30 ライバルですか?
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コダック先生に促され、2列に並び順番待ちをするCクラス。朝の討議から極小対決を通し、クラスの生徒達が打ち解け雑談をしている。
クリスティーヌも側に居た男子生徒と話をする。話の内容は、先程の極小対決の強化の仕方についてだ。話に夢中になり過ぎて、背後から近付く人影に気付くのが遅かった。
「あら〜瓶底メガネのクリスティーヌ様はこちらのクラスでしたの?」
オホホホと高らかに笑う女、ジェシカと取り巻きが現れた。一部のC組の生徒は驚いた。ジェシカに対してではなく、今の今まで話をしていたのがあのクリスティーヌ・エレノーワだという事に。
平民は自分達の街で起きた数年前の王都の事件をよく知っており、その功労者が若干7歳のエレノーワ家のご息女という話も有名なのだ。知らないのは国の有事だったのにも関わらず動かなかった貴族の大半だ。
「何か御用です?」
クリスティーヌは面倒臭いとばかりにチラリとジェシカの顔を見る。ジェシカはその態度に腹がたったようですぐにつらつらと貴族特有の嫌味を並べる。聞いていても胸苦しい。
「クリスティーヌ様とお話をしようと思いまして。私Bクラスですの。王子と同じクラスなんですわよ。やはり王子のような高貴なお方と学べるのは爵位があり教養のある人達が選ばれるみたいですわ」
「お話と言うのはそれだけですか?ではこれで」
面倒臭いので早く終わらせるクリスティーヌ。その姿に余計腹が立ったジェシカはクリスティーヌの腕を掴み、立ち去る事を阻止する。
「貴方!わたくしがまだ話しているのに失礼ですわ!やっぱり野蛮で教養がない方は失礼なのね」
ジェシカの取り巻き達がクスクスと笑う。
「では言わせて頂きますね。野蛮で教養がないのはどちらでしょうか?わたくしはクリスティーヌ・エルノーワ。エルノーワ公爵家の娘です。今すぐその手を離しなさい」
クリスティーヌは冷めた目でジェシカを見る。
「なんですって!」
顔を真っ赤にしたジェシカが手をあげクリスティーヌの頬を叩く。静かになった周囲に響くガラスが割れる音。クリスティーヌの瓶底眼鏡が落ち、割れたのだ。同時に壇上近くから物凄い魔力のオーラが漂うが、クリスティーヌはどこ吹く風とばかりに静かに割れた眼鏡を拾い、ジェシカに言い放つ。
「どこの誰かお名前はお伺いしていませんが、調べればわかる事ですわね。謝罪は受けませんわ。では」
クリスティーヌは指を鳴らし、早便の手紙を出す。ジェシカはクリスティーヌの言葉を聞き、はっとする。クリスティーヌは公爵家であり、自分より身分が上なのだ。名前を言わず暴力まで奮い、度重なる無礼をしてしまったのだ。謝罪を受けないという事は、二度と自分の前に現れるなという意味。今更、取り返しのつかないことをしてしまった、と青ざめる。
ジェシカの取り巻き達も青ざめる。その後ろではマーガレットが唇を強く噛み締め、鬼のような形相でこちらを見ていた。
瓶底メガネがなくなったクリスティーヌの素顔を見て周りがざわつき出す。目の下が少しヒリヒリする。ジェシカに叩かれた時に切ったみたいだ。
1人の赤毛の男子生徒がクリスティーヌに声を掛け、目の下の傷を治癒魔法で綺麗にする。
お礼を言うクリスティーヌに、耳まで赤くする男子生徒。何やらいくつか言葉を交しているらしい。
壇上の近くからまた異様な魔力のオーラが流れ出し、魔力が強い生徒はギョッとする。レイアスは王子の姿を見つけその様子を見て、俯き一人で必死に笑いを堪えている。
「アレク様。魔力抑えて下さいね。あちらが、かの有名なクリスティーヌ嬢ですか。兄上から聞いていた話と少し違いますね」
「フラン。キースから何を聞いてるんだ?」
