1章 プロローグ
数多くある国が存在する中央大陸。
その中央大陸で大きな存在を示している大国が、グラニアス帝国とラヴィニール王国。
この大国二国は、一昔前には大陸の覇権を争い長い間戦が絶えなかったが、今の時代は冷戦を保っている。
国力をほぼ同じとする二大国。争いを続けても決着が付くことはなく、このまま争いを続けても国を疲弊させるだけであると、賢君と名高い年老いたラヴィニールの国王が若い頃、当時のグラニアス皇帝との間で停戦が持ちかけられた。
それから数十年。
グラニアスの皇帝は代がいくつか移り変わり、現在グラニアスを治めているのはまだ二十六歳の若き皇帝。ユリウス・フォン・グラニアス。
かの王は無敗の皇帝と呼ばれ、その性格は冷酷非情。
ユリウス帝が即位の時、継承などいくつかの問題でグラニアス国内は荒れていた。
そこをついてグラニアスに侵攻する他国が数多くいたのだが、それらを全て制圧、己に逆らう国内の王侯貴族を無慈悲に粛正し、あっという間に平定してしまったという逸話がある。
常に戦の先頭に立ち、そのカリスマ性で兵達をまとめあげ敵を屠り続けるその姿は戦神と恐れられた。
即位から数年がたつと、そんな皇帝に刃向かおうとするものは滅多に現れない。
それは戦上手というだけでなく、ユリウス帝には人ならざる不思議な力を持っていたからだった。
真っ向から刃向かう者はいなかったが、暗殺の類いは日常茶飯事に行われていた。
そんな中で生き延びていられるのもその人ならざる力によるものが大きい。
そしてある時、暗殺騒ぎが起こった。
いつもより綿密に計算されたその暗殺は、もう少しでユリウス帝に深手を負わせるところだったのを、最近王が護衛に迎え入れた新参の近衛兵の活躍により事なきを得た。
捕らえた暗殺者はすぐに厳しい尋問がなされた。
それにより彼らはフィーリア王の命令でユリウス帝の命を狙ったのだと吐いたのだ。
フィーリアはグラニアスより東にある小さな国。
森に囲まれた国で、他国との国交はほとんどなく、鎖国のような状態でその内情は外にはほとんど知られていなかった。
グラニアスとも国交は全くと言っていいほどなく、何故フィーリアの王がユリウス帝の命を狙ったのか分からなかった。
だが、フィーリア王が暗殺者を差し向けてきたのは明白で、ユリウス帝は直ちに報復することを決め、ユリウス帝自ら兵を率いてフィーリアへと進軍を開始した。
グラニアスからフィーリアへ向かうには途中サンストン国、ヘルツ国という二つの国を通っていく必要がある。
その二国に書状を送り通行の許可を求めた。
その二国は数少ないフィーリアと国交がある国であったが、大国グラニアス帝国に逆らうこともできず通行を許可した。
数少ない友好国に裏切られたフィーリアは孤立無援の状態に。
誰からも邪魔をされることなくグラニアスはその足をフィーリアへと進めた。
さしたる軍事力も持たない小国。
グラニアスという大国を前にフィーリアはなすすべなく蹂躙される。
そう誰もが思っていた。