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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第四章 空と陸の邂逅
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レイニー・エンド(3)

 愛しい人の名が口をついて出る。銃口が輝くとほぼ同時に巨大な徹甲弾が高速で射出されアルグヴァルの正規装甲が貫かれていき弾かれなかったものは柔らかい内部を切り裂いていった。こうしてリンドは異国の地においてエースパイロットの手に掛けられ名誉の戦死を遂げる……はずであった。

 絶え間ない雨音と銃声に紛れ一発の銃声が轟いた。グライフの右側頭部から左側頭部にかけて、一発の銃弾が駆け抜けていく。粉砕される装甲、内部機械、漏れ出すプラズマの輝きが薄暗い朝に小さな灯を灯らせる。

「何だ!!」

 突然モニタがブラックアウトしたヴィエイナは装置を弄って事態の究明を急ぐが彼女が調べてしまうよりも先にチューフが自動で機を後退させながら被害状況を報告した。

〈九時方向より敵ALの狙撃を頭部に受け頭部大破〉

「なっ!」

 言葉を失う。敵の機体は全て僚機に任せていたはずだ、まさかここにきて新手が来たとでもいうのか。頭部機能はたった一発の銃弾によって完全に破壊されており、モニタの映像はサブカメラによって補われてはいたもののその効果はかなり落ちてしまっていた。

「どいつが!」

 外壁の向こうに滑り込みつつも一瞬でこちらを撃ってきた敵の姿を目にとめる。一瞬だが見えたのは地下道入り口付近に三機のALで、うち一機の指揮官型らしい機がまっすぐライフルを向けていたことからあの指揮官機が狙撃をしたのだろう。どうも地下に見逃していた敵機がまだいたようだ。地上との連携がうまくとれていなかったせいだろう。一旦息を整えつつも彼女はグライフの状況を確かめる。

 状況はあまり芳しくない、頭部が破壊されたことにより損傷した部分からエネルギーやオイル、プラズマの漏出が認められ、それが裂け目から機内にあふれていることが分かった。たかが頭部と思うものもいるかもしれないが、ALは実は頭部や腕を破壊されるとそこからまるでドミノ倒しのように機体全体に被害が広がり最悪大爆発を起こすこともあるのだ。今までリンドが酷い損傷を受けていても無事で済んでいたのは運とアルグヴァルの設計上の安全性のおかげであろう。オースノーツのALがそれに弱いというわけではないが、彼女のグライフは試験機であるため脆弱性が非常に大きいのだ。

 チューフはすぐに頭部付近のシャッターを下ろし冷却材で損傷したパイプやチューブを凍結させた。

「後退!全機後退、基地まで帰投して!」

 突如命じられた撤退命令に彼女の部下たちは困惑するも、頭部ユニットを失っている彼女の機を見て事態を理解し、あっという間に戦線を離脱、急上昇して雨雲の向こうへと去っていった。その後ろ姿を第三小隊の重ヴァルが対空砲で追撃するも空しく虚空へと吸い込まれていくだけであった。

「はあ、はあ……生きて、生きてる……嘘だろ?」

 リンドは赤色灯すら消灯してしまった真っ暗なコックピットの中で現実を受け入れられずにいた。完全に死んでしまうのだと思っていた矢先に敵が突如撤退し自分はどういうわけかこの殆どの機能が使用不能になった大破したアルグヴァルのなかでなんとか生き残っている。銃弾をあの至近距離から撃ち込まれて生き残っているのが奇跡といえよう。計十発の弾丸はコックピットの周囲を破壊しつくしておりコックピットブロックにも被弾はいっていた。だが堅牢なコックピットブロックの絶対防御区画の曲面装甲がかろうじて内部に銃弾を通すことを防いでいたのである。設計者に感謝しなければいけない。

 リンドは通信機からノイズが走っていることに気づき通信装置が生きていることを確認すると味方と連絡を取るべく周波数を合わせる。

「こちらオーセス軍曹、聞こえますか。こちらオーセス軍曹です。誰か、誰か声を聞かせてください!」

 まさか自分がやられているうちにあの三機に全滅せしめられたのではないかという恐怖が沸き起こる。しかし、すぐに返ってきた声に彼は安堵の溜息をつくことになる。

〈ザザザ……オーセスズズズ……生きてザザー〉

「た、隊長!隊長ですか!」

 聞き取りづらいがこの声は間違いなくボルトラロールの声である。リンドは喜びに目を輝かせるとコックピットハッチの解放に取りかかった。当然ながら正規の解放手段では開かないまでに損傷を受けているので次いで緊急時のコックピットハッチをパージする方法を使った、だがそれすら敵わぬほどの損傷を受けているらしく小さな爆発音が聞こえたのみでハッチは開かなかった。

