22 魔草乱舞ですよ③
いつもごらん頂きありがとうございます。
ブックマークPV励みになっております。恋愛要素も後々入りますので生暖かくお付き合い下さいませ。
風を切り無数の馬の土と草を駆ける音が静寂な暗闇に響き、土埃を巻き上げる。馬にかかるランタンの光が遠目には蛍の光が列をなしているように見えるのだ。
ローウェンは首の汗を拭いながら、必死に王都へ向かっており、後ろにはガウスとスペンサー、そしてエレノーワ領民達が遅れもなくしっかりとついてきているのである。
何とか明け方までには間に合う、と1人頷いた瞬間、横から急に大きな黒の塊が出てきたのだ。
「うわっ!」
ローウェンの愛馬が横に反れ、身体が振り落とされそうになるのを必死に腕に力を入れ踏ん張るのだ。ローウェンは更に上半身に力を入れ手綱をしっかりと握りしめ、上体を起こし体制を持ち直すと汗が一層吹き出てきたのである。
「一体なんなんだ?!」
目を凝らしその黒い塊をよく見ると、黄色い目がギロリと一瞬動いた。同時に女の子の声がしたのだ。
「今晩は!」
ローウェンは益々混乱したのである。
辛うじて手綱は持っているが横の黒い塊から少女の声が聞こえ、なみなみと発せられる魔力によっていつもと違う汗が頬を伝い何が起きても平静でいようと暴れる心を落ち着かせるのだった。
後ろからはエレノーワ領民達の大きな声を出し何か騒いでいるのが聞こえてくる。
「お嬢!!」
「クリス嬢!!」
「フェンリルは本当だったんだな!」
「お嬢!マスクだ!持ってけ!!」
驚く事にどれも少女に対する親しみある言葉ばかりで、誰一人としてフェンリルと少女を恐れてはいないのだ。
ローウェンは1つの仮説を立て、恐る恐る黄色い目をした黒い塊、いや強大な狼に向かって尋ねるのである。
「もしや…エレノーワ家のご息女のクリスティーヌ様ですか…?」
フェンリルの鋭い目が一瞬こちらに動いた。
「ちょっと!それはフェンリルよ!私はフェンリルの背中にいてるわ!ちゃんとした人間よ!なんで公爵令嬢がフェンリルなのよ。ほんっとこの人失礼しちゃうわ」
プリプリとクリスティーヌは怒るり、何かぶつくさと文句を垂らしている。
ローウェンは終始真面目に聞いたつもりなのだが、彼女の何か感に触ったらしいのだ。
今から国を揺るがす魔草を根絶するという緊迫した空気とはまるでかけ離れているのである。
もしや…クリスティーヌ嬢は王都へ遊びに行くと思われているのではなかろうか…
ローウェンは考えて考えて必死に考えまくったのだ。だが普通に考えても考えつかないのである。
それもそうである。7歳の幼い子供が何の戦力になるというのであろうか。
後にローウェンはこのように考えた自身をとても恥じる事となり、見た目では何もわからない。見た目だけで人を区別するべきではないと、強くかんじたのである。
「お父様!クリスです!グラッサ家はここから西へ3キロ程先にいます。門前で合流できると思いますので!私は先に現状を確認して参ります!皆さま。後程!」
クリスティーヌはそう叫ぶとフェンリルと共に暗闇に消え辺りは先程まで騒がしかったのが嘘のように静寂に包まれまたのだ。
自分達が走っている大分先に、灯りが見えている。
きっとグラッセ家だろう。
「気をつけてな!」
「お嬢は相変わらず、台風みたいだな!!」
領民達はガハハハハッと笑いながら何事もなかったように見送っている。
暫く馬を走らせると王都前の門に着いた。
何故だが、門が崩壊しており大量の矢が地面に突き刺さっている。
これも魔草と関係あるのだろうか?