「アレク様の思い人だと聞いてますよ。可愛らしく快活なご令嬢と聞いていましたから」
「ものは言いようだな。キースもクリスのとばっちりばかり受けていたからな」
遠い目をして青ざめ身震いするアレクシス。その姿を見てフランはおもしろそうにニコリと笑みを浮かべる。
「瓶底メガネが早々に取られてしまって、競争は上がりそうですね」
ムッとしたアレクシスを尻目に自身は壇上に上がり、魔力測定を終わらす。入学式での一件も途中からではあるが目の当たりにしている。クリスティーヌの魔力に少し興味を持つフランであった。
赤毛の男子生徒はAクラスの貴族のようだ。Cクラスの生徒達は赤毛の男子生徒が居なくなるや、クリスティーヌに殺到する。握手を求め涙を流し出す者まで出てくる。クリスティーヌは困惑しながらも、嬉しくなった。前回ではこのように歓迎される事が全くなかったからだ。
コダック先生が1人1人名前を呼び順番に測定をしていく。Cクラスの測定だからか、一部の貴族以外は早々と食堂に行き壇上付近は人が少ない。数名の貴族がCクラスに興味を持っているだけだ。
クリスティーヌの番がきて、右手を水晶に置く。すると虹色にキラキラと眩く光る。
「あ…」
皆目の前の光景にあいた口が塞がらない。
水晶が割れるどころかサラサラと細かい硝子の砂になり流れるように下へ落ちてしまったのだ。
教師達は慌てて新しい水晶を出し、クリスティーヌにもう一度手を置くように指示をする。
また硝子の砂になってしまった。
「お…おい…お前…何かやったのか?」
「いいえ。ただ手を置いているだけです」
クリスティーヌは大真面目に答え、硝子の砂になる意味が解らず、この水晶はきっと古いものだったのだ、と勝手に解釈をする。
コダックはCクラスにとんでもない人物を入れたもんだ……と頭を悩ませる。魔力が強く割れる事はたまにある。先程測定した王子や側近のフランなどがその例だ。硝子の砂になるなんて初めての事だ。
クリスティーヌ以外にも多くの魔力持ちが集まるCクラス。今年は何か起きるかもしれない、と安易に受けた教師職にコダックは後悔を始めた。そしてこれは後に王立学園に語り継がれるクリスティーヌの伝説の1つとなる事はまだ誰も知らない。
「クリス。流石だな」
久しぶりに聞いた声である。
「あら、お久しぶりですわ。アレク様」
「そんなかしこまるな。昔みたいにアレクで良い。クリスに畏まられると何か不吉な事しか起きないからな」
アレクシスは笑い、クリスティーヌはため息をつき仕方無しに、わかりました、とだけ答えた。
「クリス、こちらは俺の側近のフランだ。よろしくな」
「お初にかかれます。フラン・ウィステリアでございます」
「クリスティーヌ・エルノーワですわ。ウィステリア……と言うとどこかで……」
「はい。キース・ウィステリアはわたくしの兄でございます」
「あーやっぱり!ちょっと雰囲気は似てると思ってましたの!懐かしいですわ。キースとマリエルに毎回怒られていましたもの」
クリスティーヌはクスクスと笑い、アレクシスは顔をしかめながらその当時の事をそれぞれ思い出しているようだ。
「兄上からクリスティーヌ嬢のお話は、お伺いしております。以後お見知りおきを」
「キースからだとろくな事を吹き込まれていそうだけど、こちらこそ宜しくお願いしますわ」
ニコリと笑いクリスティーヌは、じゃあ私はレイラスと約束があるので失礼致します、と礼をし颯爽と走っていったのである。
「フラン、駄目だぞ。クリスは俺のだからな」
「私にライバル視されましてもね……他にもクリスティーヌ嬢に心を奪われた男性は多いのではないですか?」
アレクシスは唸りながら、どうしたものか悩む。不器用なアレクシスを見てフランは兄の言葉を思い出し笑っているのであった。




