一話 こんな出会いなら悪くない!?
コンビニのバイト、というのは意外にも過酷である。
真夏、時計の針は既に12時を回っていた。
真夏、とは言ったものの実際にはかなり寒い。
この寒さが何よりも過酷な状況を生み出している。原因はというと今現在俺と言い争っているこの人物なのだが……。
「なんでー先輩の言うことは絶対なんだよ?」
「絶っっ対嫌っす。これで暑いって暑さで頭どうにかなってんすよ」
「いやー暑いよすっごい暑い。汗かきそうだもん。ねえいいでしょ?エアコンさげていいでしょ?ねえお願い!」
「…………そう言ってもう20度っすよ」
長嶺先輩はチラリとこちらに目をやると…。
「待て待て待て!いや、待ってください!おいいいいいいい何やってんだ!」
「だって暑いじゃん!」
エアコンのリモコンを持った長嶺先輩を止めようとするが先輩も必死に抵抗している。
というかこれ以上は寒さといい、もう一つ、限界な点がある。
コンビニの温度は19度以下にしてはいけない、みたいな暗黙ですらない(多分)決まりがあるのだ。
あと常識的に考えてお客さんが入ってきても出ていかれてしまう。
「大体先輩の言うこと聞けとか言うなら翁長先輩はどうなんすか!?」
俺はパンを陳列している翁長先輩に意見を求めた。
寒いからエアコンの温度をあげて欲しいという意見を。
ん…?という表情のあと、あたり前のように口を開き…。
「さむ「あああああああ!!」
俺の望みをもみ消しながら長嶺先輩が走り出した。
邪魔する気かこの野郎!やめろ!
だが大丈夫。このお馬鹿さんに人を釣るなんて高度な技術を行使するための脳みそが備わっているようには到底思えない。
「やっぱさ…んぐ!?」
「待って待ってちょっと待って!」
やはり失敗したようだがまだ粘る。なにで釣ろうとしたんだろうか。ハーゲンダッツとかなんかって言って寒いから却下されているとしか思えないが…。
そんなことより無理矢理口押さえられて翁長先輩かわいそう。
白目剥きかけてるし。
「ブハッ!ケホッケッ」
「あぁ!ごめん真利奈ちゃん!」
「だ…ウッ…大丈夫」
やがて2人は目を合わせて頷き、長嶺先輩はニコニコしながらレジに戻り、翁長先輩はパンコーナーからお菓子コーナーに移動した。
「真利奈ちゃーん?暑いよねー?」
「めっちゃ暑い」
仕組んでいたかのような即答。実際仕組んでるけど。
ていうか………。
買収されてんじゃねえ。
「てゆーことでリモコン……ん?」
長嶺先輩はバックヤードに探しにいったようだ。が……残念だったな。休憩スペースのチラシの下だ。
甘い。甘過ぎる。うちの親の味噌汁くらい甘い。
リモコン探しの長嶺先輩がいないうちに…。
「はぁ……。歯がカチカチ言ってるんですけど」
「んな訳ない。だって本当に暑いから」
俺はとりあえず翁長先輩に近づいて腕を確認する。
「うっわ!なにこれ!?自分で確認しにきてあれっすけどめちゃくちゃ鳥肌立ってんじゃないすか!気持ち悪!?」
腕に信じられないくらい鳥肌が立っていた。ほんと怖い。何が怖いってこの状態で澄ました顔してんのが1番怖い。
「この歳で水疱瘡にかかるとは…」
苦しい!言い訳が苦しすぎる。
「……で、何に買収されたんすか?」
「…肉まん」
「ピザまんも奢りますよ」
「一生ついていきます」
プライドはリモコンと同様どこかに隠れているらいしい。
てか夏に買うものじゃないだろ。肉まんて。
「ならこれから正直にお願いしますね」
「もちのろんです三ノ宮さん」
買収仕返したり。
やはり甘い。まだ針にかかっただけでしたよ長嶺先輩。
最後に釣り上げるのは俺だ。
「リモコン知らない?」
俺はゆっくり休憩スペースに近づき、チラシをひょいと持ち上げると…。
「ああーー!!」
長嶺先輩がやっと気付いた。
だがもう遅いとばかりに俺はフッと笑い、翁長先輩に問う。
「翁長先輩寒くないですか?」
「寒いですエアコンの温度をあげてください」
勝った。怜くん大勝利。第1話完!
「わかりました」
そう言って俺がリモコンのボタンに手をかけた瞬間、長嶺先輩が飛びかかってきた。
野蛮である。
と、翁長先輩が…。
「あ、お客さん」
「「いらっしゃいませー」」
「まだ入ってない」
ゆっくりと自動ドアが開いて数10分ぶりにお客さんが入ってきた。
「「「いらっしゃいませー」」」
言い終わると翁長先輩がそそくさと奥に逃げていった。
ってか寒すぎてお客様が………!
