143 五年ぶりの再開
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「ふむふむ。いつものこの女は嫌いだが、他の二人はまともな人間のようだな」
ケイローンは、温かいお茶を飲みながら、静かに頷いている。
キメラ殲滅の為に、森へと来たエスイアとジュイナは、ケイローンとクリスティーヌの口論に巻き込まれ、現在、共に和やかなお茶の席についている。
ここは森の精霊達が住むと言われている大木の中だ。森の神殿と呼ばれており、通常人間は入れない。
時間の流れが止まっており、のんびりと話をするにはもってこいの場所だ。
「感動的な再開は期待していなかったが……」
「こんな形で再開するとは……」
エスイアとジュイナは何か言いたげそうな表情でクリスティーヌの顔……いや白い仮面をみつめる。
「エスイア、あまりこのケイローンと話をしたらだめよ。狙われるわ」
「狙われる? 」
クリスティーヌはひそひそとエスイアに耳打ちをしながら、ケイローンの顔を盗み見る。
「この小娘め。ある事無い事吹き込むな。俺は心の綺麗な男も女も好きなんだ‼ ただ、美しい心が好きなんだ‼ 」
「ね? 変でしょ? 気持ち悪いでしょ? 」
「この女は性根が腐っている。そんなに加護を与えられなかった事が悔しいか‼ 」
「いいえ。貴方の様なおかしなケイローンに加護を与えて貰うと、私までおかしくなるわ。素直過ぎて、本音しか言えずにごめんなさいね。オホホホホホ」
クリスティーヌは勝ち誇ったように高ら笑いをし、また様になっているせいで、口元に扇子がある幻覚まで見えてしまう。
「ク……クリスさん……一体何があってこんな壊れた状態になっているのかしら? 」
ジュイナは言葉をオブラートに包もう頑張ったが、お前頭大丈夫か?と遠回しに聞いているのと同じだったのだ。
「特に? 裏切りとそのせいで、死にかけた位かしら? 」
一瞬クリスティーヌは気が立つ素振りを見せたが、仮面のせいで表情が見えない。
裏切りと言う言葉に引っかかったエスイアとジュイナは、詳しく聞きたいが、クリスティーヌの怒りの雰囲気で今は聞くべきではないと判断したのだ。
その代わり、仮面と白い服装について聞いてみる。
「クリスティーヌは何故その格好をしているんだ? 」
「そうね……」
クリスティーヌが口を開こうとすると、何処からともなく、一匹の蝶がひらひらと飛んできたのだ。
静かにクリスティーヌの指に止まり、羽を休めているかのように見える。
羽には変わった模様が入っており、よく見ると目が紅い。
「珍しい蝶だな」
エスイアがそう言うと、クリスティーヌはいきなりその蝶に魔力を流し、一気に破裂させたのだ。
「な……クリスさん?! 」
「ここにも追手がくるのね……ゆっくり話せないわ。二人共、この変わった模様の紅い目の蝶には絶対に気をつけて。それと……」
ジュイナは驚くが、クリスティーヌは怒りを表すかのような声でエスイアとジュイナに忠告をする。
「え……何故? 」
「良いから必ずそれは守って。また近いうちに会う事になるわ」
エスイアとジュイナは驚きつつも頷き、出来るだけ連絡をくれるように、と伝えたのだ。
クリスティーヌはケイローンに、また来る。この怪しい蝶は全て殲滅をお願いするわ、と伝えると、颯爽と地上へと戻ってしまったのだ。
残されたエスイアとジュイナは、何が起きているかわからず、クリスティーヌの後を直ぐ追ったのだ。
勿論、ケイローンも後を追ったのである。
森の神殿から、出るとそこにはもうクリスティーヌの姿はなく、代わりに先程クリスティーヌが破裂させた蝶が、何千匹と待っていた。
鱗粉があちらこちらに舞っており、エスイアとジュイナは咄嗟に口と鼻を抑える。
「これは……もしや……」
ケイローンは、目の前の光景を見るや眉間に皺を寄せ、蝶を全て焼き払うように火炎魔法を使う。
エスイアとジュイナも森の精霊がそうしているならば、と同じように蝶を焼き払っていく。
「精霊様、後でこの蝶の意味を教えて下さい」
ジュイナはケイローンに向かって真剣に言葉を発すると、ケイローンは静かに頷いたのだ。
森の神殿がある大木の周りには、木々が生えておらず、草原が広がっている。
「こんなに何処からやってくるの?! 」
「鱗粉でむせそうになる」
エスイアとジュイナは二人で必死に蝶を焼き払うが、ケイローンは傍観をしているのだ。
"ちょっと!! エスイア、あのケイローンに手伝うように言ってよ"
"ジュイナが言えば良いだろ"
二人は念話を通し、どちらが森の精霊と言われるケイローンに手伝って欲しいと伝えるかを押し付け合っていたのだ。
木々がざわめき、馬の駆ける音が次第に近づいてくる。
二人は、蝶を焼き払いながらも馬の音に耳を澄ませる。
森から出てきたのは、ケイローンと似た様な魔獣ケンタウロスだったのだ。
「遅いぞ。森の番人よ。さっさとこの蝶を殲滅させろ」
「かしこまりました」
ケンタウロスは、背から弓と矢を取り出し、蝶の大群に向かい弦を引き矢を放つ。
矢は炎を纏い蝶の大群の中心へと勢いよく向かい、一匹の蝶を木に仕留めると他の蝶は一斉に炭となったのだ。
「す……すげぇ……」
「すごいわ……」
二人はケンタウロスの弓さばきに驚き、はるか向こうにある木々を見つめるのであった。