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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第五章 汚染されゆく星
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マリン・セメタリー(2)

 ベルジェネ=バイオンの艦橋は、目の前に現れた白いALに驚く暇すら与えられず吹き飛ばされた。軍艦の中でも比較的脆い場所である艦橋に、至近距離で五十八mmもの巨大弾丸を高速で十発も撃ち込まれたのだからあっという間に薄い鉄板は切り裂かれ内部には鉄の嵐が吹き荒れ艦橋にいた艦長以下全員は原形もとどめず蹂躙された。ヴィエイナはそのまま近距離で放たれた対空機銃を紙一重のところで躱しつつすれ違いざまに機首に備えている機銃で機銃を潰してしまう。この間実に二秒とない。

 そのまま艦腹にマシンガンで穴をいくつも開けられたベルジェネ=バイオンは右舷へと傾いていく。艦橋からのダメージコントロール班の出動の命令は当然無い。それでもこの艦のダメコン班は自らの判断で浸水箇所に赴き日ごろの訓練と実戦での経験を生かして必死に艦が沈むのを食い止めようとする。だが、彼らの尽力もあまり意味を為すことはないだろう。精々生き延びる時間が少しだけ長くなったに過ぎない。

 ヴィエイナは沈めきるような時間のかかることはせず、代わりに去り際に残りのマガジン分全部の弾薬を艦後方の構造物にありったけ撃ち込んでいくと、後部主砲が爆発を起こすのも振り返らずに既に次の獲物目指して急加速をかけていた。

(やっぱり船じゃ……)

 一隻の船を単独でほぼ沈めたという戦果とは裏腹に、彼女の心は曇っていた。やはり、ALを相手どらなければ高揚感というものが、そして達成感が得られないものである。せめて空母か戦艦ならまだしも駆逐艦では……

 あのALと、そしてこのグライフの頭を一発で撃ち抜いたあの隊長機のことをつい思い浮かべてしまう。あの二機ともう一度やりあえるなら、この心は満たされるのだろうか。因縁のヘビーデセルは一度打ち負かしたが、それでもまだ恐らく中のパイロットは生きているであろうことは、完全にあのALを破壊したわけではないため、それは自分が一番よくわかっている。だとすると、またあのパイロットとは戦う可能性もあるはずだ。出来ることならそうしたいが、今戦いはこの星上の六割近い場所で繰り広げられており、三度出会うなどという奇跡は、そうそう期待はできまい。

 それに、もし出来るのなら一度パイロットの顔を見ておきたいというのが彼女に生まれた新たなリンドへの感情であった。今までそんなことを思ったこと等一度もない。少しばかり名声のあったパイロットたちも戦ってみれば皆取るに足らない、簡単に倒せてしまった相手であった。それに対して彼はどうだろうか、この間少し国内では有名になりはしたものの、結局は一名もなきALパイロットの兵士に過ぎず、部隊の一番下っ端としてあくせく戦闘に参加し命令を聞いて動いているだけの駒に過ぎない。だが、そんな、その程度でしかないはずの彼が二度もこの星のALパイロットでも三本の指に入る超エースパイロットと戦い生き延びているのである。しかも、初戦においてグライフを酷く損壊させているのだ。こんな兵士に彼女が心を奪われないはずがない。

 必ずもう一度戦い、そして今度こそ殺して見せる。この手で。

 モニタには、旗艦の後方に控える巡洋艦に巧みに機銃を躱しつつ二機で猛攻を浴びせるザーレ機とチェサレザ機が映っており、両側から浴びせられる攻撃に巡洋艦ビエナバは炎に包まれ始めていた。その近くにいるこの艦を援護しなければならないはずの駆逐艦ロビドバレッペは、チェサレザの放ったトーピードガンの直撃を受け完全に横転してしまっており、地球で言う軽油が海面に流出し汚染していた。その中には油に塗れた人間の頭が百以上も波間に漂っている。彼らは生きてまた陸地を踏むことが出来るのだろうか、この艦隊が全滅しても。そんなこと、ヴィエイナが気にする必要などなかった。故に、彼女は彼らの身を案じることなど毛頭考えることなど……

