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第一話 旅立ち

五話完結の予定です。(でした。恐らく六話完結になります)(なりませんでした。七話で完結します)

よろしければお付き合いください。

 

 この世界には魔物が蔓延っている。

 平然と町や村に襲い掛かってくることさえあるほどには、魔物の数は多く、そして今も増え続けている。


 その為魔物を倒す人材はいくらいても余る事はない。

 酷い場合だと村の半数が魔物と戦う人員になっている場合さえあるくらいだ。

 更に酷い事に、最近は魔物が襲ってくる頻度が増えてきている。

 これは私の村だけでなく、世界中でそうらしい。

 であるならば……私のするべき事は決まっていた。


 私の名前はミラー。

 十五歳の女の子で、趣味は人助け。

 残念ながら、人助けの内容は血なまぐさいものばかりとなってしまった……。


 私はただの村娘――というわけではなかった。

 幸か不幸か、私には才能があった。それも飛びぬけた才能が……。


 初めて魔物と戦ったのは十三歳の時、友達と村の中で遊んでいた時に小鬼のような魔物が村の内側に侵入してきた。

 大人たちは慌て、子供達は泣きわめいた。

 たった一匹の、それも身の丈子供位の魔物ですら、村では脅威だった。

 そんな魔物を、同世代の男の子が使っていた木製の剣を拝借し、私は圧殺した。


 その時からずっと、私は村の防衛に参加し続けた。

 他の誰でもなく、私自身の意思で。


 私の才能は普通ではなかった。

 使った事のない武器でも三日あれば使いこなすのが当たり前。

 二年戦い続けた今でも、魔物の攻撃は当然、訓練で大人の攻撃すら一度たりとも当たっていない。

 女で魔物を倒せる人は私以外いなかった。

 いやそれどころか、男でも十三歳の頃の私より強い人は見た事がなかった。


 当然の事だが、両親は私が戦う事に反対だった。

『女の子らしくなれ』

『裁縫や料理を覚えろ』

 なんて言う親からの意見を全て無視し、私は戦う力を磨き、そして戦い続けた。

 心配させて悪いとわかってはいるのだが、私は人を……心配してくれる両親を他ならぬ私の手で守り続けたかった。


 私は物心ついた時から、ずっと予感があった。

 それは何となく程度の軽い予感だったけど、何故か確信を持っていた。

【私は特別なんだ。私は、人を護る為にいるんだ】

 そんな予感を持っていたからだろうか。

 私が新しい【勇者】に選ばれた事を、私は特別不思議な事だとは思わなった。




【勇者】とは神に選ばれた者の事である。

 簡単に言えば人類代表……みたいなものだ。


 勇者は全ての税金が免除され、あらゆる国の法律が適用されなくなる。

 代わりに勇者の行う全ての責任は、神が負う事に決まっていた。

 と言っても勇者に選ばれる者は基本的に善性の者の為、悪さをする者はほとんどおらず、また勇者としてあるまじき事をしでかせば勇者の資格は剥奪される。

 そんな完全に自由で好き放題出来る勇者には、たった一つだけ行わなければならない使命がある。

 神から授かった唯一の使命――それは魔王を退治することだ。


 人類の生存権は襲い来る魔物に狭められ、人々は苦しい生活を送っていた。

 その魔物の親玉こそが魔王である。

 魔王を倒せば人類は救われ平和になるのだが、そのたった一つの使命である魔王退治を成し遂げた者は未だに一人もいなかった。


 勇者がいない時はあっても、勇者が二人存在した時はこれまで一度もない。

 新しい勇者が生まれるという事は、その時に勇者がいないという事を意味する。


 つまり……先代は役目を果たす前にその人生を終えたという事だ。

 先代勇者ロードゼクス。

 強く、優しく、誇り高い偉大なる勇者。

 彼は孤児を魔物から庇い、数年前に命を落とした。


 神が神託を残す時は二種類に限られた。

 一つは勇者を任命する時。

 もう一つは、任命した勇者が命を失った時だ。

 先代勇者の時は死因も含めて神託にした為、世界中がロードゼクスの死を悲しみそして落ち込んだ。


 落胆する声も少なくはなかった。

 勇者なら大を取り小をすてるべきだったという意見もある。

 でも、私はそうは思えなかった。

 道半ばで潰えたのだとしても、その生き方は間違いなく、勇者としての生き方だからだ。

 亡くなった事は確かに残念だが、そこで子供を見殺しにするよりはよほど良い。

 同じ状況になった時、自分の身を捧げて他人を庇えるなんて自信、私にはない。


 勇者に任命されたが、私は先代ほど立派になれる気がしなかった。




 十五歳のある日、私は旅に出る事となった。

 勇者に選ばれた私が旅に出る目的は、当然魔王退治である。

 父も母も泣いていた。

 もちろん、それは喜んでではない。

 だけど、私には力があったから仕方がなかった。

「お父さんとお母さんが私をまっすぐ育ててくれたから、立派になれたよ」

 私がそう言うと、母は苦笑いを浮かべ、父は溜息を吐いた。

「もう少し、不真面目な生き方を教えておくべきだったかな」

 そう言って無理に微笑む父とそれに頷く母に、私は笑いかける事しか出来なかった。

「絶対無事で帰ってこい。無理なら勇者を止めれば良いんだから」

 そんな父の言葉に私は曖昧に頷き、外の世界に飛び立った。


 両親に対する罪悪感と故郷を離れる寂しさ。

 だけどそれ以上に、私が感じているものは喜びだった。

 誰かの為に戦える。

 私がこの手で平和を作れる。

 私はそれがとても嬉しかった。




 一人旅の最中、私はしょっちゅう魔物に襲われた。

 これは勇者を狙っているわけではなく、単純に魔物が蔓延り見かけた人全てを襲っているだけだ。

 つまり、町や村など居住区以外は全て、魔物の生息地になってしまったという事である。


 緑色でヌメヌメし、舌を伸ばしてくる身長一メートルを越えるカエルのような魔物。

 それを私は、蹴り飛ばして何事もなかったかのように移動を続けた。

 剣を使う必要どころか、生死を確認する必要すら感じない。

 絶命させた手ごたえがあったからだ。

 この程度なら手でも足でも一撃で殺しきれる。

 元から普通ではなかった私は、勇者として完全に覚醒した。

 今人類最強は自分であると、自信を持って言えるくらいには……。


 勇者になる前から、私は普通ではなかった。

 その為村で私を怯えた目で見る人は少なくなかった。

 役に立っているし魔物が脅威だったから私を追い出そうとする者こそいなかった。

 それでも、私を見る目は尊敬されるような目ではなかった。

 彼らから見れば、私も魔物も大差なかったのだろう。


 それがわかっていても、私は皆を護りたかった。

 両親を、村の人を護りたかったのだ――。

「……なんてセンチな事言ってる暇はないわね。さあいざ魔王城へ!」

 私は気合を入れて己を奮い立たせる為にそう言葉にし、道なりに足を進めた。



ありがとうございました。

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