土下座してらした。
わ、訳がわからん。
完全に頭が追いついていかない。
だってまだ入って3秒くらいだぞ?は?何?この中の誰かがやらかした?絶対長嶺先輩だ!いや、実は影で翁長先輩が何かやっていたと言っていたらそこまで驚かないかもしれない!
少し間が空いてその少女は深く息を吸い始める。
「ここで働かせてください!」
あ、ああソユコト…。
いやいやおかしい!なんで土下座とか色々と!
その前にやることがあった。
「翁長先輩ー!対応よろしくお願いしまーす!」
すると奥の雑誌コーナーから恨めしそうに俺を睨みながら先輩は歩いてきた。
「はい、代わりました翁長っす。バイトということで間違いないでしょうか…」
そんな押し付けられてもきちんと対応を取る翁長先輩を背に…。
俺は長嶺先輩に連れられ、話し合いを始めた。
何についてかと言うと、お客様兼ラジオネーム働かせてくださいさんについてだ。
「男の子かな?女の子かな?」
「普通に可愛い顔してましたけど」
そう、恐らくバイトになるであろう人物についてだ。
中性的な整った顔立ちの少女、または少年だった。普通に女の子だと思うけど。服装はどっちかと言うと……。赤っぽいボーダーのTシャツにジーパンだった。声は女性らしい、可愛いらしい声ではあったが、超ギリギリで男性、というか男の子ともとれそうな声であった。…かなり幼めの。
「微妙な感じだよねー」
「女子っぽい感じでしたけど」
「そーだね」
年齢はというと俺が19で少し下くらいだから17くらいだろうか。高校生だと思う。
翁長先輩が嫌そうにしつつも対応しているのが控え室のドアの隙間から伺える。
というか何を悩んでいるんだこの先輩は。見るからに女の子って感じだったろ。
恐らくそこまで態度が悪くなさそうならある程度採用だろう。
ここのコンビニはそこそこ広い。だいぶ奥行きがある感じで、1つの時間帯につき3〜4人が担当している。朝から昼過ぎ、昼過ぎから夜、夜中から朝、の3つで俺の担当は夜中から朝。俺の時間帯だけ3人でそれ以外は4人が担当している。
このことから恐らくこの時間帯の唯一の正社員である翁長先輩が店長に連絡し、先輩の判断で採用するかしないか、みたいな感じだろう。緩い店長。ゆるてん。
「じゃあとりあえず女の子ってことで!」
「それでいいと思います」
うん。そうだよ。可愛かったもん。
そうこうしている間に翁長先輩が戻ってきた。電話を取りに来たのだろう。
「対応任せた」
「…………」
「…………」
俺たちは顔を見合わせる。
視線での押し付け合いが始まり、沈黙が訪れる。
が。
「長嶺任せた」
「なんでー!?」
多分買収したからですよ。言わないけど。
「大丈夫っすよ。俺もレジ行くんで」
「うん………」
しょんもりしているめんどくさい長嶺先輩についていくようにして俺はレジに立った。
というか普通に女の子ですね、はい。
「あ、あのっ」
「ひゃい!?」
俯いていたからか妙に驚く先輩。
「なんか寒くないですか?」
「いや、むしろ暑いくらいだよ」
「申し訳ございませんすぐに温度を上げます」
馬鹿言ってる先輩を無視し、先程驚いて置きっ放しにしていたリモコンを手に取る。
「あ、ありがとうございます」
26度に調節すると、ものすごい睨まれているように感じる。何故だかわからないが。
「すみません。なんかさっきの人が何も言わずにいなくなってしまったんですけど、どうすればいいんでしょうか?」
「………………」
「三ノ宮くん?」
「俺っすか?」
2人は頷く。
この流れで俺?まあ対応するけど。
「申し訳ございません無口な人なんです。恐らく店長に連絡を取っているのかと思われます」
「あ、ありがとうございます。というか客でもないんでタメ口でいいですよ」
「…………」
こういう場合はなんと言えばいいのだろうか。
「今なんて言えばいいか悩んでるでしょ」
「余計なお世話だ」
少々気まずそうにモジモジしている新入り(仮)と「なんで…なんで急にタメ口…?」とまたしょんもりし始めた面倒くさい長嶺先輩。
なんでこんな時に限って勘が鋭いんだこの先輩は。結構ビビった。
「普通にして大丈夫ですよ?」
「わかった」
レジを挟んでの会話とかいう謎の状況。何を聞けば……面接をしよう(唐突)
「お名前は?」
「?……八嶋葵と言います。八に山に鳥の嶋に花の葵です」
「ありがとうございます」
「タメ口でいいんですけど…」
「面接なので」
「え……?は、はい」
キリッと表情を作り直し、少し緊張したような雰囲気を醸し出す。
「では、働く時間帯はどこがいいですか?」
「1番儲かる…ってそれ受かってからのやつじゃないですか?」
「いや、多分さっきのムスッとした感じの人が戻ってきて今聞いたみたいなこと聞きまくると思いますから大丈夫です」
「え?じゃあ合格ということで?」
「多分大丈夫です」
八嶋さんはパァッと表情を輝かせた後、俯いて小さくガッツポーズした。
………可愛い。
「………では時間帯は?」
「1番時給が高いのはどの時間帯ですか?」
さっきは聞き間違えたかと思ったけどがめつい!