 次いで彼女は機体を右翼に展開する艦へと向け、近くの駆逐艦テイルテイリテイラへと海面ギリギリを攻める。それに対してテイルテイリテイラも目の前で僚艦が彼女によって沈められているのを目にしているので対応の準備は整っており、速度を最大限に上げたまま急速に右舷へと舵をとることで艦体の左側を大きく晒すことにはなったがその分投射できる火力を最大限に増やしており、主砲全門と左舷側及び中央付近に配置してある機銃が一斉に銃口をグライフへと向けた。

「ん!」

 それに直前に気づいていた彼女は、すぐさま機体をロールさせると主翼が上がる波を切り白いしぶきが高く舞い上がる。そして急激な加速をかけると直後に機体のあった空間におびただしい量の砲弾が降り注ぎ海面を叩いた。

 海面ギリギリで回転し尚且つ加速をかけるという極めて危険な操縦をやってのけた彼女だが、これもチューフの支援あってのことであった。どんなに優れた飛行可能ALのパイロットであっても、飛行型ALをAIの助けなしに飛ばすことは絶対に不可能である。飛行機よりも複雑でバランスの悪い飛行型ALはエンジン推力で無理やり飛ばしているにすぎず、揚力はあまり期待できないため、絶えず緻密な制御と操縦が必要とされる。AL操縦には少しばかり才能が必要だが、水中用ALと飛行型ALは更に特殊な適性が必要となってくるのだ。

 こんな無茶な機動をやってのけても尚しっかりと不調なくエンジンは全て好調に回転し続けており、試作型ながらも名エンジンであることが彼女にもうかがえた。次期飛行型AL用のエンジンはこいつで決まりかもしれない。

〈ヴィエイナ様、ご注意を〉

 と、チューフがアラートの電子音と共に警告を発し、曲面状のモニターには駆逐艦の左舷側にロケットランチャーを構えた兵士が三人、丸くロックされていた。

「わかった!」

 彼女は一旦攻撃はせずに背を向けたまま艦尾の方へと回り込むと、そのまま右舷へとターンし海面を蹴るかのように右足が波を踏みつけた。そしてまた急加速をかけると右舷側から攻撃を仕掛ける。流石のオートの対空砲はすぐにグライフをロックしていたが、グライフの一歩後方の海面を叩くばかりであと少しのところが届かない。

「所詮クラウナウピアも!」

 彼女は結局船は船に過ぎなかったという失望を露わに、右の操縦桿のスイッチを跳ね上げトリガーを引く。主翼の右翼から取り付けられているロケットポッドが作動し、この距離で発射された小型ロケット弾は右舷中腹付近の機関銃座を薙ぎ払って脅威を排除する。そしてこのまま艦首へと周り正面から艦橋にライフルを撃ち込もうと機を起こした時であった。一瞬だが、機体が左に傾いたと思うと、図らずも機体は上昇し、敵の火線のど真ん中へと出てしまった。

(しまっ!!)

 アクシデントだった。まさかこんなことが起きるとは、いやそれは試験機に乗る以上覚悟の上であった。以前コリューションにて搭載したエンジンが突如制御を失った時は記憶に新しく、それ以前にもそのようにアクシデントは経験していた。だが、よりによってこういう時にピンポイントで飛行系に故障が起きるとは。

 彼女の経験が既に察知していた、これは避けられないと。どれだけ歴戦の勇士であろうとどうにもできないことはあるし、寧ろその積まれた経験がそう教えてくれるのだ。四門もの機銃が照準の中心に姿勢を崩したグライフを捉えた。弾丸の雨が空に向かって降り注ごうとした瞬間、次々と機銃が別方向より飛んできた銃弾によって潰され沈黙する。その隙をついて、ヴィエイナはグライフを持ち直すと艦橋を吹き飛ばして一気に海面ギリギリを離脱した。

「ありがとう、ジェリク」

 彼女は自分の命を救ってくれた者にそう礼を述べる。ヴィエイナから二百m後方、そこには燃えさかり傾いている駆逐艦の艦尾に上手いこと立っている一機のシュリーフェンが両手にヘビーライフルを構えている姿があった。

〈いいってことですよ。我々チームですし、それに俺たちは中尉殿の護衛という任務で配属されたんですから〉

 そうぶっきらぼうに答えると、ジェリクは甲板を蹴って上昇した。その時の揺れでまだ艦尾にしがみついていた乗員が数名海面へと振り落とされていく。

「……ありがとう」

 彼女は目を瞑ってそう小さくもう一度述べた。

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