丁重にお返しを致しますので宜しくお願いしますね」
「そ、そんな脅しなんて効きませんわよ!」
「そうよ!ジェシカ様は悪の退治をしているだけだわ」
「貴方みたいな腹黒い女は罰せられるべきよ」
ジェシカと取り巻き達が金切り声を上げながらクリスティーヌに意味不明な暴言を吐き続けるのだった。
クリスティーヌはため息をつき一言を最後に食堂を出て行ったのだ。
「残念な方々。後悔なさらないように」




