帝都強襲(3)
地上では、ヒルト大佐の懸念が的中しており、四機のALが輸送用の大型トレーラーから起き上がり、塀を吹き飛ばすと宮殿内へと侵入していた。ALは対地機銃やグレネードなどで次々と城内を逃げ惑う非戦闘員達を虐殺して回っており、兵士とAA、ALの集団によってあっという間に敷地内には死体の山が築かれていった。
一方、少数の劣勢な親衛隊と衛兵によって防衛線が繰り広げられている中、ALを確認した一人の親衛隊は、それらのALが自分の知識にない機体であることに気づき急ぎ写真を軍司令部へと送信し問い合わせていた。
「こちらベンルーント軍曹……無い?やっぱり……では新型と?……偽装ですか、なるほど」
報告をしたベンルーント軍曹は電話口で照合の結果を聞き、正体不明の敵ALが新型或いは装甲を換装した特別機ではないかという見立てに納得する。こんな大胆不敵なことをしでかす位だ、自分たちの正体を知られぬように偽装をするのも不思議ではない。だが、人間ならともかく機械である以上ばらして調べれば他の機体サンプルと照合し製造国や企業など遠くないうちに判明するというのに何故わざわざそんな証拠の残りやすいものを持ってきたのだろうか。何かしらの案はあるのだろうが、彼には敵の目論見が読み切れずにいた。
「大佐、ベンルーント軍曹であります。地上に現れました敵ALは照合の結果外装の変更された偽装機かあるいは新型、または少数生産の極秘機体であると思われる模様」
早速その結果を地下にいるヒルト大佐に伝えると、大佐から帰ってきた返事は短かった。
〈ALを全機出動させろ!〉
「わかりました」
通信を切ると、すぐまた別の所へとかける軍曹、彼は大佐からの伝言を伝えると同様にすぐ電話を切った。この宮殿内で四機ものALに対抗できるのは、ALしかいない。今現在も第一宮の尖塔がバズーカランチャーによって吹き飛ばされ、瓦礫となって地上へと降り注いでいる。このままではニベシャ城もあっという間に廃墟と化してしまうだろう。国の象徴であるこの城を異民族による侵略で破壊させるわけにはいかない。刻一刻を争う事態に今か今かと彼はAL部隊の出動を待ちわびていた。
「来たか?」
彼は新たに起きた振動に後方を振り返ると、そこには五機の風変わりな容貌をしたALが城内の奥にある地下格納庫から現れた。
横向きの半円状の頭飾りに口を覆うようなマスク、各所に施されたエングレーブ。シェーゲンツァート製のALにしては珍しく全体を曲線で描かれたデザインをしたALは、まさに皇族親衛隊のみが操ることの許されている専用ALであった。ミダイヤ朝時代の装甲騎士を元にデザインされたその機体は、装飾の施された大盾と重騎槍又はベルドウンという古代の柄の部分の長い大斧を装備しており、接近戦をメインとしたALの中でも異色の機体であるが、それは親衛隊という特殊な性質によるものだろう。射撃兵装はほとんど持たず、唯一右腕に電磁パルスを着弾時に周囲に展開するパルスパレットを撃ちだすパルスキャノンを装備しているだけで、それも装弾数僅か六発に過ぎない。
射撃兵装を碌に装備していないのは、これが始めから周囲に人間がまだ存在していること、市街地で戦うことを想定して設計されているためである。パルスキャノンなら、建物などへの被害は電気周りとパレット着弾地点のみの損害で済むが、当然生身でパルスに巻き込まれれば命を落とすので要注意であった。
「親衛隊だ!」
五機の親衛隊専用ALリガネウォースィンの登場に、敵のAL部隊は驚いたようで初動が遅れてしまった。その隙をついて五機中四機のリガネウォースィンは密集陣形を組み一機は歩兵やAAを掃討するために分離し、残った四機は盾を前面に押し出して前進を始めた。その姿はさながらファランクスであったが、ALという性質上流石にあそこまでの密集は出来ない。それでもかなりの厚い防御を前面に四機は進む。
