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12 忘れてますよ

いつもありがとうございます。今回は長めです。

 雪山の出来事で仲良くなったクリスティーヌとレイラス。


 6歳に戻る前のクリスティーヌは、友と呼べる者はいなくぼっち嬢だったのだ。

 初めはそれなりに仲良くしてた友人がいたのだが、クリスティーヌの頭はお話畑の脳内魔薬に侵されていたのだ。ダニエルしか脳になく、周りから耳が痛い話をされても全て遮断し自分の都合の良い言葉しか耳に入れたかったのだ。そんな様子のクリスティーヌに、周りも呆れて離れていってしまったのだ。


 レイラス・サーモスはサーモス伯爵家の長女であり、金色の髪、淡い緑の瞳をした、いかにも深窓のご令嬢という、か弱い雰囲気なのだ。サーモス家の人々は頭が切れるので、代々宰相など務めており国の内政に一役買っている。ガウスが魔獣研究に没頭したい、と我儘を言ったお陰で会計役からこの仕事が回ってきたのは、周知の事なのである。


 今日はレイラスからのお誘いで、王都で人気のあるオペラを観に来ていたのだ。


 サーモス伯爵がレイラスを助けてくれたお礼として、良い席を取ってくれたのだ。個々が離れており、ボックスになっているので周りを気にせずに会話ができる席である。貴族でも人気がある席なので、中々席が取れないので有名なのだ。


 クリスティーヌは朝からオペラを楽しみにしていたのだ。オペラ劇場で()()()を見つけるまでは……。


 クリスティーヌとレイアスは、周りからはオホホホホ。ウフフフ。と笑い合いながら談笑をする可愛らしい普通の貴族令嬢に見えるだろう。


 だが一度その会話入れば、瞬時に騙された!と気がつくのだ。婦女としてあるまじき言葉がテンポ良く出てくるのだ。


「クリスティーヌ様は婚約者のダニエル様と結婚したくないと?なぜですの?バードン家のダニエル様と言えば、貴族の女子の中でも人気ある殿方ではありませんか」


 レイラスは扇を開き、優雅に扇ぎながら風を送りクリスティーヌの言葉を待つ。


「顔が良くても、中身が残念な方と結婚できまして?顔合わせの時に、"自分の方が美しいから、比べられる花達が可哀想だ"とドヤ顔で俺が1番だろう?って雰囲気を出して言い切りましたのよ?どんだけナルシストで気持ち悪い!と思いませんこと?」


 クリスティーヌは以前の顔合わせの屈辱を思い出しながら、言葉にならない声を出しながら扇を力強く握り締めた。


「あら。そこまで頭のネジが飛んだ気持ち悪い殿方でしたのね。薄々変な方だな、とは感じてましたのよ。だって、以前パーティーでお見かけした時にブツブツと何か仰っていたので聞き耳立ててみましたの。そしたら、"今宵もわたくしが1番美しい。"だの何だの仰っていたのですわ!あぁ。思い出すだけで気持ち悪いですわ!」


「まぁ。ドン引きですわね!毛穴が逆立ちますわ!」


 クリスティーヌとレイラスは、小声でクスクスと笑い合う。

 ふと2人が下へ目を向けると、ダニエルのような姿をした人物が同年代の女の子をエスコートしていたのだ。


「ちょっとクリスティーヌ様。あちらにいらっしゃるのは例の残念な殿方ではなくて?」


 オペラグラスを覗き確認する。


「間違いありませんわね。紛れもなく、わたくしに"野暮ったい"と仰られたダニエルですわ。もう様付けなんてできないですわ!」


「ねぇ。クリスティーヌ様。面白そうだから、ダニエル様の元にちょっと行きません?直に毛穴逆立ちを体感してみたいですわ。」


 レイラスは天使のような笑みを向けたのだ。

 クリスティーヌは胡散臭そうな目でレイラスを見ると心の中で悪態をつくのである。


 えぇぇぇー?!

 絶対レイラス様、何か良からぬ事を考えている顔ですわ。ダニエル(あれ)を純粋に楽しむとかあり得ませんもの!絶対、エスコートしている令嬢の反応がみたいに違いありませんわ!

 何てぶっ飛んだ頭の令嬢なんですことっ!


「誰がぶっ飛んだご令嬢よ!クリスティーヌ様の心の声がだだ漏れですわよ!」


 クスクス笑いながら、クリスティーヌの背中を何回も叩くレイラス嬢。

 もうクリスティーヌはレイラスには逆らうと面倒だと悟ったのか、渋々とダニエルが座る席へと移動するのである。勿論、瓶底メガネの装着も忘れずに。


 クリスティーヌとレイラスが下へ降りる。


「あら!ダニエル様!奇遇ですわね!」


 クリスティーヌが渾身の演技とばかりに、瓶底メガネをクイッとあげながら明るくダニエルに声をかける。


 ダニエルは一瞬ビックリしたような表情だったがすぐに誰かわかり、ナルシストスマイルを繰り出す。


「やあ。クリスティーヌ嬢。久しぶりだね。あれ以来会っていないから忘れる所だったよ。今、瓶底メガネで思い出したよ。ハハハ。僕の誘いを何度も断るだなんて君は変わっているんだね」


 初っ端から、この男は言ってくれる。

 クリスティーヌの後ろで、レイラスが必死に笑いを堪えながら背中を何度も叩いてくるのだ。


「あら、忘れて頂いても宜しくってよ?他のご令嬢と仲良くしていますし、破棄も手っ取り早くすみそうですし?」


 ニッコリと、やはりコイツは毒殺…いやなぶり殺しの刑にしてやりたい!と必死に殴りたい気持ちを抑えながら、扇を強く握りしめチラリと連れの令嬢を横流しで見たのだ。


「あら?そちらはどなたかしら?」


 クリスティーヌは、嬉しそうに聞いた。


「初めまして。わたくしマーガレットと申します。今日は憧れのダニエル様にエスコートをしてもらいましたの」


 ふふん。と勝ち誇った顔をし、ダニエルをウットリとした目で見つめ、自身の申し訳ない程度の胸を押し付けながら腕を絡ませている。


「何て嬉しい事を言ってくれるんだい?マーガレット嬢。君はなんて優しくて美しいんだい?」


 ダニエルは優しくマーガレットの髪を撫でる。


 いちゃいちゃは他所でやってくれ。

 このマーガレットという女、中々したたかだわ。お色気なんぞかけぬとも、欲しければどうぞどうぞ引取って下さいませ。と言葉が出かかったが、必死に言葉を飲み込んだ。



「あら。丁寧なご挨拶ありがとう。わたくしは、クリスティーヌ・エルノーワ。それは良かったわ。ダニエル様を宜しくね。お二人の邪魔しては悪いからわたくし達は、()()()()戻りますわ。失礼致します」


 ニッコリと、ダニエルの顔を見て言うと背中に隠れて笑っていたレイアスを連れて元いた席に急いで戻った。


「あーー!腹が立つーー!」


 クリスティーヌが顔を真っ赤にしてプリプリしているのにもかかわらず、レイアスはまぁまぁ。オホホホホ。ウフフフ。ダニエル様に忘れかけられるなんて!しかも恋敵も現れて!笑い死にますわ。と気の済むまで笑っては、クリスティーヌで遊んでいたのであった。

BOX席の方がお高いんですね。


ダニエル様は期待を裏切らないようにこれからも精進してまいります。


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