「クソ……冷たい……」

 損傷によって生じた隙間から染み出してきた雨水が彼の額を濡らす。見ると足元付近からも水が流れ込んできているではないか。せっかく助かったのに陸地で溺死なんて避けなければならない。彼は座席の下から挿絵付きのマニュアルを取り出すと頁をめくった。確か脱出方法がもう一つあったはずだ。

「……あー、あったあった!ハッチがある……座席を跳ね上げてベッドスペースの奥」

 リンドは体を固定しているベルトを外すと指示通りにシートの固定具を外して跳ね上げ、直下の休息用スペースに潜ると奥の方にぐしゃぐしゃに押し込まれたシーツを剥がすとエマージェンシーハッチの表記が。再びマニュアルに目を通しレバーを捻った。すると解放音とともに内部に雨音と湿った冷たい空気が流れ込んできた。

「開いた!」

 リンドは雨具と水、食料などが詰め込まれたバッグをさきに放り出すと最後に拳銃ベルトを巻いて自身も外に飛び出した。

「ううーっ」

 仰向けに倒れたアルグヴァルの背中は奇跡的にも大きく空間が残されていたのは背負っていたガトリングシステムのおかげのようだ、彼は地面に地面に飛び降り泥水を盛大に跳ね飛ばすと雨具を羽織って機外に飛び出す。

「んな……こりゃひでえ……」

 そこに広がっていたのは酷い光景であった。

 オルルカン機は完全に破壊され炎上中、マルーグル機は辛うじて形を残していたが両腕を失っておりもはや戦闘には耐えられまい。壁際では三小隊の青い逆三角形の部隊章を肩に記した砲ヴァルが壁にもたれかかる姿勢で上半身を失っていた。そしてその近くでは消去法でヴィレルラル機らしき砲ヴァルが両足を失って地面に臥していたが、折れたキャノンが地面に突き刺さって完全に倒れることを防いでおり、なんともシュールな光景を晒していた。ヴィレルラル自身は無事なようで、開いたハッチの下で頭に手をやって行動不能になった乗機を見上げていた。

 リンドは撥ねる泥も顧みずに、地下道入り口に立つ三機のアルグヴァルの方へと走った。指揮ヴァル、中ヴァル、そして重ヴァル、それぞれボルトラロール機、ジュードル機、メニェ機であった。まず先にボルトラロール機の元へと駆け寄るとボルトラロールは外部スピーカーを用いて現状を話してくれた。

〈敵基地の壊滅には成功したが、こっちも手ひどくやられた。十機中六機が行動不能、四機大破、二機が中破と来た。こっちは飛行型一機から片足をもぎ取ることしかできなかったみたいだな〉

「(損害状況は)どれほどですか!」

 地上に多くいた第三小隊はかなりやられたようだ。だが四小隊はリンドとヴィレルラル機がやられたくらいだろう、そう思っていた。そう決めつけていた。そんな彼に戦争は非情さを心に焼きつけさせた。

〈マルーグル中尉は怪我をしたが軽傷で済んだ、フーラー伍長とオルルカン軍曹は戦死、ヴァロト兵長は無事だが機体はダメだな。ヴィレルラル軍曹も軽い脳震盪を起こしたようだが……〉

 ここで口をつぐんだ。彼の言葉を切る直前の重たい口調に胸騒ぎを覚えた彼は、残りの一人スライ曹長の安否を確認する。

「曹長は!曹長殿は無事なんですかー!」

 頼むから、頼むからどうか無事だと言ってくれ。彼は心の底からそう願った。しかし、ボルトラロールから返ってきた言葉は、苦しかった。

〈曹長は戦死だ、一番機体が酷い……完全にバラバラだ……見ないほうがいいだろう〉

 ボルトラロールはそこで一度スライ機にカメラを映し、そしてすぐに戻した。

「う、あ、そ、そんな……」

 慟哭が彼を地面に跪かせる。この一年近く共に戦ってきた仲間が、最後の声すら聴くことなく、最後の姿すら見ることなく死んでしまったなんて。リンドは泣いた、この豪雨すら何ほどのことはないと感じられるほどに。




 戦争にドラマはある。中にはドラマチックな最期を遂げられるものもいるが、兵士たちの多くは戦記の一行にすら記されることなく死んでいく。スライ・ベルデヘル空軍曹長もまた、死んでいった大勢の兵士たちと同様に、ドラマの一場面もなく、死んだ……

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