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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第五章 汚染されゆく星
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マリン・セメタリー

〈先遣した爆撃機隊は随分やられたようですね〉

 ザーレ准尉は、先遣部隊の生き残りのもたらしたデータを読み取り、敵が対空多弾頭ロケットを使用しそれにより第一波の爆撃機隊が壊滅したことを知った。

〈この相対距離で使われたんじゃあまず避けらんねえよ、可哀そうにな〉 

 ジェリク軍曹は手元で二回小さく丸を指で描くと「リガ・ヴァローン」と三度唱えた。それを聞いていたザーレは、彼にこう問いかける。

〈あら、もしかして軍曹貴方ゼルッケバニアの信徒で?〉

〈え?ああ聞かれてたか……まあな〉

 彼は少し罰の悪そうに返事を返すとため息をつく。

〈珍しいですね、ゼルッケバニア教の信徒なんてもう随分昔に数を減らしたと本で読みましたが……こんななに身近に〉

 ゼルッケバニア教、それは千二百年以上前にオースノーツより創始され周辺諸国にも海や陸を通じて広まった宗教の一つである。詳しく説明すると非常に長い講釈となってしまうためかいつまむと、元は土着信仰であったゼルッケバニア教は、始祖アリオリ・ゼルッケバニアによって開かれた後主に三つの宗派に分かれ時に血なまぐさい宗教戦争も起こしつつやがてその度重なる内紛と後進の新宗教パーラト・クォラータに押され、次第に歴史から姿を消していった古い宗教なのである。現在ではオースノーツでも国民の僅か0.5パーセントほどしか信徒がいないというデータもあるほど、縮小してしまった宗教であった。

 そんな稀少宗教を信じるものがこんなところにいたとは、非常に貴重な存在で勉強熱心なザーレは彼に対し学ぶ対象として見る目が変わっていた。

「見えた、戦闘用意。私語は慎みなさい」

 ヴィエイナによりたしなめられると、彼らは気を引き締め直して戦闘に臨む。

〈軍曹、後でゼルッケバニアについて教えてくださいね〉

〈はあ?〉

 何を言い出すのかと呆れつつも、ジェリクはスロットルを上げて編隊の先頭へと進み出る。

「二十秒後にMASR発射」

〈りょーかい〉

 脚部をすっぽりと覆うように大きな装置を装備しているジェリク機は先頭に位置すると、手早くスイッチを操作して装置のハッチを開いた。ハッチは外側にスライドすると中から数十発のロケット弾頭が姿を現す。

 これが彼の機に搭載されているMASRで、まず手始めに傷ついた艦隊にこれらすべてが撃ち込まれる算段となっているのだ。

〈発射まで、五、四、三〉

 ジェリク機に搭載されている汎用型AIレビテーウンが発射までのカウントダウンを読み上げる。レビテーウンは94年以降に製造されたオースノーツ製ALのほぼすべてに搭載されている制式AIで、チューフのような独自性はもたないがセキュリティも万全の安定した名軍用AIである。そのレビテーウンにより精確無比、0コンマ001秒もずれのない制御によってMASRは発射された。

 無反動システム搭載とはいえ、流石に大量のロケット弾頭の発射は著しくシュリーフェンの飛行を不安定にし、主に下半身の速度を低下させ先頭を飛んでいたジェリク機は一気に編隊後方へと引き戻されてしまった。

「機体状況は」

 急激な減速によって機体のあちこちに異常が出ていないか、これは隊長機として部下の機体の状態を確認しておきたいということと、この試作兵装を使用した結果その状況下においてどの部位にどのようなダメージが及んだのかを確認、パイロット自身に記録させておくためであった。

 ジェリクは彼女に言われずとも既に機体各所へ及んだダメージの確認に入っており、それらを記録した後すぐに後方に控える母艦に乗っている技術試験科へと送信する。

〈やっぱり膝とエンジンに負担があるねえ……〉

 などと彼が呟いている隙に、ロケットは艦隊へと到達していた。艦隊のほうでもすぐにロケットの発射は認知しており、すぐに対空砲がロケット軍に向かって斉射を始めていたが、弾頭自体が多かったこと、そして誘爆により他の弾頭を薙ぎ払ってしまおうという考えだったが、被弾したにもかかわらず弾頭はちっとも爆発を起こさずに砕けて海に落ちていったために、想定よりも到達前に撃墜することが出来なかった。

