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看板娘の外面VS鎧の余所行き猫被り  作者: 丸晴eM
小さい村の道具屋事情
6/13

家族団欒

 それは、突然だった。最近家族からの手紙が来ないなと、そろそろ届くかなと思っていた頃だった。

 いつも通り顔を洗って庭の花に水を蒔き、一人分の湯を火にかけた所だった。


「ただいまー!あぁミア会いたかったわ!一人にしてごめんね、寂しかったでしょ」

「おはよう姉さん元気にしてた?久しぶり~」

「やだ、ちょっと痩せたんじゃないかしら。ちゃんとご飯作って食べてたの」

「お土産いっぱいあるよ」


 いつも通りの静かな朝に、賑やかな声が混ざる。


 帰ってきたら、どれだけ待たせる気だと怒りたかったし、何があったのか問いただしたかったし、一人で大変だったんだと聞いて欲しかったし、よく頑張ったねと褒めて欲しかったし、心配したんだと詰りたかったし…。この4年間、色々と貯めこみに貯めこんできたミアだったが、実際目の前に帰ってこられると、何も言葉が出てこなかった。


「…お、お父さんは…?」


 お帰りなさいともおはようとも言えず、1人姿が見えない父の消息を訪ねる。


「お父さんね、玄関で号泣してるわ。一番帰りたがってたからねぇ、毎日ミアが健やかですようにってお祈りしてたのよ」

「姉さんは本当お父さん似だよね、泣くほど寂しかったの?もう一人前よって、いつも僕に言ってたくせに」

「うぅっ…」


 色々と、言いたいことがあるはずなのに。言うつもりで準備していた第一声が、あったはずなのに。ミアは急な家族の帰還に胸がいっぱいになっていた。


「今から朝ご飯?パンもフルーツも買って来てるから、準備するね」


 8年ぶりだというのに、昨日ぶりぐらいの態度の弟が憎らしい。相変わらず飄々としているが、背が伸びてずいぶん大人っぽくなったなとミアは思う。勝手知ったる我が家で、レオは手際よくテーブルの上を散らかしていく。


「ずっと一人にしてごめんね。お店、ひとりで頑張ってくれてたのね」


 ぎゅうっと抱きしめて離さないのは、母のレニー。ミアも、すがるように抱き返す。


「ミア…ミア!見ない間に綺麗になったなぁ…!」

「お父さん…!」


 感動が少しは収まったのか、父親のシドもそこに加わる。


「とりあえず、ご飯にしようよ。お店の準備もあるんだしさ」


 いつも持て余していた広いテーブルは、今日は丁度いい。


 ようやく"いつも"を取り戻した食卓を、いつも通りの楽し気な笑い声が彩った。

 




「っていうか8年って、入学おめでとうから卒業おめでとうまでなんだけどどういうこと?」


 シドが通った国立学校は、5年制だ。優秀な者はそのまま継続しての在学が認められており、さらに知識に磨きをかける。手紙で最大継続の3年間を追加で通う事になったとは聞いていたが、流石に待たせすぎだった。


「うん、まぁそれが答え何だけどさ。僕が優秀すぎて軟禁されちゃって、事情を知っちゃったお父さんとお母さんも帰してもらえなかったってわけ」

「は…はぁ!?」


 何か事件に巻き込まれているのかと想像したことはあったが、国家の陰謀に巻き込まれていたとは思いもしなかった。ミアは一瞬にして青ざめる。


「どっ…や、…え?何で帰って来れたの」

「ようやくノルマも終わったし、丁度卒業の時期だったからね。秘密を洩らさないって制約魔法かけられてるけど、もう自由だよ」


 さらりと自由と言ってのけるが、制約魔法といえば約束を破ると死ぬ呪いのようなものだ。


「これから…どうするの?」

「それなんだけど、この道具屋を改装して魔道具屋にしようと思ってるんだ。お父さんはいいって言ってくれてるんだけど、姉さんはどう思う」

「あ、普通に生活できるんだ?儲かるなら何でもいいけど、魔道具屋って何よ」


 名前からして、魔法の効果を付属した道具屋の事だろうが今まで聞いたことがない。そもそも魔法を道具に宿らせる術自体が難しく、そう簡単に量産できるものではない。売り物となると効果がいつまで保たれるかも重要になるが、魔法は瞬間的な物なので長時間留めておくのは不可能とされている。


「簡単に言えば、魔法の効果を発揮する道具を売るお店、かな」

「いい仕入れ先でも見つけたの」

「僕が作るんだよ。どうやら魔法適正があったみたいなんだ。厳密に言うと魔法は使えないんだけどね、性質を弄る感じ。魔法としては発動できないんだけど、だからこそできるというか何というか」


 言葉を濁すのは説明が難しいからなのか、制約が絡む事なのか。 


「よく分かんないけどいいんじゃない。あ、ギルドとの契約は切らないよね?」

「魔道具も冒険者向けだし、そこは続けるつもり」

「専業じゃなくなるなら、私も薬とか作ってみようかな」


 先日、違法がバレかけた所だ。合法になるならもしバラされても怖くない。なんて絶妙なタイミングだろう。


「はは、オリジナルの商品だなんて…ミアはお嫁に行かないつもりか?」

「縁があったらそのうちいくんじゃないの」


 娘がまだまだ嫁に行かなさそうで、どこか嬉しそうな父親。他人事で投げやりな態度でミアが返すと、怒ったのは母レニーだった。


「今まで縁がなかったんだから、このままここに居て縁がある訳ないでしょ!」

「嫌な事言わないでよ…」


 この村に、独り身の若い男は居ない。若すぎる子は居るが。出会いと言えばたまに来る冒険者ぐらいだが、一目惚れでもない限り特に話す機会もない。食堂や宿屋は接する時間が長いので、そういう事もあるようだが。


「田舎から都会に出てきてる子、いっぱい居たわよ。一人に馴れてる間に、ミアも都会にいきなさい。それがいいわ」

「あぁー、お世話になってた家に子供がいてな。レニーはそりゃもう可愛がってて…まぁ確かに子供はいいな、うん。でもミアとまた離れるのは、お父さん嫌だなぁ…」

「私だって嫌だわ~…っ」



「冒険者になれば?」


 両親が思い思いにミアの将来について好き勝手言っている中、一番の問題発言をしたのはレオだった。


 

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