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2話 白馬の王子様


「足をくじいた娘を家まで送り届けるのは、男として当然だろう?

元々、王都の巡回に出る予定であったから、そのついでだ」


 目をパチクリしながら言い放つ、赤毛のウィリアム王子。

 乳兄弟のヴァルテル青年は、唖然とするしかない。

 一応、兄貴分として、注意してみた。


「……女性と二人っきりになるのは、どうかと思うけど?」

「案ずるな。密室の馬車ならば、娘の醜聞になろうが、俺の馬に乗せた。二人っきりでも、周囲から丸見えだから、問題は無い。

第一、俺の親戚の娘だ。邪推する要素は、皆無だな!」


 よく考えただろうと、得意気な顔つきで、豪快に笑う王子。

 燃えるような赤毛がゆれて、陽気な太陽を思わせた。


 外国生活が長く、帰国して二か月しか経っていないウィリアム王子は、祖国の常識にうとい。

 自分の常識に照らし合わして、男が婦女子を助けるのは当然と判断。

 そして、合理的と思う行動をしただけのようだ。


「……ウィル。君さぁ、自分が王子の自覚ある? しかも、愛馬は白馬だよね?」

「ああ、俺は王子だ。世界中で好まれる歌劇の王子の愛馬は、白馬と決まっているからな。

王子たる者、平民たちに夢や希望を与え、幸せな笑顔をもたらせなければならぬ!

白馬に騎乗して、王都の巡回に出れば、国民だけでなく、行商人たちも喜んで手を振り替えしてくれるのは、非常に嬉しく思っておるぞ。

俺が目を光らせることで、王都の治安が向上し、王家への好感度も上昇して、一石二鳥だ♪」


 満面の笑みを浮かべる、「本物の白馬の王子様」を前に、ヴァルテルは頭をかかえた。

 冗談抜きで机に肘をつき、両手で頭をかかえた。


 弟分は、一応、王子の責務を理解しているようだ。

 しかし、実践内容が、斜め上の方向へ向かっている。


 こんなアホな子だったっけ?と、乳兄弟のヴァルテルは、頭を抱えながら、次の質問をした。


「……護衛の騎士も付けずに出歩くなんて、どうかと思うけど。

君の護衛は、今、どこにいるんだい? 職務放棄?」

「そんなことは無い! 剣術稽古に付き合ってもらった!

俺が力加減を間違えて、全員打ちのめしてしまったゆえ、休んでもらったのだ。

ゆえに、あの者たちに、非はない!」


 護衛の騎士たちが罰せられると察したのか、急いで養護する王子。

 乳兄弟は、再び唖然とした。両手を頭から離して、目の前を凝視する。


 打ちのめした? 護衛騎士を? 全員?


「……ウィル。もしかして、また剣術の腕を上げたかい?」

「むろんだ。俺はこの国、いや、世界で一番強い騎士になる。

将来、兄者の右腕になるためにも!」


 力強く頷く、赤毛の王子。

 乳兄弟を見つめる視線は真っ直ぐで、 情熱的な瞳は王太子への信頼で溢れている。


 この国は軍事国家だ。武術を極めた実力者が、皆の尊敬を集めて、強い権力を握れる。

 ウィリアム王子は、絵にかいたような道を歩もうとしていた。


 乳兄弟ヴァルテルのは、弟分を諭すように、ゆっくり首をふった。


「……ウィル。剣術の腕だけでは、やっていけないよ。

優れた武将と言うのは、戦わずして、相手に勝つものだ」

「戦術を覚えれば、敵に勝てると? 強き武将も必要だろうに。

武勇伝を持つ武将は、その場にいるだけで敵を威嚇し、味方の士気を上げる。

俺は、そのような騎士になりたいのだ!」


 アホの子かと思えば、理論立てて反撃してくる。

 乳兄弟は、右手で眉間をもんだ。


 ウィリアム王子の主張は間違えていない。

 武術に秀でる騎士は目立つし、戦いの流れを一瞬で変えることもある。

 だが、それは大局の一部にすぎない。


「王立学園に入って、政治と外交を学んでこい。

文武両道の騎士しか、王太子には要らない」


 ヴァルテルは優雅に微笑んだ。数多の人々を魅力する笑顔を浮かべたまま、キッパリ言いきる。

 斜め上の方向へ、全力疾走する弟分に、詳しく説明する気力を失った。


「……兄者の隣に立つには、武術だけではダメなのか?」

「能無しが国王の隣に居ると、国が乱れる。

……現状を見れば、嫌でも理解できるだろう?」


 独裁政治の国王の左手側には、世継ぎを生めなかった、二番目の王妃が座っている。

 最初の王妃が亡くなったあと、他の王妃候補を蹴落として、正室の座を射止めた娘が。

 彼女の親戚は、宰相になった。


 国王の右手側には、婚約者の王子を捨て、国王の側室になることを望んだ娘が座る。

 王太子を産んで国母となった側室は、自分こそ王妃にふさわしいと、常日頃から主張していた。

 こちらの親戚は、内務大臣になった。


 おかげで、王妃派と国母派の貴族が争い、ときどき国内政治に影響が出てくる。

 政権争いの余波を一番受けるのは平民たちなのに、彼らはそれを理解していない。

 ウィリアム王子と乳兄弟は、世界中を旅して、各国の政策と平民の暮らしを実際に目にしたからこそ、祖国の政権争いを苦々しく思っていた。


「王立学園で、多くの知己を作っておいで。優秀な花嫁を見つけるのも、忘れずに。

王家の色を持たない君が、この国の王子で居続けるためには、武術だけでは足りない。

人より優れており、政治に貢献できる所を見せないと、能無し達に排除されるよ?」


 王家の色を持たない。

 その一言に、ウィリアム王子は硬直する。


 燃えるような赤毛も、情熱的な赤い瞳も、この国の王族としては異端だった。

 父も、母も、兄も、妹も、全員が美しい金の髪と青い瞳を持っている。

 ウィリアム王子だけなのだ。南方から嫁いできた、父方の遠い祖先の色を、ひょっこり受け継いだのは。


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