「まあ今の時間ですかね」
「じゃあこの時間帯でいいですか?」
「多分ですけど」
この了承も、何故か彼女は嬉しそうにしたのだった。
「大体まあこんな感じかな」
「ありがとうございます。大体わかりました」
「おう」
俺はあれからバイトの大雑把な内容と先輩達の性格。具体的には何を気にしていて、何が好きか、などだ。
だいぶ打ち解けてきて俺はタメに、八嶋は敬語なのは変わらないが、語調が柔らかく変化してきた。俺は高卒だが、高校の時も友達もまともに話すことのある後輩もいなかった。だからか後輩ができた気分、なのだろうか?
そんな気分になったことがないからわからないが。
多分こんな気持ちなんじゃないだろうか。決して悪い気はしない。
八嶋はなんというか聞き上手だった。だが八嶋も友達がたくさんいる、学校のカースト高いやつらみたいな雰囲気ではなく、どちらかというと友達がいない、というか物静かな感じだった。
「というか先輩達はどうしたんだろ?」
「まあもう20分くらい経ちますしね…」
「…見てくる」
俺はバックヤードに戻ると机の惨状に目を見開いた。
「なんで寝てんの?」
2人は小さめの机に突っ伏して寝ていた。
起こそうと机に手をかけた。しかし、俺は固まってしまった。
この人たち…案外黙ってると美人なんだよな…。
長嶺先輩は俺(172cm)より少し小さいくらいの長身でスタイルがいいし顔も整っている。茶髪のポニーテールはあどけなさも感じさせる、それでいて少し長い前髪が落ち着いた雰囲気の女性だ。
一方翁長先輩は身長は低め、大体160cmないくらいだ。それに似つかわしくない大人びた顔と下ろした黒い髪がクールな印象を与える。
翁長先輩は無口なだけでクールではないが、大体第一印象から大きくは外れてはいない。
しかし長嶺先輩はだいぶうるさくて馬鹿っぽい。まあ幼い、という点では顔も性格も大差ないが、大人しそうなのにかなりうるさいということだけでも印象から外れる、というか期待はずれ的な感じである。
2人を見ながらそんなことを考えたのちに俺は0.3のボールペンを2本、手に取ると2人の腕に先を当て……。
「痛いいいいいい!?」
「!?ッッ!?」
2人を起こした。
先程は翁長先輩が寝ていた席に座らせられ、俺は2人に囲まれていた。
「なんで刺したの!?」
長嶺先輩が顔を近づけて問い詰めるなか、同じく近くで翁長先輩がジーーっと俺を見つめる。
「いや、寝てるのが悪いと思いますよ俺は」
理不尽な仕打ちに耐えかね俺が言うと、まだ言い足りなさそうな2人は八嶋に視線を移し、ため息をついた。
諦めたのだろうか。
「まず翁長先輩は店長になんて言われたんすか?」
「いい子で、お前らの時間帯のバイトなら私に任せると」
「俺が話してる感じいい子っぽそうでしたよ」
「イェーイ!」
無邪気に喜ぶ長嶺先輩。まだ俺を睨んでいる翁長先輩。レジでは八嶋がこちらの様子を伺っている。
俺達は八嶋にバイトの件を伝えようとレジに戻った。
「では、今日からよろしくお願いします」
ぺこりと翁長先輩が一礼する。
すると八嶋は表情を和らげ…
「よろしくお願いします!」
女の子らしく笑うのだった。
この度は「こんな勘違いなら悪くない!?」を読んでいただき、誠にありがとうございます。
特に何も考えずに書いた一作目ですが、どうでしたでしょうか?私自身としては足りない部分が少々多すぎるように感じます。なので感想、意見をお手数ですが述べでいただけると誠に嬉しい所存でございます。
さて、後書きくらい真面目に書こうと思い10分悩んだ結果が前記です。本音を言うと、ココアシガレットの美味しさを伝えていきたいと考えていました。
でも本当です。大体考えていたことは書きました。ただ脳がなかっただけです。特に感想、意見なんたら見たいなとこに注目してほしいと思っています。
で、ですね。ココアシガレットって知ってますか?すごい美味しいチョコとハッカのお菓子です。シガレットの名の通りタバコ型に作られています。なかなか溶けない感じで、多分咥えられるようになってるんだと思います。6本入って30円ちょっと!めちゃくちゃうまいんで食ってください。
話を戻すと、この小説についてなんですがただなんの勉強もせずに書きました。なんか書いて見たかったんですよ。だから意見(ry
最期にココアシガレットって好み分かれます。