 次々とロケットは艦隊左翼から前方にかけて展開していた艦を襲う。あっという間に駆逐艦ダビオラントが構造物を焼き払われ火だるまとなりながら艦首を水面下に没し始め、火に包まれた乗員が燃えながら海面へと落ちていくのが見られた。その前を進む駆逐艦ラビトーゼイテネンは艦尾に被弾、後部機銃群と爆雷投射機が吹き飛ばされてしまった。

 また中心で先頭を行くホイシュ級巡洋艦ピューテッタントは艦首に五発が命中、艦首付近含む第一主砲乗員を全員爆・焼死させてなお甲板を焼きあわや主砲の弾薬庫に誘爆かと思われたのだが、すんでのところで注水が間に合ったため誘爆からの轟沈は免れた。だが、被害は甚大で速力を大きく落としたピューテッタントは艦隊後方へと下がらざるを得なかった。自慢の速力も形無しである。

 そんな傷ついた敵艦隊を見下ろしながら、ヴィエイナは止めを刺すべく攻撃開始を指示した。

「まずは先頭の艦を。私が一番前のをやる、各機各々の判断で攻撃せよ」

〈了解〉

 直後、四機の飛行型ALたちは急激な加速をかけ、弱った得物に群がる肉食動物の如く疲弊した艦隊に飛び掛かって行った。セオリー通りに、彼らは超低空から艦隊へと迫る。こういう時、必ずだれか一人くらいは型破りな接近を行う者がいるとは思うかもしれないが、例えばこの状況で高度を取って攻撃を仕掛けたとしよう。雲量が多く、また雲が低い混戦の状況下でならその戦法は通じるだろう。だが現在混戦状態にはなく雲ははるか向こうに雲海は見えるというところで、航空部隊はこの四機のみ。そんな状況下で単機上昇などしようものなら、約十隻からの怒涛の対空砲の集中砲火を一身に浴びて墜落するのが関の山である。えりすぐりのパイロットである彼らが、そんなアニメのような手を使うはずがないのだ。時にそれ以上の芸当をやってのけることもあるのだが。

 まず始めに仕掛けたのはトーピードガンを持つチェサレザであった。彼はシュリーフェンの両腕に抱えた大きなトーピードガン本体を水面と平行に、発射口を艦隊へと向けて引き金を引いた。すると二つの並列した穴から、四m程の魚雷が飛び出し水中へと飛び込んで敵艦体へと向かった邁進していった。魚雷は猛烈な速度で進んでいくが、流石に空を行くALには速度では敵わず発射を終えたチェサレザはトーピードガンをライフルと入れ替える形で格納すると、ほんの一mだけ高度を上げて一番近くの手負いのラビトーゼイテネンに肉薄した。

 機銃を紙一重で躱しつつ迫りくる灰色のALに、駆逐艦の乗組員たちはこわばった表情で待ち受ける。

〈船ってのはこうも遅いもんか!〉

 彼は艦尾をやられつつも懸命に走り続ける駆逐艦をあざ笑うかのように飛び越えながら、ライフルを艦橋目がけてフルオートで撃ちこんでいく。レーダーの先から僅かに二mも離れていないところを飛んでいったために、近くの見張り員や外に出ていた乗員はその轟音に耳をやられると同時に突風に煽られて舞い上がり、海へと落ちる。だがそれが幸運だったかもしれない。何故なら、その一瞬の通過で艦橋は大きく破壊され、崩壊した艦橋の残骸が甲板上に降り注いでいたからだ。あっという間にラビトーゼイテネンが戦闘不能となり、また先頭を行く駆逐艦ベルジェネ=バイオンにグライフが迫っていた。

 クラウナウピアが誇る最新鋭駆逐艦であるデーキシバジタズ級駆逐艦は、特別他国と優れているというわけではないものの、最新の研究をもとにした設計だけあって居住性や燃費にが既存の艦と比べると上昇している。また先頭を務めるだけあって、同国最速の駆逐艦となっている。そんな機動力を売りとするベルジェネ=バイオンも、ALに接近戦に持ち込まれては為す術は無かった。それもヴィエイナ・ヴァルソーが相手ならばなおのことであった……

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