敵も送れはしたもののすぐに迎撃を始めた。二機がしゃがんでライフルを斉射するが、傾けられた盾に空しく銃弾はへこみを作るだけで貫通することはできない。盾の予想外の硬さに今度はバズーカランチャーを持った機体が前に出てバズーカの弾頭を発射した。両者の間には三百mもの距離があるとはいえ、AL同士の先頭としては近い距離であるため、弾頭は一瞬にして盾に着弾した。轟音と爆風、その衝撃に周りにまだ残されていた数名が煽られて転倒し転がった。
「うわああ!」
衝撃波は二百mほど離れていた軍曹の下にも届き、思わず地面に尻もちをついてしまった。親衛隊機はやられてしまったのだろうか、そうなれば最早対抗手段は無くなってしまう。不安が目まぐるしく蠢く中、爆風から現れたのは三本の重騎槍の槍先であった。漂う煙から一歩踏み出し、四機とも生存していることが確認されると軍曹はホッと胸を撫でおろし自分は安全のため後ずさりしていく。
「軍曹!」
と、背後から声をかけられ振り返ると、二人の衛兵が非常用の荷物と拳銃を手に彼の元に駆け寄ってきて彼に肩を貸した。
「あれは親衛隊のALですか?」
衛兵の片割れがそう尋ねると、軍曹はおもむろに頷きこの場をすぐに離れるように促した。
「親衛隊だ、やられるはずがないさ」
盾に直撃を受けた一機は盾を大きく失い頭部周辺に爆発の影響で損傷を被っているようだが、戦闘の姿勢は衰えているようには見えず、寧ろその無表情な鉄仮面の内側には熱い抵抗の使命をたぎらせているように見えていた。
「さ」
軍曹は健闘を祈りながら衛兵とともに建物の内部へと後退していく。安全な地点が確保できればそこで再び観測と報告を行うつもりだ。
「前へーっ!」
親衛隊所属機甲歩兵隊長エル・ベルグ・フィルローログ少佐は、高らかに前進の指示を下す。予備機を含め僅か十一機しかいない親衛隊のAL部隊の指揮を担う彼は、かつては海兵隊で歩兵として勇ましく戦果を挙げていた勇猛な戦士であり、シェーゲンツァート軍兵士ならまず知らないものはいないというほど名が知られているほどであった。
そんな彼はA兵器科に転属してこうして親衛隊のAL部隊隊長を務めている。恐れを知らぬ彼が率いることで、こんな状況下においても戦意を維持して攻撃の意思を見せ続けていた。四機のリガネウォースィンは地面を踏みしめ断固たる決意をもって進む。例え目の前の敵が多量の重火器をもっていようとも、この武器で相手のコックピットを貫くまで決して止まらぬ。ここが皇帝の住まう城だと知って侵入してきた罪は重いと言わんばかりに。
バズーカの直撃の後も、さらに敵の攻撃は続く。敵は盾を避け足の方に銃口を向けるが、膝まで隠れる大盾は、少し位置を下げれば先が地面を掘り返すほどに下がるためどれも防がれてしまう。
「怯むな!足を止めるんじゃない!」
〈はいっ!〉
戦列はしっかり維持されており、彼は部下の練度に満足しているように口元に笑みを浮かべて頷いている。これならば、目の前のALを倒すことも可能であるはずだ。
リガネウォースィンはフォルムと武装の関係上、性能は中程度であり主力生産機のルスフェイラよりも一歩劣るほどだ。それもそのはず、この機体は元は退役したサイオスを元に改造を施された機体であるのだ。いくら新しいパーツでチューンナップされているとはいえ、ジェネレータ出力は一割も変わらない。唯一優れているのは格闘戦用プログラムと新造された装甲くらいだろう。それでも、ALサイズの銃器を相手取るには心もとないのだが。
百mまで距離を詰めた親衛隊は、足をいったん止めると少佐は息を深く吸い込んで叫んだ。
「全機、突撃ー!!」
その直後、四機のリガネウォースィンは最大出力で地面を蹴り駆け出した。




