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3話 夕暮れ

「俺が花嫁を見つければ、兄者も花嫁を見つけられるのか?」

「えっ?」


 真剣な眼差しをして、ウィリアム王子は、頼りになる乳兄弟の部屋に乱入してきた。

 兄貴分の前に立つと、両手で机をたたき、前のめりになりながら、大音量を響かせる。

 聞かれたヴァルテル青年は、目をパチクリした。なんとか、声を絞り出す。


「……ウィル、誰に言われたの?」

「王宮勤めの者たちだ。『未婚の王子として、早く婚約者を決めて、国民を安心させるべき』と諭された」


 情熱的な瞳をくもらせながら、王子はボソボソと続ける。


「……俺は、本来、南方のどこかの王家へ、婿養子にやられる予定だったから、婚約者なんて居ないし」


 ウィリアム王子は、燃えるような赤毛と、情熱的な赤い瞳の持ち主だ。

 金の髪と青い瞳が特徴である、この国の王族としては、異端の外見である。

 遠い昔、南方から嫁いできた祖先が、赤毛と赤い瞳であり、世代を超えて、ウィリアム王子が受け継いでしまった。


「やっぱり、政治基盤を強くするためには、国内の政略結婚が最適なのか?

それとも、諸外国との関係を重視して、他国の王女をもらうべきなのか?」


 兄貴分を見つめ直し、ウィリアム王子は真剣に尋ねる。


 現国王の子供たちが政権争いに巻き込まれ、次々と命を落とした中、国外へ追いやられていた側室の息子二人だけが生き残った。

 結果的に、生き残った息子二人は呼び戻され、ウィリアム王子も帰国することになった。

 そんな経験があるからこそ、婚約者選びに慎重になってしまう。


「……ウィリアムの気に入った子で良いと思うけど? 政略結婚なんて、今の国王と同じじゃないか」

「恋愛結婚が、最適と言うことか。了解した。助言に、心から感謝する!」


 軽く混乱したままの乳兄弟を尻目に、部屋から飛び出していく、ウィリアム王子。


 入れ替わるように、金髪の青年が入ってくる。

 部屋の中の会話を聞いていたのか、あきれた眼差しで、弟分を見送った。


「……ウィルって、あんなに単純だっけ? もっと賢かったと思うけど?」

「帰国してからだよ。王家の色を持たない王子だから、注目されやすくなったからさ。

さすがのウィルも重圧を感じて、正常な判断ができなくなっているようだね」


 入り口から入ってきたのは、ヴァルテルの双子の弟、ルートルド。

 ウィリアム王子を諭していた双子の兄へ、顔を近づけた。ひそひそ話を開始する。


「ふん! 側室殿の嫌がらせの一端だろう?」

「ああ、あの女ギツネのせいだ」

「潰すか?」

「今潰せば、私たちの立場が危うくなるね。一応、国母派になるからな。

ただ、女ギツネに、権力を持たせない方向に動くことことはできるかな」

「中立の王族?」

「そう。私たち二人で、二つの王族公爵家を取り込むんだ」


 弟分の飛び出した扉を見つめながら、双子兄は強く決意した声を。

 分家王族に当たる、二つの公爵家を、自分たちの個人的な味方にするのだと。


「……南はパス」

「……南はパス」


 示し会わしたように、同時に言い出す双子。

 お互い見つめあい、次の台詞を。


「西が良い!」

「西が良い!」


 やっぱり、ハモる。無言で見つめあった。

 兄のヴァルテルは視線を反らしながら、切り出す。双子の弟ルートルドも、気まずそうに、反対側へ視線を。


「南の公爵家の娘たちは、気性に問題あるから……」

「そうそう。一番穏やかで、好みだった子は、南国へ嫁に行く予定だし。あれは、政略結婚だから、取り消せないし」

「……政治的には、南を押さえて置く方が良いけど……。

あのタヌキ当主は、王太子に子供が生まれた瞬間に、国王と王太子を排除しかねないよね?」

「王太子の弟も、巻き添え排除確定だって。

祖父と父親とおじが亡くなり、世代を飛び越えて、王太孫(おうたいそん)を立てる未来が見えている」


 国王の子供が後継者になると、王太「子」になる。

 孫が後継者の場合は、王太「孫」となるらしい。


 王太孫が即位となれば、幼い国王の代理人として、分家王族の誰かが、摂政政治を行いそうだ。

 南の公爵家は、分家王族の中で一番権力が強いため、まかり通ってしまう。


「そうなると、やっぱり西になるね……交流無いけどさぁ。

あー、政略結婚、確定か。婚約するとき、ウィルに言いにくいな」

「そこは頑張って、口説き落とす! 相思相愛になれば、政略結婚から、恋愛結婚に早変わり。堂々と報告できるって、寸法

婚約者にないがしろにされている女の子の情報、いくつか仕入れてあるから、ここを攻めよう」

「……えっ? ルートルド、情報収集、早くない?」

「何言ってるんだ、ヴァルテル。女ギツネを出し抜かないと、こっちが潰されるぞ?

独裁政治の国王の次は、傀儡(くぐつ)の国王なんて、僕はごめんだからな」


 ルートルドは、遠い視線になった双子の兄ヴァルテルの肩をたたく。

 双子たちの背中には、長く伸びた西日が当たっていた。


 もうすぐ、夜がやってくる。

 傾いた太陽は、この国の夕暮れを告げていた。

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