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加護持ちの力


 ユリウスに構わずずんずん歩いて行くリースは、野営をすべく集まっている中心になる場所で立ち止まった。



「この辺りでいいかしら」


「なにをするつもりだ?」



 ユリウスは疑問符を浮かべてリースを見る。

 その目には好奇心が含まれており、もっと違った世界を自分に見せてくれるのではないかという期待が現れていた。

 ならばその要望に応えぬわけにはいくまい。



「陛下には加護持ちの力をお見せしましょう。本来あるべき加護の力は、炎を出すだけなんていう安易なものだけではないのですよ」



 そうユリウスに微笑みかけるリースの目は、まるでユリウスの事情も心情も、なにもかもすべて見透かしているように思える。

 とても十八歳の少女とは思えないその達観した眼差しに、ユリウスは惹き込まれる。


 リースはゆっくりとしゃがみ、両の手のひらで地面に触れた。

 そして、駆け巡る大地の力を感じ取り、力を集中させ頭の中にイメージを浮かべる。

 すると、ゴゴゴゴ……。と、小さな地鳴りのような音が周囲に響き、リースが手を置いたすぐ前の地面がメコッと盛り上がり、そこから小さな芽が生えたのだ。


 目を瞬くユリウスが反応に困っている間も、芽はどんどん生えて大きくなり、あっという間にリース達が見上げるほどの大樹が生まれた。

 これに顎が外れたように口を大きく開くグラニアス側の面々。

 しかし、フィーリアの者達の反応はまったく違う。



「おー、今回は大きいなぁ」


「今日は人数も多いしこれぐらい必要だろうさ」


「にしても、グラニアスの兵士らの顔見てみろよ」



 ぷぷっと吹き出して笑う者を隣にいた者がたしなめる。



「笑ってやるなよ。加護持ちの本当の力を見た奴らはたいがいあほ面になるんだから」


「そう考えると本当にうちの国って異常だよな~」


「王太子殿下が普通じゃない時点で常識から離れてんだろ」


「性癖歪んでんもんなぁ、あの方。他の王族方も個性激強だし」


「けど優秀だから問題ないだろ。こっちに矛先が向けられなきゃだけど」


「唯一の救いはアイシャ様だな。異論は認めん」



 ケラケラと笑い合うそんな声が聞こえてきたリースは、あの変態な兄と一括りにしないでほしいと怒鳴り込みに行きたかったが、今のリースはあくまでロゼットという侍女なのでそういうわけにもいかない。

 うっかり力の操作を間違えそうになりながらも、さらに大きくなっていく大樹に力を注ぐ。

 太い幹ができあがると、今度は野営地を守るようにして枝と葉が広がっていき、空を覆いつくす。

 まるで強固な屋根のようにそびえる大樹を、リースは満足そうに口角を緩めた。



「はい、完成です。これで多少の嵐が来たぐらいでは天幕が飛んでいくなんてことはないでしょう。では、私は姫様の様子を見てまいりますので後はよろしくお願いいたします」



 今自分がしたことをなんてこともなんてことないように平然とした様子のリースは、さっさと天幕に戻ろうとしたが、掴まれた腕によってそれも叶わなかった。

 腕を掴んだのはユリウスだが、物言いたげな顔をしているのはユリウスだけでなくアルウィンも同じだ。



「待て! これを放置してどこへ行くつもりだ!」


「姫様のところです。侍女ですから」



 何故か胸を張って得意げに告げるリースに、ユリウスの顔は面白いほど動揺しているのが分かる。



「説明をしてからにしろ!」


「ですから、嵐が来るので雨風をしのげるようにしただけですが?」


「そんな、ちょっと犬小屋を建てただけですみたいで済ますな!」


「ツッコミがお上手ですねぇ」



 リースはほわほわと緊張感の欠片もなく笑いながらパチパチと手を叩いた。

 決して馬鹿にしたわけではない。聞いていた皇帝とあまりにも違っていたからだ。

 冷酷無慈悲な無敗の皇帝はどこへ落としてきてしまったのか、ユリウスは分かりやすいほど感情が現れている。



「失礼ですが、皇帝陛下は双子だったりしますか?」


「そんなわけないだろ」


「そうですよねぇ」



 もしそうだとしたらロイドから報告が必ずあるはずだ。

 それがないということは、影武者すらいないのは確かだろう。

 けれど、やはりロイドから報告のあったユリウスと大きく違っている。

 リースがじーっとユリウスの顔を見つめていると、ユリウスの頬がわずかに赤らんだ。



「な、なんだ?」


「いえ、ロイドから聞いていたあなたと、今のあなたの印象とではかなりの差異があったものですから」



 ぴくりと反応するユリウスは、わずかに不快そうに顔を歪めた。



「なにを聞いた?」


「あら、そんな。こんな多くの人の耳がある場所ではとても……」



 リースは意味深に目を伏せて頬に手を当てた。



「ほんとになにを聞いたんだ!」


「そりゃあ、ロイドは陛下に信用され格別の寵愛をいただいていたのですから、それはもう陛下の深い内情まで……」



 これ以上はちょっと……。と、恥じらいを見せるリースに、焦るのはユリウスだ。



「ちょっと待て! 言い方が悪くないか? いや、誤解を生むような言葉をわざと選んでいないか!?」


「気のせいですよ。気、の、せ、い」



 一転してニコニコと笑うリースに、ユリウスは面白いほど表情が変わる。

 傍から見ていたアルウィンは顏を引きつらせていた。



「陛下が遊ばれてる……」


「まあ、ロゼット相手では仕方ありません。あの方に勝てるのはお妃様方くらいですから」



 そういうロイド自身も多少驚きを隠せていない。

 いつもならば完璧なほど感情を外に出さないというのに、それほど今のユリウスの反応が貴重だと告げているようなものだった。



「お妃様? 姫の侍女なのに他のお妃方と交流があるのかい?」


「加護持ちの中でも力の強い者は、小さな頃から城で預かり育てられるのです。加護持ちの力を抑えられるのは同等の以上の力を持った加護持ちだけですから」


「ふーん」



 ロイドの説明に納得した様子のアルウィン。

 決して嘘は言っていないので問題はない。


 ただ、現在、城で預かるほど強い力を持った加護持ちはリースとライアンぐらいということを省いただけ。

 まあ、リースとライアン以外に例外はあるのだが、それもフィーリアの内情を知らないアルウィンには分からないことだ。

 そしてそれをロイドがリースの許可なしに話すことはない。






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