表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4話 幼なじみ

 乳兄弟の助言に従って、優秀な花嫁を探すため、ウィルは社交に力を入れ始めた。

 帰国して、まだ二か月。さすがに、一人でお茶会や夜会に出席する度胸は無い。

 ずっと祖国に住んでいる、気心知れた幼なじみに、同行を頼む。

 渋る相手への報酬は、大陸で最先端の流行を教えること。


 ウィリアム王子は、国一番のオシャレな少年だった。世界をめぐってきたから、他国の文化に一番詳しい。

 白馬に乗り、王都を練り歩く王子様の服装を、国民や行商人たちが真似しようとする。

 今の国内の最先端流行は、男女問わず、首元にスカーフを巻くことだ。

 ウィリアム王子が流行らしてみせると、幼なじみに豪語して、三日間で見事に実現させてみせた。

 それを目の当たりにした幼なじみは、十日間悩み抜いて、ようやく同行すると頷いてくれる。


 そして、現在、王家主催の軽食会。人混みの、ど真ん中。

 ウィリアム王子に同行した幼なじみは、激しく後悔していた。

 涼しい顔つきを通り過ぎて、氷点下の空気をまとっている。


「ウィル。何人目?」

「……三十八人目」

「名前と顔は?」

「……覚えた」

「本当に?」

「一度覚えれば、二度と忘れん。俺は、記憶力が良いからな」


 ものすごい嫌味を込めて、幼なじみは見上げる。氷点下の眼差しで。

 力なく見下ろしてくる、赤い瞳。愛想笑いとおべっかを使いつづけた結果、赤毛の王子の情熱的な瞳は、死んだ魚の瞳に変化していた。


 二年ぶりに帰国した赤毛の王子は珍しくて、珍獣扱いだ。頼まなくても、向こうから来てくれる。

 加えて、王都で話題になっている、オシャレな白馬の王子様。貴族令嬢のアプローチも、ものすごい。


「疲れた……」

「王子の責務は?」

「……エド、痛い」

「ウィル、責務は!?」

「ゴメンナサイ、ガンバリマス」


 うっかり愚痴を漏らそうもんなら、幼なじみが静かに足を踏む。ご丁寧に、かかとでグリグリ踏んでくれる。

 エドと呼ばれた幼なじみは、黙って王子の仕事をしろと、氷点下のオーラをぶつけてきた。

 王子は片言で謝りながら、背筋を伸ばす。


「ウィリアム?」


 爽やかな声が聞こえた。紺碧の髪をした二人が、王子たちに近づいてくる。


「うん? アルノール?」


 気合いを入れ直したウィリアムは、見る者を魅了する、雪の天使の微笑みで出迎える。

 軍事国家の属国である東の国から、第一王子アルノールとその親戚の娘マティルドが留学してきていた。

 二人は素晴らしい紳士と淑女の礼をとる。赤毛の王子が、世界中を旅していた影響もあり、三人はずっと前から知り合いだ。

 アルノールとマティルドが、赤毛の王子の帰国に合わせて留学してきてからは、親しい友人になりつつある。


「ウィル。次の試験も、私の勝ちだな」

「黙れ、アル。次こそは負けん!」


 顔を上げた東国の第一王子アルノールは、口角をつり上げる。

 情熱的な瞳に敵対心を宿して、赤毛の王子は、にらみかえした。


 何を隠そう、この二人、学年首位と二位のライバル関係だ。

 二月前の王立学園の入試の成績は、首位が東国のアルノール王子で、ウィリアム王子は二位。

 そして、入学後の実力試験でも、アルノール王子が一位で、ウィリアム王子は二位。

 隣り合う国で、同じ王子と言う立場上、二人はお互いが気になり、ライバル意識をもった。


「アル。第二王子殿下は留学してこないのか? お主と同い年であろう?」

「弟は、国内で進学を選んだ」

「そうか。また会えると思って、楽しみにしておったのだが。

確か……『雪の天使を見つける』と意気込んでいたな。我が『雪の国』でなら、雪の天使は見つかると思うのだが」


 ウィリアム王子のなにげない質問に、東国の第一王子は飄々とした笑顔を浮かべて、やり過ごす。


「……アルノール様」

「ごめん、マティ。待たせたね。

ウィル、挨拶回りを続けないといけないから、今日はこれで。また明日」

「ああ、また学園であおうぞ」


 東国の二人は会話もそこそこに、すぐにその場を離れていった。

 まるで、逃げ出すように。


 二人を見送ったウィリアム王子は、腰をかがめると、年下の幼なじみに耳打ちする。


「……カマをかけた。あの二人は、南の公爵家に、目を向けておるようだな」

「まあ、そうなるよね。簡単に、ウィルの素性はつかめないから」

「……エド、東国に目を向けておけ。大陸の火種になりかねん。

第二王子ジェスレル殿は国粋主義で、我が国の属国から脱出することを、強く主張する人物だ。

もしも、あれが王太子になれば、戦争が起こるぞ」

「……戦争が?」

「ああ、我が国から独立するための戦争がな」


 幼なじみの父親は、国母派筆頭の内務大臣だ。

 戦争の可能性をエドに伝えておけば、それを念頭に立ち回ってくれるだろう。

 ウィリアムは王子として、国の命運の一端を託すくらいには、幼なじみのエドを心から信頼している。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