112 特大キメラ
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次の日もその次の日も、厳しい訓練は続いたのだ。
日を追う毎に鎌を振り落とされる回数が少なるなるが、負担は未だに取れず蓄積されたままだ。
クリスティーヌはいつものように椅子にすわり、飲み物を飲み、徐々に落ち着きを取り戻しゆっくりと考える。
この訓練は、思った以上に精神的ダメージを受ける。
始めのうちは、切られた、次こそは、と思えるのだが、回数や日を追う毎に、焦りが早く現れる。
その上で切られると、更に恐怖が上乗せされるのだ。
そのうち、無理だ、出来ない、と悲観的な事を考え出し魔力が乱れる。
そう、悪循環に陥るのだ。
ペクト老師は、畑の栽培を何故させているのか。
よく考えろ。
気配を消し、無でいる事。
何故無でいるのか……
見た物と事実は異なる。
異なる……
こと……
そう言う事か。
クリスティーヌは、エスイアとジュイナに答えが見つかったと言い、少し協力して欲しいとお願いをするのだ。
そして次の日、いつも通り魔法陣へと入る。
クリスティーヌは暗闇の中、目を閉じ、リィーパーの感覚と共に、自分、エスイア、ジュイナがいる感覚を探し出す。
切られる事を恐れてただ静かにしたり、心を無にするのではなく、周りの空気に合わせるのだ。一体となるのだ。
ペクト老師は、眉尻を片方上げクリスティーヌの変化に気付く。
クリスティーヌは、一度も切られる事なくその日の訓練は終わったのだ。
「精神統一の仕方をやっと覚えたようだな」
エスイアとジュイナもまだ乱れが出るが、よくコントロール出来るようになっている、とペクト老師に褒められたのだ。
「それを常出来るようになれば、尚の事良い。さて、そろそろやってくる頃かの……」
「やってくる? 」
クリスティーヌ達三人が不思議に思い聞き返すと同時に、何か不穏な気配がこの小屋へと近付いている。
「なに……? この気持ち悪い気配は……」
「ふぉっふぉっふぉっ。気付いておらんかったのか。一昨日辺からこの小屋へと進んで来ておったぞ? 」
ペクト老師の言葉に驚いだ三人は、直ぐに部屋を出て、小屋の扉を勢いよく開いた。
「南東、500メル付近に……これは魔獣……? 」
「いえ、違うわ。きっとキメラよ」
「だな。しかも特大の……な」
「では、儂はゆっくり見学させて貰おうかの」
ペクト老師は小屋から椅子を外へ運び出し、よいしょ、と座りだした。
「この付近で戦えば、森にも魔獣にも被害が出るわ。あそこに誘導して戦いましょう」
「じゃあ、俺は何発かキメラにぶち込み、こっちに走ってくる」
「私は拘束魔法の準備を。クリスさんは浄化魔法をお願い」
三人は頷き、エスイアはキメラの元へ、クリスティーヌとジュイナは平原へと走り出した。
ジュイナとクリスティーヌは平原へと着くなり、魔力を込め魔法陣を展開しエスイアの到着を待つ。
"エスイア‼ こっちは準備出来たわ"
"わかった‼ "
エスイアとの念話が終わると、少し離れた場所で爆音と共に煙が上がる。
直ぐに、土煙が上がりこちらへ向かって来ていることが遠目でもわかる。
木々を薙ぎ倒しながら、エスイアが召喚した魔獣、宝石竜に乗りながら森から出てきた。
「来たわ! 」
土埃が一層増し、キメラの姿が見えない。
「えぇ‼ でかっ‼ 」
ジュイナが婦女であるまじき言葉と声をあげる。
土埃が消え、そこに現れたのは見た事も無いような大きさのキメラだったのだ。
家屋の二個分はあるであろうキメラは、足は4本あり、頭は2つ、トカゲの様な奇妙な顔、尻尾は蛇であった。
"ちょっと‼ こんな大きいなら先に言ってよ‼ "
"んなもん、言える暇あるかよ‼ "
"これは……中々の大きさですわ……"
"おい‼ さっさと済ますぞ‼ "
エスイアはそのまま走り続け、クリスティーヌとジュイナが展開した魔法陣を悠々と飛び越え、魔法陣へとキメラを誘い込む。
キメラは速度を下げず、そのまま魔法陣へと向かって走り、魔法陣に足を踏み入れた。
キメラは、違和感に気付き足で速度を抑えようとしたが、遅かった。
ジュイナは直ぐ痺れ魔法を発動させ、キメラを電撃で襲い身動き取れない状態で魔法陣内に留め、結界を発動させたのだ。
"クリスティーヌ‼ 今だ‼ "
クリスティーヌはエスイアの合図に魔力を込めながら、空中に紋様を描き古代魔法を発動させる。
キメラの身体からは血が噴き出し、呻き、悶えながら自身の身体を食いちぎり出した。
クリスティーヌは、更に魔力を魔法陣へと放つと、キメラはゆっくりと倒れ、地面の上で腐敗し溶けて消えてしまったのだった。
周辺には、腐敗臭と溶けた肉の異様な臭いが漂っていた。
ジュイナとエスイアは同時に紋様を描き、溶けて消えたキメラの跡が残る地面の浄化は始めるのであった。
「あの性悪ババアが寄越すだけあって、まぁまぁだな……」
ペクト老師は、不敵な笑みを浮かべ椅子に座りながらつぶやいたのだった。