うむむむ……もうじきグラッセ家が来るだろう。後程確認しよう。
ローウェンはまた考えたがわかるはずがない。
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時はローウェン達が門に着く数十分前まで遡る。
クリスティーヌは一旦グラッセ家の隊列に戻り、変装を解いたアレクシスをフェンリルの背中に乗せ王都へと向かった。
そう。顔パスを使うのだ。
王子の顔は王都では役に立つ。これっぽっちもアレクシスを戦力に入れているわけではない。
クリスティーヌからしてみれば、どれ程強いかわからないし別に知りたくもない。どうせ、後でわかるんだから!っとクリス持論を展開するのだ。あながち間違っていない所が余計にクリスティーヌを自信家にさせる。
前方に松明の灯りと城壁が見え、頑丈な黒い格子の門がみえた。見張りの門兵達もいる。
徐々に門に近づくと、城壁の塔にいる門兵達が何やら慌ただしく右へ左へと動いている。きっと王子が帰って来た事に驚いたのだろう。
そう考えていると耳元でビュンと音がした。
何か飛んできたのだろうか?飛んできた方向を見上げるクリスティーヌ。
いきなり空から無数の矢が雨のように降り注いできた。
地面に無数の矢が刺さる音が聞こえる。
「ちょ!アレク様!何?!何とかしてください!何もしてないのに攻撃って!ここの兵はどういう教育をなさってるんです?!おかしいですわ!」
「クリス嬢!言わせてもらうが、きっとこのフェンリルのせいだと思うぞ!」
ギャァギャァとフェンリルの背中で言い合いを始めた2人。
その間にも無数の矢がこちらに放たれる。あたったらそりゃ痛いに決まってる!と、必死に避ける2人と1匹。
「止めろ!止めろ!俺は第2王子のアレクシスだ!!騎士団長を呼べ!デニス!」
アレクシスが叫び、矢の攻撃をやめさせるように大きく手振り身振りで訴える。
先程まで続いてた攻撃が止んだ!と2人が安心したのが、大間違いだった。更に激しい矢の雨が空から降り注いできたのだ。
「アレク様!何なんですか!本当にこの人達!あほぅ共に話は通じませんの?!もう宜しいですわ!この砦ぶち壊しますわ!」
クリスティーヌは手に魔力を込め出した。
「待て!クリス嬢!余計にややこしくなる!俺が防御結界を張るから待ってくれ」
アレクシスが必死にクリスティーヌを宥め、魔力を掌に集中しフェンリル全体を包み込む防御魔法を直ぐに展開した。
「へぇ。さすが王族様ね。凄い魔力だわ。こんなにキラキラと輝いている綺麗な魔法は、初めてみたかもしれないわ」
ほぅ、と関心するクリスティーヌを横目にアレクシスは耳まで真っ赤にさせ顔をそっぽ向くのである。
クリスティーヌに初めて褒められたのだ。嬉しくない訳がないのだ。
「まっ……まぁ……これ位は……うん。何時でもクリス嬢の為にな……」
「さぁ!フェンリル、行きますわよ!コノあほぅ共を蹴散らしますわよ!」
「ちょ!おい!待て。クリス!主旨が変わってる!団長のデニスと合流だろう!コラッ!フェンリルもウキウキで攻撃するな!待て!ややこしくなる!やめろぉぉぉぉ!俺らは敵じゃない!この国の王子だぁぁぁ!!」
アレクシスの絶叫が木霊する中、王都の門は既に半分崩壊しているのだ。
フェンリルに乗った謎の2人組の奇襲。一瞬にして城壁の門を破壊し怪我人を一人も出さず圧倒的な強さで突破した。というよく分からない事実が後世に伝説として語り継がれる事となる。アレクシスにとって黒歴史の1つになるのは聞くまでもない。
クリスティーヌのお陰でアレクシスはどれ程黒歴史を後世に刻むのでしょうか。
楽しみですね。




